第七話 迷走
ハーレム物とか見てると、一度くらい私も書いてみようかなという気になります。
でもいざプロットを組むと、女の子にモテはじめた辺りで主人公を爆殺してしまいます。
どうしたものか。
それと、感想でのアドバイスありがとうございました。
頂いたコメントを元にした結果、前半はメルセデスが何とか保存出来るチョコを作ろうとして右往左往する話となりました。
素人がネット知識だけで作ろうとしても本格的なものなんて出来ないんや……。
カカオ豆を多めに購入したメルセデスは早速、チョコレートの製作に取り掛かった。
匂いは強烈だが、これは慣れるしかない。
母は『カカオ豆なんてそんなに買ってどうするの』と言っていたが、出来上がったチョコレートを見れば評価も変わる事だろう。
どうもこの世界でのカカオ豆は一部のコアなファンが付いている嗜好品らしい。
匂いが余りに強烈なので好きな吸血鬼は少数だが、これを湯に溶かし、唐辛子などを入れて匂いを消して飲む者もいるという。
普及していない理由が一つ分かった気がする。
吸血鬼は嗅覚も人間より鋭敏だ。あまり強い匂いは避けてしまうのである。
まずメルセデスは野外に設置されているオーブンを使って豆をローストした。
この世界で一般的に使われているオーブンは煉瓦などで造られた野外設置型が主流だ。
焼いている間にそこらの手頃なサイズの丸い石をよく洗い、握力で砕いてヤスリで削り、土魔法の応用で形を整える。
そうして円形のローラーを二つ造り、中央を殴って穴を開ける。吸血鬼パワー万歳だ。
それから鍋の中に細い棒を通してローラーを繋げる。
鍋の底を擦るように回転するのを確認し、それからしばらく細工を加えてローラーの動きなどを調整。
前世の頃にネットで見た業務用の撹拌機を再現してみたものだ。
やがて、とりあえず即席ならこんなものだろうと作業を切り上げた。
いい具合に焼けたカカオ豆の胚芽を取り、皮を剥いてすり鉢へ投入。
入れる前に重さを測って砂糖とのバランスを考えるのも忘れない。
そうしたら次はハンマーで砕く、砕く、砕く。
便利な機械などないので、ここは手でやるしかない。根気のいる作業だが、吸血鬼の体力ならばいける。
ある程度砕いたらすり鉢に移してゴリゴリと削り、液体状になったら次は最も面倒な精錬だ。
これは30時間だったり40時間だったり、機械を使ってやる作業なのだが当然その機械はない。
柔らかな舌触りにする為に70時間以上やるのも珍しくないという。
メルセデスはドロドロになったカカオを先程造った鍋に移し、風の魔力を放った。
新しく創った風の魔法で、その効果は指定した対象を風の力で回転させ続けるというものだ。
ただし余り大きな物は動かせないし、攻撃力も皆無。戦闘に使える魔法ではない。
だが攻撃力を犠牲にして持続力に全振りしたので、効果時間だけは長い。
この魔法を先程造った鍋の中のローラーにかけ、回転させた。
これで魔法の効果が切れるまで、勝手に精錬を続けてくれるだろう。
並行して、半分ほどは精錬をすっ飛ばして湯煎で溶かしてみる。
どちらがよくなるかを試す意味合いを兼ねているが、まあ手間のかからない分こちらは味も落ちるだろう。
その日一日はトレーニングなどをして時間を潰して就寝し、翌日になったところでローラーが止まったので精錬もとりあえず終了。どうやらこの魔法の効果時間は大体24時間といったところらしい。
トロトロになったチョコもどきにミルクと砂糖を加え、ここでもう一度火にかけてドロドロにし、ボウルに入れて冷水に漬けて冷やす。冷水を作るのには氷の魔法石を使用した。
冷やしたものを再度湯せんにかけてテンパリング。温度計が欲しいが、ないので適当に勘でやるしかない。
最後に製氷皿に入れて一口サイズに調整。
本当は板チョコ用のモールドが欲しかったが、それはなかったのでこれで代用する。
購入しておいた箱の中に氷の魔法石を入れて簡易冷蔵庫とし、製氷皿を投入。チョコを冷やした。
しばらくトレーニングをして時間を潰し、出来上がったチョコレートを取り出し、一つだけ口に放り込んだ。
舌触りは前世で食べていた100円チョコレートにすら遠く及ばず、味もまだまだ改良の余地あり。
何かモサモサしているし、口に入れただけで簡単に崩れてしまう。はっきり言って不味い。
しかしとりあえず、チョコレートと呼んでいいだけのものは出来たようだ。
……が、精錬とテンパリングを飛ばした物と出来がほとんど変わらなかった。
所詮素人がネットで見た知識だけで作ってもこんなものである。プロでも難しいものを素人が知識だけで真似た所でうまくいくわけがない。
結局、次からはすり鉢で潰して溶かして固めるだけでいいと結論付けた。
「ま、最初から高望みはせんさ」
誰に聞かせるわけでもない負け惜しみを口にし、出来上がったチョコを紙で包んでクーラーボックス内に保存していく。
