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徒花の九龍  作者: 菜種油
プロローグ
4/5

4.人造龍

最後だけ、ほんの少しグロ注意です。

イドロア帝国の北西に位置する連合国、五大連合領。

 

北に位置し、海に面し水産が盛んなイドゥ領。

南に位置し、蒸気機関が発達したオルガ領。

東に位置し、幾つかの山地に囲まれたアニマ領。

西に位置し、鉱石や資源が豊富なスート領。

そして中央に位置し、五大領きっての都市地でもあるノヴェム領。


各領にはそれぞれ統治している領主がおり、かつては各々独立した一つの国家であった。

しかし近隣のイドロア帝国が台頭していくに伴い、その対抗策として五大領の領主達は互いに同盟を組み、現在の連合国へと至ったのだった。

元は独立していたからか、五大連合領の領主は一つに統合されておらず、現在も同盟を組む以前から治めている領主達が各地を管理している。


「《人造龍討伐部隊》の本部があるのは、五大領の中央に位置するノヴェム領です。

此処からノヴェム領へ行くにはオルガ領を通る必要がありますので、まずはそこを目指します」


あれから地下牢を出たレイ達は《九龍》の合成獣実験室の調査を行っていた他の兵士達と合流した。

彼等が言うに、どうやら当時の実験データをまとめた資料やサンプルを幾つか発見出来たらしく、解析の為に本部へ戻る必要があるようだった。

そういう訳で、レイとマチルダ達はまず《人造龍討伐部隊》の本部があるノヴェム領へ向かう事となった。

 

外には最初レイが倒れていた場所に生えた巨大な氷柱やその周りの瓦礫を調べている他の隊員達がいたようで、皆、マチルダ達の姿に気が付くとすぐさま駆け寄ってきた。


「総隊長、もう終わりましたので?」

 

「はい。そちらでは何かありましたか?」

 

「残念ながら特に何も。強いていうならあの氷龍の側に生えていた巨大な氷柱くらいのものですね。

一応採取して解析に回してみます」

 

「お願いしますね。ではもうここに用は有りません。

本部へと戻りましょう」

 

「了解です」


マチルダと部下の兵士がそんなやり取りをしている中、レイは彼女達から少し離れた場所でぼんやりと蒼空を見上げていた。

 

「……まぶし」


暗い地下から出て来たからか、妙に空を眩しく感じたレイはその昏い金の瞳を細め、手のひらで陽射しを遮る。

日が真上にある辺り、もう昼時だろうか。

体感ではよく分からないが、マチルダの話から推察するにレイは()()()から半年近く眠り続けている。

そのせいか、レイとしてはなんだか久しぶりに外を見たような気分だった。


――空はいい。あまりに広大で果てしなく、眺めていると全てがどうでも良くなってくる。

辛い事も悲しい事も、こんな惨めな自分の事も。

 

「おい、何をしている」


ぼんやりと物思いに耽っていると唐突に肩を叩かれた。

視線を向ければ、《人造龍討伐部隊》の兵士の青年がジッとレイを見下ろしていた。

女性にしては上背があるレイよりも幾分か高い身長。

すっと通った鼻筋に意志の強そうな眉毛。

癖のない黒く長い髪は後ろで纏められ、前髪の隙間からは長い睫毛に縁取られた群青色の瞳が覗いている。

静謐(せいひつ)かつどこか中性的な印象を与える容姿だが、その体躯は兵士らしく制服越しにも鍛えられていると分かった。

 

「……そろそろ出発するぞ。

元は軍に所属していたというなら、遅れは取るな」


青年は無愛想にレイへそう言うと、身を翻して足早にマチルダ達の所へ戻っていく。


「はぁ……だる」

 

遅れてレイもそちらに向かうが、その際にレイはこの目の前の彼が地下牢にてマチルダの背後に控えていた兵士の一人だと思い至る。

暗い地下ではさすがに彼等の顔まではよく見えず、今声を聞いて分かった事だが、どうやら中々の美丈夫だったらしい。

青年の後を追って合流すると、もう既に部隊の移動の準備は整っている状態だったようで、マチルダが隊員と共に地図を広げてルートの最終確認をしていた。


「オルガ領に行くルートですが、この帝国とオルガ領の境にあるアドーの森を抜けようと思います。

行きの時のように公道を使うのもいいですが、距離的にはこの森を抜けていく方が近い。

もう昼を過ぎてますし、夜になる前にはオルガ領に入っておきたいですね」

 

