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第九十一話 意外な強敵

『野生のラスボスが現れた!』コミカライズ版4巻発売しました。

15日には原作最終巻であるノベル版の9巻も発売されます(一部の店舗ではもう発売してるようです)

もし興味があれば本屋で探してみてください。

「さあ覚悟はいいね、お嬢ちゃん。殺しはしないが、骨の一本や二本は覚悟してもらうよ!」


 まるで己の敗北など考えていないかのように、自信に溢れた笑みでユリアと名乗った暗殺者が言い放つ。

 彼女は両手を素早く動かして印のようなものを結ぶと、胸の前で組み合わせた。

 多分あの動きに意味はないのだろうが、雰囲気的に恰好よくない事もない。

 そんな風に呑気に構えていたメルセデスだが、次の瞬間目を見開く事となった。

 何と、ユリアの姿が増えたのだ。

 右に左に背後に……十人以上に増えたユリアがメルセデスを包囲し、武器を構える。

 馬鹿っぽいと思っていたが腕は確かなようだ。

 まさか分身するとは流石に予想外だった。


「これは凄いな……どうやってるんだ?」

「ふふん、鏡の原理を知ってるかい、お嬢ちゃん」


 あ、教えてくれるんだ。

 別に答えを求めたわけではなく、疑問がつい口に出てしまっただけなのだがユリアは嬉々として質問に答えてくれた。

 多分自慢したいのだろう。

 誰でも、自分が持つ凄いものを誰かに自慢したい気持ちというものはある。

 とりあえずメルセデスは突っ込みを入れずにユリアの言葉の続きを待った。


「鏡っていうのは光の反射だ。アタシは水の魔法で空気中に鏡を創ったのさ。

水に自分の姿が映った事くらいはあるだろう? それと同じさね。

そして風の魔法で光の屈折を操作し、アタシの姿を増やしたのさ!

これぞフォーゲラの里で五年間修行する事で得た術、その名も『ミカガミの術』!」


 なるほど、とメルセデスは頷いた。

 水魔法と風魔法の複合か。それによる多重影分身とは恐れ入った。

 とはいえ、攻略できない術ではない。

 メルセデスはテクテクと前まで歩いていくと、ユリアを殴った。

 それは増える前からそこにいた、一番最初のユリアだ。


「ぎゃああああ!」


 案の定ユリアは吹き飛び、他の分身も一緒に吹き飛ぶ。

 ユリアは地面を転がって起き上がり、困惑した顔で叫んだ。


「な、何故分かった! アタシの完璧な分身が!」

「いや、要するに鏡で増えたように見せただけでお前自身が動いたわけではないんだろう?

だったら最初から位置が変わってない奴が本物だ」


 ユリアのやった事は要するに鏡を出して増えたように見せた……それだけだ。

 凄いといえば凄い。とても高度な術であるのは確かだ。

 しかしユリア本人が移動しないのでは意味がない。最初にいた位置を殴れば本物に当たってしまう。

 それを指摘するとユリアは不敵に笑った。


「なるほど……ならこれはどうかな!?」


 そう言い、ユリアは走り出した。

 いや、走っただけではない。

 またしても分身が現れ、メルセデスを取り囲む。


「これは前の分身とはわけが違うよ!

アタシ自身が緩急をつけて高速で走り、更に水の魔法で虚像を残す!

そうする事により虚実入り混じった分身とする! その名も『ザンゾウの術』!」


 これまた凄い技だ。

 確かに本人が動き回っているならば先程のようにはいかないだろう。

 そう思い、メルセデスはハルバードを分身の前に出してみた。

 するとそれから少しして、ユリアがハルバードにつまづいて盛大に転んだ。


「ぎゃあああああ!」


 ユリアは勢いよく転がり、分身が消える。

 地面に顔からダイブしたユリアはフラフラと立ち上がり、涙目でメルセデスを睨んだ。


「な、何故……アタシの完璧な術が何故見破られた!?」

「見破ってはいない。だがお前、つまり私の周囲をグルグル回ってたんだろう?