その後いくつか作ってみたが、ミルクを入れない方が長持ちするので結局ミルクは無用の長物と化してしまった。勿体ない。
しかしこのままではまだ溶けやすいので、粉になるまで砕いたパンに混ぜ込んで焼き、チョコクランチもどきにする。
どんどん当初目指した物から遠ざかっている気がしないでもないが、要は保存が出来て持ち運べれば何でもいいのだ。
「……失敗は成功の母だ、うむ」
負け惜しみではない。
断じて負け惜しみではない。
◆
シーカーギルドへやって来たメルセデスは、再びシュタルクダンジョンのマッピング依頼を受ける事にした。
今回は依頼で稼ぐ事より、ダンジョンに入る事そのものが目的だ。
目的は主に二つ。まず一つはダンジョン潜りのパートナーを得る事。
メルセデスは現在ソロであり、また仲間を集う気もなければどこかのパーティーに入れて貰う気もない。
余程気心の知れた仲ならばともかく、昨日今日会ったばかりの他人に背中などとても預ける気になれないし、ましてやシーカーは命を対価に金を得る荒くれ者達だ。いつ金欲に目が眩んだ者に後ろから刺されるか分かったものではない。
実際、そういうケースは珍しくないほどに溢れている。
他人は信用出来ない。しかし実際問題、ソロでは限界があるだろう。
今はまだ何とかなっているが、それでも数がいれば出来る事も増える。
メルセデスの手はどう足掻いても二本しかないのだ。ならばまず、好きに使える労働力が欲しい。
だから今回メルセデスは、よさそうな魔物を捕獲する事を目的にしている。
出来ればある程度賢く、手を器用に使えるのが望ましい。
先日捕獲してペットショップに引き渡した狼男のような魔物もいい。躾けてみて分かったが、あれは見た目はともかく基本的には犬だ。
上下関係をしっかり教えてやれば従順に従い、それでいて二足歩行だからか、犬よりもかなり賢い。
靴や服装をしっかり整えた事もあり、今回は前よりも深く潜ってマッピングを行う。ランタンの調子も良好だ。
一階では魔物は出現せず、二階へと降りた所で蛇の魔物から出迎えを受けた。
全長は10mを超えるだろうか。前世で言うとネット上で見たアミメニシキヘビという蛇と同じくらいの大きさかもしれない。
メルセデス目掛けて飛び掛かる蛇の首を掴み、尾も掴んで結んでやる。
固めに結んでやったが、そのうち自力で解くだろう。
更にしばらくマッピングをしていると、今度は大きさにして180cmくらいあるだろう二足歩行の鼠が出現した。
メルセデスは敵の姿を認めると同時に地を蹴り、肘打ちを胸部へと叩き込む。
それだけで巨大鼠は地に伏し、動かなくなった。
(鼠か……二足歩行ではあるが、頭はあまり良くなさそうだ。
それに手先もそんなに器用ではないだろう)
これも捕獲対象外。
メルセデスは倒れている鼠を無視して更に奥へと進んでいく。
しばらく進むと、新たに道を塞ぐ魔物が現れた。
今度は、剣と盾を装備した骸骨だ。牙が尖っているので恐らく生前は吸血鬼だったのだろう。
とはいえ、肉がないのでは吸血鬼のパワーもスピードも残ってはいまい。
カタカタと音を立てながら我武者羅に剣を振り回すのを見るに、知能もなさそうだ。
まあ、知能を言うならば脳がないのに動いている時点で大概あれなのだが、そこはファンタジーあるあるで納得するしかないだろう。
メルセデスは躊躇なく骨を蹴り砕き、持っていた剣と盾を強奪した。
嬉しい誤算だ。よさそうな魔物を探して牙や骨で槍でも造ろうと思っていたのに、まさか武器そのものを持ってきてくれる奴がいるとは。
軽く剣を振り、とりあえず自身の力に耐えられる事を確認。
盾はメルセデスにとって大きすぎるし、何より片手はランタンで塞がっているので捨てる事にする。
剣もメルセデスの身長からすれば大剣と形容していいが、片手で扱えるので問題はない。
だがこれで益々地図が描きにくくなってしまった。やはり荷物持ちを早く確保しなければ。
三階へ降りると、遠くから何やら悲鳴が聞こえて来た。
魔物……ではない。人の声だ。
メルセデスは声の方向へと走り、幸いにも入り組んでいなかったのですぐにそこに到達する事が出来た。
そこで見たのは何人かの吸血鬼が倒れている凄惨な血の海だ。
剣や防具が砕け、中には一目見て明らかに絶命していると分かるくらい酷く損傷している者もいる。
彼等には見覚えがある。先日ダンジョン内で出会った、ベテランと思われるシーカー達だ。
そして、悲鳴の主と思われるのは痩せ細った男だ。防具などは一切身に着けておらず、恐らく周囲で倒れている連中が護衛だったのだろうと推測出来た。身なりからして商人だろうか。
そんな男の前にいるのは身長が2m半を超える人型の怪物だ。頭部からは一本の角を生やし、特筆すべきは腕が六本も生えている事だ。
それぞれの腕に武器を持ち、立派な体躯と相まって凄く強そうな印象を受ける。
(あれはオーガか!)
