表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

81/143

第八十一話 退化か進化か

 パラディースとの戦いに勝利したメルセデスはダンジョンの最奥へと足を踏み入れていた。

 そこにあったのは以前にダンジョンを攻略した時と同じような、魔物やアイテムを複製している部屋だ。

 複製している魔物は植物系が大半を占めているが、よく見ると悪魔系の魔物も何体か見る事が出来る。

 恐らくここは植物系と悪魔系で構成されていたダンジョンなのだろう。

 しばらく見て回った後にメルセデスが顔を上げると、待っていたように男の姿が映し出された。

 ツヴェルフ同様に白衣を着た、眼鏡の男性だ。

 外見年齢は三十代といったところだろうか。若々しさは残っているが、それに反して頭の天辺の毛が薄くなっているのが哀しみを誘う。

 恐らくツヴェルフ同様、人類の誰かの姿を模しているのだろうが後世にこんな姿を残されたオリジナルが哀れだ。


「このダンジョンの管理者か」

『その通りです。マスター・メルセデス様。私の事はズィーベンとお呼び下さい』

「分かった。ところでズィーベン、早速だが質問がある。

私は既にダンジョンを一つ持っているのだが、この場合はどうなるんだ?」


 ダンジョンは手に入れる事で鍵に圧縮され、持ち運べるようになる。

 しかしメルセデスは既に一つ持っているのだ。

 この場合新たに手に入れたダンジョンは別の鍵として渡されるのか、それとも統合されるのか。

 それが気になったメルセデスの問いにズィーベンはあらかじめ質問を予想していたように答える。


『別のダンジョンキーとして渡されますが、望むならば統合して一つのダンジョンにしてしまう事も可能です』

「ふむ……」


 意外と融通が利くようだ。

 前のダンジョンキーと別にするか、それとも合わせるか。

 どちらにも利があり、どちらにも不便がある。

 統合するならば、何と言っても管理が楽だ。

 持ち歩くダンジョンキーは一つでいいし、二つ分のダンジョンの魔物を自在に出し入れできる。

 ポイントも統合されるだろうから、今手に入れたダンジョンのポイントを使ってシュタルクダンジョンの魔物を量産する事も出来る。

 帝国が代々受け継いできた王剣なのだからポイントもたっぷり溜めているだろうし、かなり魅力的だ。

 デメリットは、ダンジョンキーという強力な武器を増やす機会を見逃してしまう事か。

 たとえ魔物を出せずとも、絶対に壊れない武器というだけでダンジョンキーは強い。

 今はハルバードとして持っているが、何ならもう一つは盾や鎧などの防具にしてもいい。

 だが統合してしまえばそれは出来ないのだ。


「……別々にしよう」


 少し考えて、とりあえず今回は統合しない事に決めた。

 いざという時の切り札は持っておくものだ。

 ダンジョンを一つと思わせてもう一つ隠し持っていれば、それは戦闘でも有利に働くだろう。

 壊れない金属という事を利用して服の下にでも仕込んでおけば万一の保険にもなる。

 物語などでは使い古された展開だが、ポケットに入れておいたライターだとかペンダントだとかのおかげで致命傷を免れて命拾いする話は多い。

 一つくらい『お守り』があった方が安心出来るというものだ。

 しかし服の下だと魔物を出しにくいので、手首に付けるプロテクターにでもしておくのがいいだろうか。


『かしこまりました。鍵の形状はどうしますか?』

「リストバンドのような、腕に巻けるような形状がいいな。出来るか?」

『お任せあれ』


 メルセデスが要求を出すと、ダンジョンは瞬く間に圧縮されていく。

 やがてメルセデスの要求通りの形状になったダンジョンは彼女の腕へと巻き付いた。


(ちょっと目立つな。とりあえず布を手首に巻いてその上から付け、更に上に布を巻いて隠すか)