ならハルバードを置いとけば勝手に当たるかなと……」

「そ、そんな攻略法が……!」

「むしろ何で今まで気付かなかったんだ」


 メルセデスは呆れたようにユリアを見る。

 この女、腕は確かだ。先程の二つの術もメルセデスには考え付かなかったものであるし、使い方さえ間違えなければ恐ろしい武器になる。

 特にミカガミ……水鏡か? そちらは少し工夫すればユリア本人の姿を隠したり、別の場所に写したりする事も可能だろう。

 手品の世界では鏡を利用した様々なトリックが存在する。

 それを応用すれば恐ろしい汎用性を発揮するのは間違いない。


「ええい! こうなりゃ正面突破だ!」


 ユリアはとうとう術に頼るのを止め、正面からの力押しでメルセデスを抜く事を決意したらしい。

 暗殺者がそれでいいのか……と呆れる暇はなかった。

 驚くほどの速度で接近してきたユリアが小刀を目の前で薙いでいたからだ。

 咄嗟に後ろに跳んで斬撃を避けるも、すぐにユリアがその後を追う。

 ハルバードの一撃を屈んで避けながら接近し、一瞬でメルセデスの懐へ潜り込んだ。

 小刀の一撃をハルバードの柄で防ぐも、続く蹴りで吹き飛ばされる。


「ちっ……」


 吹き飛びながら回転し、背後にあった木を蹴って跳躍した。

 ユリアもすかさず地を蹴り、更に空を蹴ってメルセデスへと走る。

 まるで空に見えない道でも存在しているかのようにその走りには迷いがない。

 更に宙を蹴ってメルセデスの横へ跳び、もう一度跳んで背後へ回り込む。

 最大速度ならばメルセデスに劣るだろうが、緩急の使い方が上手い。

 ほんの一瞬だけ音速に迫る速度を出す事で相手の虚を突いている。

 繰り出された短刀の一撃を防ぎ、反撃の蹴りを出す。

 ユリアはそれをガードしつつ肘打ちを放つが、メルセデスに掴まれた。

 そのまま力任せに投げ飛ばすも、ユリアは身軽に空中でクルクルと回り、着地と同時にまたも跳んだ。

 何度も空を蹴ってジグザグに跳び、背後や横に回り込む。

 おい、こいつ普通に戦った方が全然強いぞ。


「ああもう、邪魔!」


 移動しながら背中の羽飾りを捨てた。

 邪魔なら何でそんなのを着けていたのか……優秀なのか馬鹿なのか、いまいち分からない。

 しかし実力はやはり本物だ。

 いつの間にか両手の握り拳の、指と指の間に氷で出来た短刀を持っている。


「はッ!」


 次々と投げられる短刀をハルバードで弾き、重力操作で空へと飛んだ。

 しかしユリアも空を蹴りながらメルセデスを追い、戦場は空中へと変わる。

 まるで上に落ちるように速度を上げながら二人は幾度も切り結び、距離を開けてはまた詰める。

 メルセデスが魔法で風の刃を放つも、ユリアはまるで見えているように右へ左へ跳んで回避し、また距離を詰める。

 その動きはまさに縦横無尽。左右前後どころか上下すら彼女の移動圏内だ。

 俊敏な肉食獣のような動きで、鳥のように空を駆け回る。

 死角に回り込んでから放たれた短刀の一撃をメルセデスは、あえて腕で受けた。

 甲高い金属音が鳴り、ユリアの顔が驚愕に染まる。

 腕輪にしているベアトリクスのマスターキーで受け止めたのだ。いかなる攻撃でもこれを突破する事は出来ない。

 硬直したユリアの腹を蹴り、地上へ落とす。

 だがユリアは一度回転すると、四つん這いになって空に着地した。

 やはり風の魔法か何かで足場を創っているらしい。

 だがダメージは確実に刻んだ。パワーはメルセデスが圧倒的に上だ。


「出ろ!」


 腕輪を嵌めている方の腕を突き出し、魔物を召喚する。

 すると蕾のような魔物がメルセデスの腕の上に現れ、種をマシンガンのように噴き出した。


「うええ!? 何だいそりゃ!」


 吐き出される種の弾丸に仰天しながらもユリアは俊敏に避ける。

 一度風の魔法を切って重力に任せて落下。それでも飛んでくる弾丸を、スナップロールしながら避け、地面に落ちる直前で木に足をつけた。

 限界までバネのように木をしならせ、その反動で跳躍。

 再び空へと戻り、弾丸を潜り抜けてメルセデスの上を取る。

 回転して勢いをつけ、踵落とし。ガードごとメルセデスを叩き落すも、ダメージは浅い。


「今のでも効かないのか! どういう身体してんだい!」


 重力で鍛えたメルセデスの最大の武器はパワーではない。

 重力に慣らす事で磨かれた、常識はずれの耐久力である。

 己に重力をかければ当然重さは増す。常日頃から高い負荷を己に課しているメルセデスには並大抵の攻撃は通じない。

 簡単に言えば、1トンの負荷を毎日受けている相手に1トンの力で攻撃したところで効くわけがない。


(ふむ……こういう小回りの利く相手にハルバードはやはり不利だな。ここは一つ、接近戦を試してみるか)


 戦いというのは基本的にリーチの長い方が勝つ。

 しかしユリアとは相性があまりよくないらしい。

 ハルバードの射程などモノともしないほどにユリアが速すぎるのだ。

 馬鹿だと思っていたらとんでもない凄腕である。

 本人の単純な強さだけを言えばベアトリクスすら超えているだろう。

 なのでメルセデスは入手してより初めて、マスターキーの形状を変えた。

 攻略者はマスターキーの形状を変える事が出来る。

 その機能を使い、ハルバードと腕輪の形を変え、あの小回りの利く相手とも戦えるように手甲へと変えた。


「武器が形を変えた……!? まさかアンタ……」

(流石に気付くか……)

「よく分からないけど凄い武器を持ってるんだね!」

(……こいつが馬鹿でよかった)


 どうやらダンジョンの攻略者だという事はバレていないようだ。

 腕は立つがやはり馬鹿である。

 だが繰り返すが腕は本物だ。

 落ちていくメルセデスに追いつき、二人は落下しながら攻防を繰り広げた。

 ユリアの短刀が手甲にぶつかるたびに短刀が罅割れ、砕け、しかし次の瞬間には新しい短刀を生成している。

 メルセデスの蹴りを避けて短刀を投げ、それを弾いている隙に背後へ。

 全くもって忙しない、気の抜けない相手だ。


 だが参考になる。

 メルセデスはユリアを真似て空を蹴り、彼女の横へ回り込んだ。


「な!?」

「なるほど、こうやるのか。まだお前に比べると少し荒いかな」


 そう言い、驚愕しているユリアの脇腹を蹴り飛ばした。

メルセデス「ところで、術発動前のその印に意味はあるのか?」

ユリア「ない! だが恰好いいだろう!」ドヤァ

メルセデス「………………」

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― 新着の感想 ―
あーユリア嫌いじゃない。むしろ好きです。
[一言] わかってたけど、この物語はやっぱりギャグなんですね。嫌いじゃないです!
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