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生命

生命の酸化

作者: もずく

練習作。面白くするとか全然考えてないです。とにかく、話を作って終わらせることに注力してます。

命の大切さとは何だ?


こんな問いに解はいるのだろうか。


命の価値とは何だ?


命の順番ってのはなんだ?


命のある必要は何だ?



………俺の目の前で人が一人、死んだ。そこはそれなりに人がいる通りだった。事故?通り魔?テロ?違った。その人は何も無いただの道に転んでいた。最初は誰も気にしなかった。俺もその人から倒れた瞬間は離れていたし、ご老体のようだったからしょうが無いと。


倒れている老人の横を過ぎてく奴には、手を貸してやれよ、と思ったが声に出したところで状況は変わらない。少し歩を早めて手を直ぐに貸そうと思ったが異変はもう既に起きていた。


その人は指の1本すら立ち上がろうとしている様子が無かった。俺の歩が緩んでいく代わりに俺の緊張の糸が急激に張られていった。そして、それは俺以外でもそうだったようで俺より近くにいた奴が近づいて声を掛けた。後、歩いて20歩も無い程度だ。話しているなら声が聞こえないはずかない。でも、しない。


いつの間にか足は止まっていて、ただ様子を見るだけになっていた。話しかけた人が倒れている人の体を揺すり始めた。だけど、反応していない。その後も何度かかなりちゃんと揺らすが、意味が無いようだった。


揺らしていた人も、駄目だと思ったのか体をあお向きにしようとしていた。ここは、すかさず手伝いに入るべきだろう。足を動かそうと思ったが、横から若い男が俺を抜いていって手伝いを始めた。10秒とせずにあお向きにしていた。さらに。その男は脈も測り始めた。


俺にも何か手伝えることはあるはずだ。例えば、AEDを持ってくるとか、救急車を呼ぶだとか。だけど、俺の足は固定されたかのようにその場を動かず。俺の目はその光景から離せなかった。これではただの不審者だ。分かってる。でも、頭はクリアなはずなのに、体はバグったみたいに思い通りにならない。そんな自分に苦心していると、男の声が、その落ち着いた静かな声が耳に届く。


「脈が無い」


息を呑むのを見た。最初に近づいた方が目を丸くしている。その間に俺の横を通り抜けていった男は心臓マッサージを始めた。それだけじゃ無い。周りにいた今の言葉を聞いた大人は直ぐに行動を始める。何人かの人は取り敢えず、道の横に体を動かすべきだと心臓マッサージをしている男に言い、どいて貰った後に道の端に体を寄せる。さらにこの下に、自分達の上着を置いて。


ある女性が、勢いよく近くにあった飲食店の店内に入っていった。その後直ぐにAEDを持って出て来た。体を端に寄せた人達は道を空けるように誘導も始めた。


全員、何かしら何処かで手間取っていた。最初の人はどう対処すれば良いのが分からなかったのだろう。今、心臓マッサージしている人は汗が既にタグダクだ。AEDを持ってきた人は顔面蒼白だし、誘導してる人達も不慣れな様子だった。だがどうだろう。全てが円滑に進んでいた。


俺が居なくても出来た。逆に俺はあの場に入ったら何が出来ていただろう。そう考えていた。ぼーっとしていたがAEDを使うようだ。俺がこの場に居ても邪魔になるだけだろう。顔面蒼白にしていた人が救急車を呼んでいる。


既に俺の出来ることは無くなっていた。


振り返ろうと思った。だけどその時、横でパシャッと音がした。集中していて気付かなかったが俺の後ろでガヤガヤ音がする。俺は振り返るが怖くなり、カメラの音らしきものが違うことを願って横を向いた。そこにはスマホを片手に自撮りをしているこの辺の中学校制服を着た女学生がいた。


このとき何か俺を縛っていたものが無くなった。とは言え、怖いのは変わらない。恐る恐る、後ろを振り返る。そこには数台のスマホと笑っている顔がいくつか見えた。


俺は直ぐにその場を離れることにした。動く前にもう一度、倒れた人を見たら最初に近寄った人が迷惑そうで怒っていて、侮蔑するような目と目が合った。いや、あった気がしただけなのかもしれない。でも……それでも俺はその場から逃げた。


走りはしない。そんな余裕は無い。音が光が、俺の意思を無視して入ってくる。


笑ってる。笑ってる。笑ってる。興味をもってない。笑ってる。心配そう。心配そう。笑ってる。興味をもってない。心配そう。笑ってる。笑ってる。笑ってる。笑ってる。


狂ってる。


「人が倒れたんだって~」

「えっ、まじ?ちょっと見とこー」

「う~ん、時間あるしいっか」


「ちっなんで人がこんなにいるんだ。通りにくいじゃねーか」


「どうしたんだろう?」


「珍しー。写真撮っとこー」


耳を塞いだ。


その後、家に帰るまで視界が白黒になったように感じた。



家に帰って、いつもみたいに誰もいない部屋に、いつも通りただいまは言わずに、いつもみたいに上着を脱げ棄てる。


ただ、いつもとは違い。玄関で座り込み、外は既に暗くなり始めているのに電気をつけない。頭からあの、憎しむような目が離れない。


あの、おかしな世界はいつまでたっても薄れない。いつもなら、どれだけ感動しても、激情しても、10分も経てばどんな緩衝も記憶も薄れるのに。


俺は思った。俺は何もしなかった。それで良いのか?命を笑うよりましだって思いたいのに、それがあの目に留められる。確かに命を笑うのは何歩譲ろうと悪だと思う。


じゃあ……じゃあ助けないのは正義なのか。


絶対に違う。命の重みはそんなものでは無い。


命の大切さとは何だ?


こんな問いに解はいるのだろうか。


命の価値とは何だ?


命の順番ってのはなんだ?


命のある必要は何だ?


分からない。けど、俺はあの光景をきっと忘れられない。



「恐らく、この日記の内容が今回の自殺者の自殺動機の一つになっていると思います」


「そうか。かなり好待遇でホワイト企業と有名な会社から自殺者とは、驚いたが会社外のことで、か」


「はい、さらに。この日記の日付の日から、一週間ほど経ってから自殺者の同僚が医療系への募金を積極的にやるようになったことを複数の人物から証言を取っています」


「少し、日記にしては表現がおかしいから少し疑ったが……話を聞く限り、殺された可能性はかなり少なそうだな」


「はい。上もそう判断しました。自殺の旨も、彼と同じ筆跡でする事を書いてあったので、私個人としても意見はありません」


「そうか。遺体の扱いは、専門の奴と彼の身内でやって貰うとして、俺達が汚した分程度は掃除してから帰るぞ」


「はい」

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