はじまり
21世紀の日本
『オートマタ推進政策反対!!』
『政府は我々から仕事を奪うな!!』
『オートマタ絶対粉砕!!』
“世界で最も有名な交差点”、“世界で最も混雑している交差点”として外国人観光客の人気スポットである“渋谷スクランブル交差点”で全日本オートマタ反対連合による約50万人の大規模な政府反対デモが行われていた。デモ隊は歩道からも溢れ車道にも出て車の交通妨害となり渋谷の交通網は麻痺していた。
『車道に出ないで歩道に戻ってください!』
『交通の妨げになっています!』
首都東京の治安を守る警視庁の機動隊隊員が拡声器でデモ隊に歩道に戻るように指示をしていた。
デモ隊の警護も兼ねて出動された機動隊だが、想定外の多さに警視庁や付近の警察署、陸上防衛隊第一師団に出動が要請された。渋谷には警官や機動隊員や陸上防衛隊員、青と白の機動隊警備車両やパトカーやODオリーブドラブ色の装輪装甲車が集結していた。
そんな中、2人の機動隊員が雑談を交わしながら職務についていた。
「隊長、何で陸防の…それもクーガーを配備している本格的な戦闘部隊が出動してるんですか?」
「これだけの群衆だ。何かよからぬことを考えている連中が居ると見て寄越したんだろう」
「そんな奴、この国に居るんですかね?」
「…戦後の安保闘争で武器で抵抗した輩も居たんだ。噂だが参加してるデモ隊に銃火器を隠してる情報もある」
「マジですか…にしても凄い数ですね。50万は居るって聞きましたよ」
「政府が進めるオートマタ推進政策でオートマタに仕事が奪われるかもしれないんだ。それで生きている労働者からすると溜まったもんじゃない」
時間が経つにつれ参加人数もさらに増えていく。渋滞に遭った車からはクラクションが鳴り響きデモ隊に対して怒号が飛び交う。それを端にデモ隊と一般人とで乱闘が発生した。
雑談を交わしていた2人の機動隊員の無線機に雑音交じりの無線が飛び交っていた。
「隊長、無線機がうるさくなってますよ」
「乱闘が多発してるんだ。忙しくなるぞ」
タタターン!!
何かが破裂する音が連続して渋谷スクランブル交差点で響いた。
「何だ?陸防が銃をぶっ放したのか?」
「音が鳴った方向に陸防は配置されてませんよ」
『こちらB班!デモ隊の中に銃火器で武装した一団が現れ発砲!班に負傷者発生!現場はパニックになってる!陸防の応援を求む!』
無線機から担当していたエリアから最悪の事態が発生した。
「マジかよ!?」
「隊長の予想が当たってしまった」
「俺たちは一般人の避難誘導をするぞ!」
2人が所属する班はこちらに逃げてくるデモ隊や一般人の避難誘導をしていた。
陸上防衛隊の30人の普通科隊員と6両の90式装輪装甲車が現場に向かっていた。
「武装した一団の情報は!?」
「人数は10人、全員AKを装備しています!」
「90を盾にするぞ!」
到着した陸上防衛隊と武装集団との銃撃戦が始まり武装集団が発砲した7.62mm弾があちこちに跳弾した。
武装集団から火炎瓶が投げ込まれ90式装輪装甲車は火だるまになる。
「火炎瓶被弾!」
「総員降車しろぉ!」
「退避ぃー!!」
陸上防衛隊は被害を出しながらも武装集団との激しい銃撃戦の末に武装集団を制圧。渋谷には多数の消防車両や救急車が到着し消火活動と救急活動を開始した。負傷した一般人やデモ隊、警官、防衛隊員は救急車に乗せられ都内の病院や防衛隊中央病院に搬送された。騒動の首謀者である武装集団も救急車で警察病院に搬送され、それ以外はパトカーか遺体搬送車に乗せられた。
「うへぇ…銃撃戦であちこちボロボロですね」
「しばらく営業出来そうにないな」
「隊長!負傷者がいます!」
「何だって!?」
そこには高校生ぐらいの女性が血を流しながら横たわっていた。
「しっかりしろ!死ぬな!」
「さっきの銃撃戦で跳弾した奴が体内に入り込んでます!」
「誰か!救急隊員と救急車を寄越せ!」
「この子の名前は!?」
「保険証に──」
この日テレビやネットニュースで渋谷で起きた銃撃事件は国内だけにとどまらず世界各地で報道された。
死者45人、負傷者約200人の被害を出したこの事件は“渋谷銃撃戦”として知られるようになった。
この事件が一件で、全日本オートマタ反対連合は大衆や知識人から支持を失い自然消滅した。