表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
短編集  作者: 影月 潤
5/5

テーマ「タバコ、ジッポライター」


 あたしが付き合うことになる男は。

 必ず、タバコを吸っている。

 単なる偶然なのだと思うのだが、ときどきだけのやつからヘビーなやつから。

 あたし自身は、タバコは吸わない。

 くさいし、煙たいし、服とかにもにおいとかつくし。

 正直、あまり好きではない。

 でも、なぜだろうか。

 あたしが付き合う男たちは、みんな。

 タバコを吸っているのだ。


 最初の恋愛は、大学生のとき。

 同じサークルの先輩に、恋をした。

 向こうも同じだったようで、飲み会で意気投合して。

 喫煙者と禁煙者で分けられたのに、あたしはわざわざ喫煙席に行って、彼の隣りに座った。

 そのときは、タバコの煙は気にならなかった。

 彼と話せるのが楽しくて。

 彼の笑った顔が嬉しくて。

 お酒も入った席で、あたしは。

 はしゃいでいたものだ。

 それから、一緒に行動するようになって。

 デートをして。

 付き合ってください、といわれて。

 ファーストキスは。

 タバコの香りがした。

 そんな歌、あったよね。苦くて切ない香り、だっけ。

 なにせファーストキスだったから、苦さも切なさも感じなかった。

 嬉しくて、温かくて。

 その香りをずっと忘れられなくて。

 あたしは彼がタバコをふかすたびに。

 キスをねだったものだ。


 彼はあたしがタバコを吸ってないことを気にかけてくれたのか、「嫌なら禁煙するよ」といってくれた。

 そのとき、あたしはうなずいた。

 まあ、タバコが好きというわけではなかったし、服につくにおいとかは気になっていたし。

 でも、彼はタバコをやめられなかった。

 彼は、やめたいと思っていたのだろう。

 でも、やめようと思っているのにやめられない彼は、どこか、自分にいらついていたらしく。

 彼とぶつかることが多くなって。

 違うな、と思うことが多くなって。

 あたしたちは、そのまま別れてしまった。



 それから。

 そこそこの人数とお付き合いすることになったのだが。

 その全員が、タバコを吸っていた。

 本当に、タバコを吸っている人の数って減っているのだろうか。

 まあ、やめたくてもやめられないのだろうから。

 本当は、減ってないんじゃなかろうか。

 あたしは、そんなことを考えていた。



 いま、あたしは最近付き合い始めた男とホテルにいる。

 終わったあと、あたしがそのままごろごろしていると、彼は枕を背もたれにしてジッポライターでタバコに火をつけた。大きく息を吐いて、ジッポライターを手の中でくるくる回す。

「……マイルドセブン?」

 その香りに、覚えがあった。

 どこかで聞き覚えのある煙草の銘柄を口にすると、彼は意外そうにこちらを向く。

「なに、タバコ詳しいの?」

 彼はあたしがなぜそのタバコを知っているのか知らない。

 彼はあたしがタバコを吸う男としか付き合ったことがないのを知らない。

「んーん」

 でも、それをいう必要はないだろう。

 そんなの、今の彼には関係ないのだから。

「詳しくなんかないよ」

 あたしは体を起こして彼に覆いかぶさった。

 懐かしい香り。

 そこで、あの曲の歌詞をまた思い出した。

 苦くて、切ない香り。

 ああ、こういうことか。そう思った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