「しかし総隊長、この森は近頃人造龍が出現するようになったとの報告がありますが」


「はい、私もそれは耳にしています。

今回は討伐というより調査を目的とした遠征ですし、なるべく戦闘になる事態は避けたいのですが……まぁもし仮に遭遇した場合は氷龍(レイ)に頑張って貰いましょうか」


「はぁ?ちょっと」


マチルダの唐突な無茶振りにレイが思わず口を挟む。


「いいではないですか。協力して下さるんでしょう?

必ず遭遇するとは限りませんし、早速務めを果たす機会を貰ったと思えば、ね?」


「……アンタ、本ッ当にイイ性格と根性してんね。

ったく……分かったよ。やればいいんでしょ」


投げやりにレイがそう言えば、「ではお願いしますね」とマチルダは笑顔で応えた。


「さて。話も纏まりましたし、出発しましょう」

「はっ!」

 

こうして、レイとマチルダ率いる《人造龍討伐部隊》はオルガ領に向けて出発した。





アドーの森――イドロア帝国とオルガ領の国境に跨る樹海であり、森の中は昼間でも薄暗い。


「レイ。何かありましたらすぐ報告して下さい」


「……はいはい」


今のところ近くに動物の気配はないが、このアドーの森では最近かの人造龍の出現が報告されている。

万が一に備え、隊の一番の主戦力であるレイが先陣を切って森の中を突き進んでいく。

そうして森の中腹までやってきた頃――異変は起きた。


「……!」


レイの耳に届いた、微かな物音。

同時に何処からか漂ってくる()えた嫌な匂い。

ざわりと全身の毛が逆立ち、グルルッとレイの喉から獣じみた唸り声が上がる。


「……おい、人造龍がいる。構えてろ」


「え?」


「ちょっと遠いな……どこから来る」


警戒を強めながらレイは気配の位置を探っていく。

レイの警戒に伴い、パキパキと周りの空気が氷結して彼女の足元を薄氷が覆っていった。

その様子にただ事ではないと理解したマチルダ達も直ちに武装準備に入り、辺りを慎重に警戒する。

と、次の瞬間。

 


ギギャアアアア――――――――ッ!!!!!

 


身体の芯から身慄(みぶる)いさせるような絶叫が、森を揺るがさんばかりに轟く。

その直後、まるで地響きのような足音がレイ達の方へ急激に接近し、とうとうその姿を曝け出した。


おおよそ二メートル以上はあるのではないかと思うような巨大な身体に筋骨隆々な四肢。

その胴には虎に似た縞模様の柄が特徴の、まるで鎧のように頑丈な鱗に覆われ、それは長く太い尾の先まで続き、背中には蝙蝠の羽のようなボロボロの皮膜が生えている。

胴から伸びる首にも同様に鱗が生えているものの、一部腐っているのか、ところどころ赤黒い肉が露出している部分があり、首の先にはずらりと鋭い歯が大量に並ぶ、山羊の角を継ぎ接いだ(ワニ)頭が存在していた。


「……っ、ああもう!

いつ見ても胸糞悪くなりますねっ…!」


龍というよりかは、まるで複数の動物を無理矢理繋いだかのような有様のそれに対し、マチルダが忌々しそうに見つめて吐き捨てる。

レイもまた、それを真正面から見つめ――まるで嘲るように笑みを溢した。


「はは…… 本当にこれのどこが“龍”だって言うんだ。

()()()()()、とんだ化け物にしか見えないや。

全く哀れだよ。人のエゴと妄信に付き合わされて、挙句こんな怪物に造り替えられるだなんてさ……」


――だからこれは、あたしなりの贖罪(しょくざい)


「せめて一撃で、その命噛み砕いてやるよ」


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