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第九十三話 簡単な尋問

 ユリアを捕らえたメルセデスとハンナは、屋敷の一室を借りて彼女の尋問を行う事にした。

 ハンナはまず、当たり前のような顔でユリアの服をひん剥いて下着姿にし、椅子に固定して頑丈な縄で縛り上げた。

 ハンナ曰く『服の下に何を隠してるか分かったものじゃない』らしい。

 実際、短刀や魔石や手裏剣のような物がジャラジャラと出てきたのでそれは正しい判断だったのだろう。

 更に下着まで奪い取ってしまい、代わりに適当な布を被せて身体を隠してやった。

 頭を通す穴が空いてるだけの簡単なものだが、これで一応隠す事は出来る。

 しかし腕や足は隠れないようになっており、ハンナの徹底ぶりが窺えた。

 いや、これでも一応情はかけているのだろう。本当に徹底したならば下着を奪い取って、裸にしたまま尋問をしたはずだ。

 ちなみに、下着の中からもしっかりと武器……というか指先で摘まめるくらいのサイズの刃が発見された。


「注意深いな」

「そりゃね。この子の使う術は私でも分からないのが多くてね。

さっきも言ったけどニンジュツっていうらしいんだけど、それって吸血鬼の技術じゃないんだよ。

フォーゲラの国の隠密みたいなのが使う術でね、彼らは増えたり水の上を歩いたり、壁を走ったり、色々と不思議な事をする人達なの。

とにかく何をしてくるか分からないから、あまりやり合いたい相手じゃないね」

「交戦した事があるのか?」

「過去に何回か、ね。で、ユリアちゃんはそんなフォーゲラの術に憧れて単身向こうの国に渡って修行したの。

フォーゲラに憧れるあまり、背中に変な羽飾りまで着けちゃって……あれ、そういえば今日は飾りがないね」


 ああ、あの無駄な飾りはフォーゲラの真似をしていたのか。

 そう思い、メルセデスはあの飾りにも一応意味があったのかと納得した。

 いやまあ、意味と呼べるような意味ではなく、要するにただのコスプレなわけだが。

 それにしてもフォーゲラのイメージが大分変わりそうだ。

 フォーゲラとは鳥の特徴を持ったファルシュらしいが、メルセデスは直接見た事がない。

 しかし鳥人間という事で、西洋の天使のようなものを何となくイメージしていた。

 だがユリアを見る限り、もしかして結構和風な連中なのか? と思い始めたのだ。

 ハンナはユリアの頬を何度か叩き、目を覚まさせる。

 とりあえず、ここからが尋問の始まりだ。

 さて、ハンナはどのようにして情報を聞き出すのか……。

 いくらユリアが馬鹿でも、『お前の知っている情報を吐け』と言っては、流石に口を閉ざすだろう。


「おはよう。目が覚めた? ユリアちゃん」

「こ、ここは一体……それにアンタは」

「私は『真の王』に賛同する者の一人だよ。この屋敷には情報収集の為に来てたんだけど、とんだヘマをしてくれたね」


 いきなり何か、とんでもない嘘を吐き始めた。

 しかしハンナがどういう方向に話を持っていこうとしているのかは分かったので、メルセデスはとりあえず口を閉ざしておく。


「な、仲間かい!? そりゃあいい、すぐに私の拘束を解いておくれよ!」

「馬鹿なの? 私は表向きはここの護衛って事で来てるんだから、そんな事出来るわけないでしょ。

私がバジルさんから受けた任務はシェーンベルク夫妻の懐に潜り込み、暗殺部隊と協力して彼らの身柄を拘束……その後然るべき場に立たせて彼ら自身の口から、過去の悪事を人々の前で話してもらう事にあった。

そうしてもらう事で『真の王』の正当性を主張し、世論をこちらに傾けるのが本来の計画だったのよ。

暗殺部隊の役目は邪魔な護衛や使用人を始末する為であってシェーンベルク夫妻殺害ではないんだけど……貴方、どうせそんな事も知らないでしょ?」

「な、なんだって!?」


 よくもまあ、こうベラベラと嘘が出るものである。

 しかも、本当にそれっぽく聞こえるのが凄い。

 確かに向こうの立場からすれば、過去にクリストフ・ファイトを暗殺したニクラスに公の場で悪事を暴露してもらうのは有効な一手だろう。

 そうすれば世間の同情を買い、世論を傾ける事が出来る。


「け、けどアタシはそんな事一言も……」

「当たり前よ。そもそも貴方、出撃禁止命令喰らってたでしょ。

極秘任務なんだから、任務にあたる人以外に話すわけないでしょ。

てゆーか、何で勝手に出てきちゃったの? おかげで計画が滅茶苦茶じゃない」

「あ、いや、それは、その……」


 ハンナの言葉に、ユリアは目に見えて狼狽える。

 出撃禁止命令、というのはハンナの想像に過ぎない。

 しかしマトモな指揮官ならば、まずユリアは出さないとハンナは確信していた。

 こんな、重大な情報をベラベラ話しそうな奴に極秘任務など務まるはずがない。

 そもそも彼女は腕はいいが、自己主張が激しすぎて暗殺者としては失格である。

 一瞬で身元が割れそうな奴に暗殺を任せるはずがないのだ。


「ねえ、もしかしてわざと邪魔してる?

