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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

神酒

作者: 空気雲

 昔々、あるところにへべれけ小僧というのがおりました。へべれけ小僧は小僧のくせに酒が大の好物で、よく川で魚をとってはそれをつまみに毎晩一人で宴をしていたそうな。小僧はお酒を自分で作る為に稲作をしており、酒が大好きなへべれけ小僧が作る米は街でも一級品として高値で出回っていた。へべれけ小僧はそのお金で海外の酒を買っては飲み干し、また別の酒を買うということを繰り返していた。いつも酔っ払ってはいるが、日々畑仕事をして自給自足で生活するその姿は好青年のそれで、街の評判も良く、町の者からよく酒の席に呼ばれていた。酒好きのへべれけ小僧がその誘いを断るはずもなく、誘われては呑み、誘われなくても家で呑みという生活を送っていた。

 そんなある日、へべれけ小僧のもとに酒の神様が現れた。

「へべれけ小僧よ。」

「あ、貴方は?」

 なんの前触れもなく唐突に目の前に現れた酒の神にへべれけ小僧は動揺したが、神の放つ存在感のせいか不思議と警戒心はなかった。

「私は酒の神だ。へべれけ小僧よ、そなたは酒を愛してやまないそうだな?」

「はい。水のように酒を飲んでおります。私の血液は酒で出来ていると言っても過言ではないでしょう。」

「そうかそうか、私は嬉しいぞ。今までたくさんの酒好きにあってきたがそなたほどの酒好きもなかなかおるまい。気に入ったぞ、そなたに褒美をやろう。」

 そう言って酒の神様は何やら呪文を唱え始めた。

「ルーコルア、ルーコルア、ケサケサ、イタミノ。」

 するとどうだろう、目の前に小さな瓶が現れたではないか。

「受け取れ、私の一番の酒だ。」

 酒好きのへべれけ小僧は瓶を手にしてみた。小僧の両手に少し余る位の大きさで、中でチャプチャプと酒が波打ってるのが分かる。

「量は少ないが、その分とても美味だ。味わうが良い。」

「ありがとうございます!なんということだ、こんなに嬉しいことがあるか。」

 喜ぶへべれけ小僧。思わず小躍りをする。だが、神様の話は終わってなかった。

「だがな、へべれけ小僧。その酒は少し注意が必要なんだ。」

「注意、ですか?」

「そうだ、その酒はその美味しさ故にまた飲みたくなってしまうという代物なのだ。その欲求は抑え難いもので生きているうちに飲んでしまうとこの酒の虜になってしまい人間として駄目になってしまう。だから飲むのは死ぬ間際にしなさい。」

「はい、分かりました。その日まで大切に保管します。」

「よろしい。ではこれからも頑張りを見ているぞ。」

「ありがとございます。」

 言い終わるが早いか、神様は消えてしまった。

「神様からお酒をいただけるなんて、なんて光栄なんだ。このお酒は家宝として大切にしよう。」

 へべれけ小僧は神様の言いつけ通り、酒を死ぬ間際まで取っておくことにした。


 それからへべれけ小僧は成長して、お嫁さんをもらい、子供も生まれ幸せな暮らしを歩んできた。結婚するお祝いの時も、子供が生まれた時も、家宝の酒は開けず、そしてついに死に際を迎えた。爺さんになったへべれけ小僧は、結局その家宝の酒を飲まないことに決めた。自分の大切な息子にあげることにしたのだ。

「いいか、息子よ。この酒は神様から貰った大切な酒だ。神様からの言いつけ通り死ぬ間際まで飲むんじゃないぞ。わしが飲まなかった分もお前が味わってくれ。」

 そういってへべれけ小僧は息を引き取った。家宝の酒の話を聞いた息子は、どうしてもその酒が飲みたくてたまらなくなってしまった。そして、とうとういいつけを無視して瓶の蓋を開けてしまった。

「そんだけおいしい酒ならきっと一口だけで幸せになれる。そしたらきっと満たされて次が飲みたくなるということもないだろう。」

 父を失った息子は悲しみを紛らわせるようにそう言い聞かせ、おちょこに酒を入れて飲んでみた。するとどうだろう。そのお酒はとても言葉などでは言い切れない程、いや、言い表している余裕があるなら酒を味わうことに専念したいと感じるほどにおいしいではないか。神様の言っていた通り、次が飲みたくて仕方がない。息子は数分もしないうちに瓶を空けてしまった。


 しかし、まだ飲みたい、飲み足りない。

 息子は瓶を逆さにして水滴まで飲み干す。

 だが、まだ飲み足りない。

 瓶の中に手を入れて内側を撫でて、手のひらについた酒を舐める。酒の味がなくなるまで舐める。

 だけどまだ足りない、もっと欲しい。

 そう思って瓶の内側をなでてみるがもう乾ききって何も残っていない。

 飲みたい、飲みたい。

 そうだ!さっき飲んだ酒をもう一回飲めばいい。そう思った息子は包丁で自分の腹を切った。そんなことをすれば血や腹の中のものが出てしまう。もちろん、胃の中の酒も出てくる。息子は地面に広がっていく自分の血を必死に舐めた。美味しい、美味しい。もっと、もっと飲みたい。自分で手を突っ込んで残っている酒を探す。酒かどうかもわからない液体を地面にぶちまけては舐める。次第に息子は意識を失い、死んでしまった。

 

 それ以来村では、お酒には危険な中毒性があるとして厳しく取り締まられることとなった。本来酒にはそこまでの効果はないのだが、自己催眠、プラシーボ効果に加え集団パニックのせいで同じような症状を訴える人々で溢れかえってしまった。そしてそれは遺伝子レベルで刻み込まれ、今でも先祖返りを起こして『アルコール中毒』として発症している。

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