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10.君と、わたしと(7)

 アパートに戻ったサチは、まっすぐ美桜の部屋へ行ってインターホンを押した。しかし、まだ彼女は帰っていないようだ。

 時刻は十六時を過ぎた頃。スマホには何も連絡はない。

 サチは一度バッグを部屋に置くと、冷蔵庫からスポーツドリンクのペットボトルを取り出してアパートの裏へ向かった。

 犬小屋の中では、ナナキがグデッと暑そうに眠っていた。妙なモーター音がする。不思議に思って小屋を覗いてみると、小さな冷風機が小屋の天井に設置されていた。

 よく見ると、風よけとなっていた段ボールは取り払われ、ナナキのプライベートスペースは風通りが良くなっていた。さらに、下に敷かれていたクッションもいつの間にか冷感マットのようなものに変わっている。小屋の窓も開放されていて、実に快適そうだ。

 それでも暑いのか、それとも夢でも見ているのか、ナナキは時折、尻尾をパタン、パタンと揺らしていた。

 そんなナナキの様子を覗き込んで見るが、起きる気配はない。暑くても眠りは深いようだ。そっと小屋から少し離れると、サチは軒下に腰を下ろした。


 まだ日差しは強いが、ちょうどアパートが影を落としてくれているので比較的涼しい気がする。目の前に広がる田園には、綺麗な緑の絨毯が広がっていた。サチはその光景を見て自然と微笑む。

 ここに越してきた頃は田植えをしたばかりで、水を張った田んぼがキラキラしていて綺麗だった。そして今は一面に美しく緑が広がり、そよぐ風にその葉先を揺らしている。優しく吹き抜けていく風は水と緑の香りがして心地良かった。


「御影さんと一緒に、のんびりこうしてたいなぁ」


 思わず願望が口に出る。何をするでもなく、こうしてぼんやりと二人並んで一緒にいられたらきっと幸せだろう。美桜は退屈だと言うかもしれないけれど。

 サチは一人微笑みながらアパートの壁に背をつけて目を閉じた。ほのかに温かさが背中に広がっていく。


 そよぐ風から感じる緑と水の気配。

 冷風機のモーター音。

 そしてパタン、パタンと思い出したようにリズムを刻むナナキの尻尾の音。遠くに聞こえる蝉たちの声。


 あまりの心地よさに、サチはついウトウトしてしまう。


 ――御影さん、早く帰ってこないかな。


 思いながら、サチは心地良い眠りに意識を預けた。


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