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刀爺伝  作者: 青葉台旭
4/12

4.

『第三中学前』バス停は、学校の正門から少し離れた所にあった。

〈サル〉ロボットの運転するバスが停留所に止まり、学生らがゾロゾロと降車して校門へ歩いて行く。

 僕とカズヤもバスを降りて校門へ向かった。

 校庭を囲むフェンス越しに、僕は、第三中学校の本校舎を見上げた。

 校舎の上に、大きな柿の()があった。

 中学校にしては大きめの五階建て校舎の上に、巨大な柿の()が枝を半球状に広げていた。

 樹高は優に五十メートル、幹の中心から四方八方に広がる枝の先端までの距離もおよそ五十メートルという途轍(とてつ)もなく大きな柿の()が、僕らが通う学校の校舎屋上ど真ん中に根を下ろしていた。

 巨木の根は屋上の(ゆか)(つまり五階建て校舎の屋根)を突き抜け、校舎の五階部分全体にびっしりと根を生やしていた。

 本来なら図書室やら家庭科調理教室やら美術室やらに使われるはずだった五階フロアは、丸ごと何の役にも立たない立入禁止区域になっていた。

 極太の幹から無数に伸びる枝の先端には、赤い柿の実が数え切れない程たれ下がり、それを目当てに何百羽(ひょっとしたら何千羽?)のカラスが集まって、校庭と校舎の上を旋回していた。

 それ程の数のカラスが集まれば鳴き声やら(フン)の被害が(ひど)くて当然……の、(はず)だけど、実際には上空を飛ぶカラスからも、大樹の枝に()まって赤い実を(つい)ばむカラスからも、鳴き声ひとつ聞こえなかった。校庭には(フン)ひとつ落ちてない。

 屋上に巨木を(いただ)いた本校舎の玄関から中に入ると、僕らのクラスで学級長をしているヤマモト君が居た。

 僕とカズヤが「おはよう」と挨拶(あいさつ)をして、ヤマモト君も「おはよう」と僕らに挨拶を返した。

 ヤマモト君は、学級長に選ばれるくらいだから頭が良く成績が上位なのは当然として、見た目もなかなかの美形だ。

 色白の細面(ほそおもて)でサラサラ・ヘアー、目がパッチリとして睫毛(まつげ)が長い。

 当然、女子たち間では非常に人気が高かった。

 ……まあ、たまには天も二物を与えちゃう、って事だろう。

「あいつ最近、何だか元気無いな」カズヤが、廊下を歩いて行くヤマモト君の背中を見送りながら言った。「毎晩毎晩、クラス担任に精気吸い取られてまくってたりしてな」

 ゲッヘッヘと嫌らしく笑うカズヤに、僕は「何の話だよ?」と(たず)ねた。

「まあ、お前は知らなくて当然だよな……前から、こういうゲスな話には無関心だったもんな」

「だから、何の話だよ?」

「聞きたい? なあ? 聞きたい?」と、もったいぶるカズヤ。

「別に。言いたくないなら言うなよ」……と、返す僕を無視して、カズヤは廊下を歩きながら僕に顔を近づけ、小さな声で耳打ちした。

「ウチのクラス担任のフクカワ先生と、クラス長のヤマモト君が()()()()って話だよ」

「できてる?」

「こういう事さ」と言いながら、カズヤが左手を筒状にして、その筒の中へ右手の中指を出し入れする卑猥(ひわい)な動作をした。

「まさか」さすがに苦笑いしてしまった。「よりによって、あの真面目なヤマモト君が、学校で色恋沙汰(ざた)なんて……しかも相手は担任の女教師? ありえん、ありえん」

「だからキョウイチは遅れてる、って言われんだよ……たまには、なぁ……昼休みの教室でピーチク・パーチク(さえず)ってる女子の集団に顔()()んでみろ。お前には良い勉強になるだろうよ」

 そう言い残しカズヤは教室に入った。

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