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刀爺伝  作者: 青葉台旭
10/12

10.

 コーヒーを飲みながら、窓の外の()を見た。

 無数の黒いカラスが枝に止まって赤い柿の実に黒い(くちばし)を突っ込んでいた。

「カラスは大丈夫なんですか?」と、シバヌマさんに聞いてみた。

「あの実を食べても殺さなくて良いのか、って意味かい?」とシバヌマさんが僕に聞き返した。

「柿の()に近づく〈カラスモドキ〉を撃ち殺してるって事は、実を食べちゃいけないのは人間だけじゃないって事ですよね?」と僕。

「まあ、そうだな。カラスは特別だ。柿の()に近づく事を許されている数少ない動物なんだ」

「カラス以外の動物が近づいたら、やっぱり撃ち殺されるんですか?」

「大体は。ただ、虫とか、もっと小さな微生物なんかは対象外だ。キリがないからね。木の周りに年がら年中、殺虫剤やら農薬を散布し続けるっていうのも現実的じゃないし」

「その基準って何なんですか? 柿の()に近づいて実を食べても良い動物と、近づいたら問答無用で殺される動物とを分ける基準って?」

「さあ、それは僕にも分からないな。僕はこの仕事をする前の研修で習った通りにしているだけだから」

「質問ついでに、もう一つ良いですか?」

「どうぞ」

「前々から不思議に思っていたんだけど、この学校の周辺に集まるカラスは、何で()()()()んですか? それと(ふん)……これだけの数のカラスが集まれば、(ふん)の被害も尋常じゃない(はず)なのに、それが全く無い」

「この塔屋(とうや)の上に発振器があるんだ。四六時中、ある特殊な音波を発していてね。それがカラスの生理にある種の影響を与えて、鳴いたり排泄したりを抑制するんだよ」

「じゃあ、ここのカラスは糞尿をしないんですか?」

「さあね。たぶん……()()()()()きたら、音波の届く範囲の外へ出て()()来るんじゃないのかな」

「本当ですか?」

「たぶんね」

 コーヒーを飲みながらシバヌマさんと話しているうちに、紙コップが空になった。

 タナコエさんが居ないなら、こんな場所に用はない、というのが正直なところだった。

 これ以上シバヌマさんの仕事を邪魔しても悪い。

「コーヒー、ごちそうさまでした。僕、そろそろ行きます」

 僕はシバヌマさんにもう一度礼を言って紙コップをゴミ箱に捨て、下り階段へ向かった。

 二、三段、階段を降りた時、シバヌマさんが「ああ、そうだ」と言って僕を呼び止めた。「彼女……タナコエさん、だっけ? 彼女、放課後は週一回しか来ないけど、来た日は学校が閉まるギリギリまで居座るんだよな……まあ、何かの参考までに、ね」

「はあ、そうですか……」

 生徒のプライバシーをベラベラ(しゃべ)るのは如何(いかが)なものかと生意気に忠告した手前、『貴重な情報をありがとう』と言うわけにもいかず、僕は曖昧な返事をして塔屋(とうや)を後にした。

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