それとも実は貴方、王家側のスパイか何かなの?」

「そ、そんなわけないだろう! 私は本当にマックス様の理想に惹かれて……」

「ふうん、理想ねえ……何かはき違えてるだけじゃない? 本当に分かってるの?」

「分かってるさ! 今の貴族上位制度を変え、真の平等と平和をもたらす!

飢えて苦しむ民がいない国にする! それがマックス様の理想だろう!?」


 まずは早速、マックスの理想とやらを聞き出す事に成功だ。

 これがマックス本人の子供染みた空想なのか、それともバジルが吹聴している表向きの理想なのかは分からないが、ユリアはこれを信じているらしい。

 彼女は農民出身らしいので、そういう平等な社会に酷く憧れているのだろう。


「ふうん。最低限の事は一応知ってるみたいだね。

でもまだ貴方の疑いが晴れたわけじゃないよ」

「そ、そんな……私は本当に……」


 ハンナは腕を組み、目を細める。

 いかにもな『私は怒ってます』といったポーズだ。

 彼女は『真の王派なのに、味方に任務を邪魔されて怒っている人』を演じる事で情報を引き出すつもりらしい。

 なかなか上手いやり方である。


「じゃあ次。私達の支援者が何人いて、誰なのかも知ってるよね?

まさかとは思うけど、間違えて暗殺とかしてたら大問題だからね?」

「い、いくらアタシでもそこまではしないさ! ちゃんと全員覚えてるよ!

いいかい、よく聞きな……まずはトライヌ商会のトライヌだろ。それから……」


 実にちょろいものだ。

 メルセデスはユリアの余りの口の軽さに呆れる他なかった。

 面白いように次から次へと『真の王』に協力している有権者達の名前を挙げていく。

 恐らくはトライヌ同様に前の王に愛想を尽かしてこちらに力を貸して抜けられなくなった者もいるのだろう。

 他には、何人かはこちらに手を貸す事で後で甘い汁を吸おうとしているのかもしれない。

 どちらにせよ、この有権者達が向こうの命綱だ。

 いかにダンジョンの力があり、大量の財を持っていたとしても有権者なしで国を纏めるのは難しい。

 それらを全て敵に回したまま国を奪っても、支持者がいないのでは王にはなれない。

 商人や有権者は国を離れ、『国を乗っ取った侵略者』にしかなれないだろう。

 国王を名乗るならば、国を支える有権者という基盤は不可欠……逆に言えば、この有権者を全て取り上げてしまえばその時点で彼らの目的は果たせなくなる。

 そして今、その命綱とも言える情報がハンナに渡ってしまった。

 きっとユリアは、自分が今何をしてしまったのかも理解していまい。

 その後もハンナは言葉巧みに誘導し、次から次へと情報を引き出していく。

 そしてあらかたの情報を聞き終えると、メルセデスにハンドサインを出した。尋問はもういいらしい。

 メルセデスはその指示に応えて再び花の魔物を出し、ユリアに花粉をかける。

 すると再び彼女は夢の世界へと落ちて行った。


「スヤァ……」


 すっかり熟睡してしまったユリアを部屋に閉じ込め、ハンナとメルセデスは外に出る。

 かなり情報を得る事が出来たが、まだ本命が残っている。

 マックスとヴァルブルガ……そしてフェリックスの関係を知る時が来たのだ。

 

「メルちゃん。ニクラスさん達が起きたら念の為、もう一回今のをユリアちゃんにやっておいて。それからニクラスさんに話を聞くよ」

「慎重だな」

「そりゃね。これから聞く情報は下手すれば国を揺るがすかもしれないんだから。

それにフェリックスの安全の為にも、聞くのは私達二人だけにしておきたい。

特にユリアちゃんには絶対聞かれないようにしないと」


 まだ確定ではない。

 しかし確信があった。フェリックスはきっとそうなのだと。

 普通に考えればただの偶然の一致の可能性の方が高い。

 フェリックスの髪の色が両親共に一致せず、親族を見渡しても金髪がいない。

 そしてクリストフの娘を捕まえたのが偶然ヴァルブルガの父だった。

 ただそれだけの事だ……今回の一件と繋げるのは短慮すぎる。

 ヴァルブルガが浮気しただけと考える方が自然だ。むしろ今となってはそうであった方が楽ですらある。

 だがあのベルンハルトがそれを見抜けないものだろうか。

 そう思うとやはり、フェリックスの正体はどうしてもクリストフの血縁という事になってしまうのだ。


 どうか外れててくれるといいんだけど……と、そんな無駄な願いを抱きながらハンナはニクラス夫妻が起きるのを待った。

ベアトリクス「ほう、下着まで取るとは……もしや私と同じ趣味かな?」

ハンナ「一緒にしないで」

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