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第七十五話 所有者との戦い②

 ベアトリクスが展開したダンジョンから、次々と花が咲き誇る。

 巨大な食虫植物、にじり寄ってくるラフレシア、木を人型に加工したような人形、天井まで伸びている蔓……どうやらベアトリクスの持つダンジョンは植物系の魔物が中心になっているらしい。

 植物といえばつい最近にフレデリックと戦ったばかりだが、あの時ほど簡単にはいかないだろう。


「しっ!」


 迫り来る蔓をハルバードで斬り、大口を開けて飛び込んできた食虫植物を跳躍して躱した。

 しかし空中で無防備になった瞬間を狙うように巨大な薔薇が左右を塞ぎ、棘を射出して来る。

 これをハルバードで叩き落し、防げなかった棘は重力を外側に発する事で遮断した。

 そして植物が一番集まっている場所目掛けて、ダンジョンから出した使い捨ての火の魔石を投げつける。

 だが食虫植物がそれを食べてしまい、口内で爆発した。

 ……その結果は無傷だ。食虫植物は平然としている。まるで効いていない。


「……っ」

「おや、魔石をプレゼントしてくれるのか? これは有難い。そいつは魔石が大好物でな」


 魔石を食う魔物など聞いた事がない。

 だがメルセデスの知らない事は世界にいくらでもあって、そもそもこの世界は未知だらけだ。

 驚くメルセデスの背後に木人形が跳躍し、咄嗟に固めた防御ごと彼女を蹴り飛ばした。

 飛んだ先では食虫植物が口を開けて待ち構えており、メルセデスは咄嗟に風の魔法で自らを吹き飛ばす事で軌道を変えて地面に墜落した。


「そら、休む暇はないぞ」


 そこに魔物が殺到し、メルセデスは防戦を強いられる。

 戦いにおける多勢と無勢の差は埋めがたい。

 古今東西、戦いというのは数が多い方が勝つように出来ている。

 時にはその不利を覆して、百の兵で千の敵に勝利する名将もいるだろう。

 だがそんなのは極一部の例外であり、基本的には多勢が圧倒的に有利なのだ。

 メルセデスとて、多対一の戦闘を経験していないわけではない。

 グリューネヴァルト邸では大勢の野盗を相手に余裕で勝利を掴んだ事もある。

 しかしあれは野盗共の連携がまるでなっておらず、群れとして機能していなかったからだ。

 一人が十回向かってくるのと、十人が一度に向かって来るのは全く違う。

 連携の取れていない烏合の衆など、一対一を繰り返して撃破していけばそれで済む。それを高速で繰り返せば何人いようが結果は同じだ。

 しかし互いの隙を埋め合い、優秀な指揮官の指揮で襲い掛かってくる敵は予想を超えて厄介な相手となるだろう。

 加えて、魔物一体一体の質が高い。

 視界内にいる魔物の全てが最初の頃のクロにも届くほどの戦力を有しており、弱兵がいないのだ。

 恐らくは長い年月をかけて強い魔物を量産し続けてきたのだろう。

 自然に溜まるポイントだけを考えても、百年以上の時間をかければどれだけ膨れ上がるか分からない。

 加えて、ベアトリクスは恐らく、男囚人や男奴隷をダンジョンに取り込んでいると予想出来る。

 ならば出来る。アシュラオーガ級の魔物の量産すら。

 強兵のみで構成された数の暴力。しかもそれは吸血鬼のように個々の思想や勝手な考えなど持たず、マスターの意のままに動かせるので裏切りや独断専行の心配もなく、死をも恐れない。

 そして替えが利くので使い捨てすら自由自在。

 まさに理想的な軍隊だ。敵になるとこれほど厄介なものはいない。


「くっ……」


 メルセデスの前に瞬間移動の如き速度で木人形が移動した。

 ガードの上から拳の弾幕を打ち込み、メルセデスが吹き飛ぶと同時に高速移動で消え、背後に出現。

 飛んできたメルセデスを蹴り上げ、更にその先に回り込んでダブルスレッジハンマーで叩き落した。

 メルセデスも着地と同時に音にも迫る速度で移動。消えたかと錯覚する速度で木人形の背後をとって蹴りを放った。

 だが木人形はまたも消え、メルセデスの背後から殴りかかる。

 これをメルセデスも高速移動で避けて迎撃。木人形を蹴り飛ばしたが、木人形は地面に墜落すると同時に跳躍してまたも殴りかかってきた。

 見た目は不出来な雑魚モンスターそのものだが、驚くほどに強い。


「そら、どうした? それで終わりではなかろう。

お前もそろそろ本気を出したらどうだ……そのハルバード、ダンジョンなのだろう?」

「……気付いていたのか」

「分からんでか。突如現れた豚の群れ、それに乗じて乗り込んできた腕利き……とくれば、なあ。

この帝都は近くに豚が湧くようなダンジョンなどないし、城壁で囲っている。入り込む隙間などどこにもない。

封石も考えたが、それにしては数が多すぎる。ならば答えは一つよ」

 

