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あの雪の日に  作者: 鬼人の奇人
6/8

夏の闇

夜は、肝試しをすることになった。海岸の端にある洞窟まで二人で行って帰る、というありがちなコースだったが、心が躍った。じゃんけんで二人組を決めると、幸音は隆司という男子とペアになった。




最初の男子二人組が、

「ちぇ、つまんねー」


「なんでお前なんだよー」


とぶつくさ言いながら去っていった。そして、十数分したくらいで帰ってきた。

「意外と怖かったわー」


「お前、俺の腕一瞬掴んだべ」


「はあ?掴んでねーし」



そんなことを話しつつ帰ってきた。幸音が、思っていたより怖いかも、と思っていたら、隆司君が、

「幸音ちゃん、次俺らだよー」


と声をかけてきた。

「うん」


そう返事して、歩き出した彼についていった。




「幸音ちゃんって、どのくらい怖がり?」


隆司は気さくな人だった。笑いながら、あれこれと話しかけてきた。


「趣味何なの?」


「へえー、どんなの読むの?」


「すげえー、俺それ知らねえや。俺が最後に読んだのとかマジで覚えてねえ」


そんな他愛もない話をしていたら、洞窟の入り口についた。

「いよいよだね」



と幸音が言うと、

「そんなに怖がらなくてもいいよ。俺がついてるから」


と真剣な顔で隆司は幸音を見た。思わず目をそらすと、

「ああ、ごめん」


といわれた。

「別に…」


幸音がそういうと、二人は若干微妙な距離感のまま洞窟に踏み込んだ。洞窟の中は真っ暗闇で、時々光る小さな穴からの光のほかは、懐中電灯に頼るしかなかった。洞窟は、思っていたより広く、奥行きがあった。




不意に、隆司が幸音の手を握ってきた。幸音は、びくっとして、反射的にその手をはらった。すると隆司は、

「幸音ちゃん、俺のこと嫌い?」


と聞いてきた。

「別に、そういうわけじゃ…」


「なら、いいじゃん」


隆司はそう言ってまた手を握ってきた。幸音はそれを避け、

「それは、ちょっと違うかな」


幸音が答えると、隆司は、熱っぽく返した。


「何が違うんだ。俺、幸音が好きだ」


そういって、隆司は幸音に抱きついた。

「きゃあ!」


反射的に悲鳴が出る。

「ちょっと隆司君、離して、落ち着いてよ!」


幸音は必死にその手を振りほどこうとしたが、盛りの中学生男子の力には及ばず、隆司は離れなかった。

「大丈夫、俺がいるから、大丈夫だよ」


「隆司君!いい加減、離して!」


「いいや、離さない。大丈夫、僕が守ってあげるよ」


そういって、あろうことか、隆司は幸音を押し倒した。幸音の悲鳴が、洞窟に響いた。




しばらくして、遅い二人を案じた加奈子たちが洞窟まで探しに来て、幸音に覆いかぶさる隆司を発見した。幸音は解放されたが、隆司は、隙をついてその場を逃げ出した。男子連中はいなくなった隆司を探しに夜の海岸へ戻った。加奈子たち女子は幸音を連れて、テントに戻った。




加奈子は、幸音が泣いているのを見て、察しはついたが、何も言わず、幸音のそばにいた。幸音は、ぽつりぽつりと話し出した。それによると、隆司は一線を越えはしなかったらしい。ただ、押し倒して、いろいろなところを触られたらしかった。




加奈子が、そっと手を握ろうとすると、幸音はビクッと震えた。思わず加奈子は、その手を引っ込めた。それもそうだろう。初めて心を開いて出かけた結果がこれでは、だれしもそうなってしまうだろう。




加奈子は、自分がこんな提案をしなければこんなことにはならなかった、と後悔した。自分が、海に誘わなければ、自分が、肝試しをやろうなんて言い出さなければ。こんなことは起きなかっただろう。


「ごめん、幸音」


気が付くと、謝っていた。


「私が、誘わなければ」


「違う!加奈子は悪くない!」


その大声に、加奈子は驚いた。幸音は、涙を流しながら、言った。

「加奈子は、悪くないよ…」


そういって、幸音は、加奈子の胸に泣きついた。加奈子は、黙って幸音を、抱きしめた。加奈子の頬も、いつしか濡れていた。この子をもう泣かせない。そう思った。




海のさざ波は、いつになくむなしく、明るかったテントは、暗がりに沈んだ。重たい、眠れない夜が、そこに在った。日が明けて、隆司はもう近くにはいないと分かるまで、眠るものはなかった。


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