 当たり前の話だが金属を直接肌に触れさせるのは冷たいし、あまりいい事ではない。

 なのでまず布を巻き、その上からダンジョンキーを巻いて最後にもう一枚布を巻いて隠せばただのお洒落に見えるだろう。

 これでいざという時は腕で敵の攻撃を弾けるし、不意打ちで魔物を出すという芸当も可能になった。

 ベアトリクスがやっていた、魔物を武具として使うという戦いも研究したいので魔物の種類も把握しておくべきだろう。

 しかしそれらはとりあえず後回しだ。

 それよりまず、優先して知るべき事がある。


「ツヴェルフ」


 管理者ならばどちらでもいいのだが、とりあえず付き合いの長いツヴェルフを呼んだ。

 すると白衣の女性の姿が目の前に映し出され、一礼をする。

 その姿はハゲ頭のズィーベンよりも様になっていた。

 というかズィーベンは何故あんな姿をチョイスしてしまったのだろうか。


「これで私は二つのダンジョンのマスターとなった。

つまり以前言っていた『権限』とやらも増し、お前も多くを語れるようになったはずだな?」

『イエス、マスター。しかしここでは話す事が出来ません』


 以前メルセデスはツヴェルフから、この世界を構成しているものを聞いた事がある。

 この世界にはナノマシンというものが大気中に存在しており、そして自分達や魔物すらもそのナノマシンで出来ている。

 しかしナノマシンとは何なのかを聞こうとした所でツヴェルフの話は中断されてしまった。

 一つのダンジョンのマスターに話せる内容はそこが限界だった……という事らしい。

 ならばダンジョンが増えた今、聞ける内容も増えているはずだ。

 しかしそれを聞く事が出来るのはあくまでマスターのみ。

 すっかり忘れていたが、ダンジョンを圧縮した今、この場にはベアトリクスもいるのだ。


「……圧縮」


 故にメルセデスはダンジョンを解凍し、もう一度その中へと自らを入れた。

 これで周囲に耳はない。

 ツヴェルフも静かに頷き、メルセデスの質問を待つ姿勢を取った。

 何なりと聞いてくれ、という事だろう。


「まずは前回の質問の続きだ。この世界の魔物や生物はナノマシンで出来ている。

ではナノマシンとは一体何なんだ?」

『ナノマシンは神々が造り出した人工の原子です。原子というのは……』

「原子の説明はしなくてもいい。ナノマシンとはつまり、マシンと名は付いているが機械ではない……そう考えていいんだな?」

『その通りです。マスター達は間違いなく有機生命体です』


 メルセデスが懸念していたのは、自分達は実はロボットか何かなのではないか、という事であった。

 ナノマシンといえばSFなどではお馴染みの名称で、大体が目に見えないくらい小さな機械だったりする。

 だがこれで、少なくとも自分達がロボットの類ではない事だけは証明されたわけだ。

 ……ただし、人工物である事も確定してしまったが。


「神々は何故そんなものを……いや、何故そんなもので私達を造った?」

『生物の限界を超える為です』

「限界?」

『かつて神々の世は栄華の極みにありました。

寿命は伸び、失われた四肢すらも再生させ、かつては不治とされた病も克服し……しかし一方で神々は生物として退化し続けました』


 ツヴェルフはそう言い、その表情に僅かに憂いのようなものが垣間見えた。

 それは、メルセデスが初めて見た彼女の感情のようなものだったのかもしれない。

 神……人類がどうなったのかは分からない。

 だがツヴェルフにこのような表情をさせるような末路を迎えたのだろう、という事だけは何となく分かってしまった。


『発達した科学は自ら歩く必要性を奪い、自らの手を動かす意味を失いました。

便利さを求め続けた果てに神は自らの手足を動かす事もなく、ただ考えるだけで全てが事足りるようになったのです』

「それは……運動不足になって死ぬんじゃないのか?」

『それも進んだ科学が解決しました。神はただ生命維持装置の中で生き、コンピューターによる完璧な体調管理の下で生き続ける事が出来たのです。その当時の平均寿命は500年ほどでしょうか』

「……ぞっとしない話だ」

『無論それでは生きていてつまらないので、神々は自らの本体とは別に、自由に動かせる仮の身体を欲しました。そこで脳波だけでリンクして動かせるクローンを造り出し、まるでゲームのキャラクターを動かすような人生を送っていたのです。

生も死も自由自在……死んでもクローンが一体死ぬだけで自らは痛みすら感じない。

そんな生活を続けていたせいでしょうか……神は、気付いた時には手遅れなほどに進化(たいか)していたのです』


 進み過ぎた科学の末路。

 それを聞く事はメルセデスに僅かな躊躇いを抱かせた。

 これでも前世は人間だったのだ。あまり好きではない世界だったが、それでもその先が暗いもので閉じているならば好んで知りたいとは思わない。

 だが知らなければならない。そう決断してメルセデスはツヴェルフに先を話すよう促した。


「どうなった?」

『使い続けた頭部だけが異様に発達し、使わない手足は退化して縮みました。

目も鼻も口も、使わない部分は悉く劣化して意味をなさなくなり……その姿は巨大化した頭部、という、マスター達が見れば魔物と思うようなものに変貌していたのです』

「……それは、生物なのか?」

『…………いいえ。アレは生物ではありません』


 メルセデスの問いに、ツヴェルフは僅かな沈黙の後に生物では無いと断言した。

 人工物であるナノマシンで構成されているメルセデス達を生物と言い切った彼女が、である。

 それほどに人類は生物から遠ざかっていたのだろう……そう思い、メルセデスは顔をしかめた。


『神は……人間は、自ら生み出した文明の利器がなければ生きる事すら出来ない不完全な存在へと変わりました。

寿命を延ばすために遺伝子にまで手を加えたのが原因なのか、それとも成るべくして成ったのか……世界で最も栄えた生物は、世界で最も弱い生物以下の何かに成り果ててしまったのです。

それが、貴方達の創造主であり神と呼ばれる者の正体です』

ツヴェルフ『ちなみに今後も解説などは私がやりますので、登場早々悪いのですが貴方は空気キャラ化確定です。お疲れ様でした』

ズィーベン『ちくしょおおおおおお!』

ベアトリクス(ハゲ中年が私のダンジョンの管理者だった……だと……!?

絶対に美女だと思ってたのに……!)


ちなみに『神』の姿はマンアフターマンの未来の人間のような姿です。

というかモロにそれがモデルです。

SAN値が下がりそうな見た目ですが、あのトンデモ進化は他の考察にはないインパクトに溢れていて結構好きです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
あかん、こういうのは良くないの分かってても話が進むにつれてイメージがマギの金属器で固定されていくwww
[一言] ハゲ中年に対する風評被害なんでや! 『星の旅 次世代』のヒ○カード艦長かっこええやろ!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