 どうやら、ただダンジョンを継承しただけの女ではないらしい。

 高い実力と洞察力、指揮官としての才を併せ持っている。

 ベアトリクスは余裕の笑みで言葉を続けた。


「まだ王族が隠れていたか、それともお前が本当のジークリンデなのか……あるいはベルンハルトの血筋か。それは分からぬが、捕まえてから聞き出すとしよう。

さあ本気を出せ。このまま負けては悔いも残るだろう」

「……そうさせて貰おうか」


 ベアトリクスの言う通り、このままではジリ貧だ。

 魔物一体一体はメルセデスならば問題なく倒せる相手でしかない。

 しかしそれが指揮官の下で一つの『軍』になるとこうまで厄介だとは思わなかった。

 『一人が十いる』ことと『十人が一となる』の違い、確かに学ばせて貰った。


「『解凍』!」


 ならばその連携を崩す。

 メルセデスの号令と共に、ハルバードに封じられていた魔物達が姿を現した。

 全身鎧の、何だか随分久しぶりな出番な気がするベンケイ。

 黒い体毛に覆われた大狼、クロ。

 天井スレスレで飛んでいるのはピーコだ。

 シュフは右手に包丁、左手にフライパンを装備している。もうこいつには突っ込むまい。

 やけにムキムキで気持ち悪いワルイ・ゼリーに、その強化型であるトテモワルイ・ゼリー。

 その他ゴブリンにオーク、後方支援のゴブリンヘクサー。

 そして視覚的嫌がらせのウスイホン・オークとまるで纏まりの見えない集団を召喚した。

 他のダンジョンと比べてうちのダンジョン、少し統一性がなさすぎやしないだろうか、とメルセデスは思った。

 とはいえ、アシュタール(ピーコ)ベーゼデーモン(シュフ)は元々向こうの魔物なので、あちらも植物系のみというわけではないだろう。

 ベアトリクスもそれに気づいたのか、顔色を僅かに青くした。


「それは私が放った魔物か……いや、まさか……。

……違う、そんなはずはない! 偶然だ!」


 ベアトリクスが鉄扇を翳す。

 すると一斉に魔物達が動くが、今度は先ほどまでと異なり集団戦だ。

 連携では負けるだろうが、それならば連携を崩してしまえばいい。

 木人形の行く手はワルイ・ゼリーが阻み、拳の弾幕を受けつつもまるで微動だにしていない。

 木人形の拳は全てゼリーの身体に空しく沈むだけで、やがてゼリーの中に木人形が取り込まれてしまった。


「オンナ……オンナ……」


 股間のモザイクが見苦しいウスイホン・オークは魔物を無視して真っすぐにベアトリクスへと直進した。

 しかし横から飛び込んできた植物にモザイクを切断されてキョセイズミ・オークに退化してしまった。

 クソの役にも立たない豚だ。

 ポイントの無駄なので、もうあいつは量産しないようにしようとメルセデスは心に決めた。


「うおおおおおおおお!」


 何だか妙に張り切っているベンケイは武器を振り回し、一騎当千の活躍を見せている。

 次々と植物を切り裂き、まるで敵を寄せ付けない。


「フランベ!」


 フライパンから炎を発して、変な技で植物を焼き払っているのはシュフだ。

 お前そんな技使えたっけ、とメルセデスは変な顔をしてしまった。

 何となくベアトリクスを見ると、彼女も「え、何アレ」みたいな顔をしている。


「オンナ……オンナ……」


 通常のオーク達が他の敵を無視してベアトリクス目指して走った。

 しかしまたしても横から飛び出してきた植物によって股間の弱点を切断されてキョセイズミ・オークに退化してしまった。

 やはりクソの役にも立たない。オークはもう、キョセイズミだけ量産しておけばいいやとメルセデスは考えた。


「おい、そっちから周りこめ」

「おう!」

「そいつ抑えとけ!」


 一方キョセイズミ・オーク達は連携を取って魔物を確実に倒していた。

 やはりこっちの方が優秀だ、どうしよう。


「クロ!」

「ウォン!」


 メルセデスの号令に応えてクロが駆けた。

 変な魔物だらけの中でクロだけが癒しだ。

 彼の背に飛び乗り、一飛びでメルセデスがベアトリクスへ接近する。

 ベアトリクスを守るように横から飛び出てきた植物を切り捨て、ハルバードを薙いだ。

 これにベアトリクスも鉄扇で応戦するが膂力はこちらが勝る。

 そのまま力任せにベアトリクスを弾き、闘技場の壁へと叩き込んだ。

【ウスイホン・オーク】

オークの上異種のような何か。

対女性時に全ステータスが50%上昇する隠しスキル持ち。

更に相手が女騎士だとそこから50%のボーナス、王族だと50%のボーナスを得る。

つまり姫騎士相手だと普段よりも全能力が150%上昇する。

エルフの姫騎士という役満ならば300%まで上昇。こうなると手に負えない。

しかし男が相手だと萎えて全能力が50%まで低下してしまう。

性欲に支配されており、冷静な判断が出来ない。

後、とても不潔で臭い。


【オーク】

皆大好き異世界系の隠れた名優。

二足歩行の歩く豚。醜悪な外見だがよく見るとつぶらな瞳をしている。

対女性で戦闘力に+30%の補正を得る事が出来る。

男相手でも別に弱体化したりはしない。

性欲に支配されており、冷静な判断が出来ない。

とても臭い。


【キョセイズミ・オーク】

オークの下位種。

通常のオークと違って女相手でも別に強くなったりしない。

戦闘力は低下しているが常時賢者タイムを発動しており、知力に+1000%のボーナスを得ている。

それでも元が馬鹿すぎるので、吸血鬼の一般人より少し賢い程度でしかない。

オークと違って流暢に言葉を操り、意思疎通も可能。

教えてやれば陣形を組んだり戦略を組んだりも出来る。

性欲は消えたが女好きである点は変わっておらず、むしろメスなら何でもよかったオークの時より理想が高くなっている。

意外と綺麗好きであり、悪臭はあまりしない。

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― 新着の感想 ―
[一言] キョセイズミ・オーク以外のオークは赤と白の封石にしまっておけばどうですか?
[一言] >キョセイズミ・オーク こいつらのほうが上位種では? ペットでも獰猛な♂がナニを去勢しちゃったら凄い大人しく賢くなったなんて話を聞いたような。
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