メルセデスはその姿を記憶と照らし合わせ、本で読んだ魔物の記述と特徴が合致する事で名前も判明した。
オーガ。ダンジョンの最奥などに構え、シーカーの前に立ち塞がる危険な奴だ。
吸血鬼にも勝る豪腕と、生半可な刃など通さない鋼の皮膚を併せ持ち、知能も高く人型の魔物の中では極めて危険とされている。
更に腕が複数生えているものはアシュラ種とされ、オーガの中でも一際危険とされている。
……もっとも、本にはイラストや写真がなかったので確証には至っていないが。
全く、何で絵の一つも描いていないのだと本気で文句を言いたくなる。まさか絵という文化がないはずもないだろうに。まあそれはいい。
問題はそのオーガ(仮)が今、男目掛けて剣を振り下ろそうとしていた事だ。
無論見殺しにする趣味などない。メルセデスは咄嗟に飛び込んで剣の腹を蹴って軌道を逸らし、男を救う。
そのまま剣はオーガ(仮)――面倒だ。もうオーガでいいや――の手から落ち、突然の乱入者にオーガは動きを止めた。
「何者だ……」
どうやらこいつは普通に話せるようだ。
見た目通りの野太い声は警戒の色を滲ませ、小さな乱入者を油断なく見る。
「シーカーだ。マッピングの依頼を受けてこのダンジョンに来た。
どうも捨て置けない事態のようなのでな、勝手ながら割り込ませてもらうぞ」
先程入手した剣を適当に構え、オーガを見る。
相手の腕は六本、武器は奇襲で一つ落としたので五本。
数だけを見ればこちらの圧倒的不利だ。
これをどう対処するかが、この戦いで重要になるだろう。
「愚かな」
オーガは吐き捨てるように言い、剣を振り下ろした。
メルセデスは自身に向かう刃を前に口角を吊り上げ、剣で軽く払って叩き落す。
驚愕に息を呑む気配が伝わり、しかしすぐに第二撃が訪れた。
今度は腕二本での同時攻撃……しかし多ければいいというものではない。
心臓目掛けて放たれた突きは身体を少し動かす事で避けて、相手の腕を脇で挟んで止める。
続けて振り下ろされた刃は拳を掴む事で止め、更に無理矢理に指を開かせて剣を落とさせた。
そのまま零れた剣を強奪して二刀流となり、一度バックステップで距離を開ける。
「これで武器の数ならば三対二だ。結構何とかなるものだな」
「……」
挑発するようなメルセデスの言葉にオーガは何も言わない。
しかし額を伝う汗は言葉よりも雄弁に彼の心境を語っていた。
外見で侮った……とは言い訳にもなるまい。
今までよりも警戒を強め、全神経を尖らせてメルセデスを見る。
最早油断はしない。見た目と一致しない強敵であると理解した。
両者が同時に地を蹴り、剣戟の火花を散らした。
刃と刃が衝突する音が連続して響き、目まぐるしく立ち位置が変わる。
時間にしてほんの五秒程度だろうか。まるで数分にも感じられた攻防の末、一本の剣が宙を舞い、地面に突き刺さった。
「これで二本」
「ぬう……」
とうとう武器の数で並び、二刀流同士の戦いとなった。
再び剣戟が再開され、だが今度は明確にメルセデスが圧倒している。
オーガも何とか食らい付こうと武器を持っていない腕で攻撃を行うが、それに合わせて蹴りを叩き込まれて拳を砕かれ、剣の柄で殴られてへし折られ、まるで太刀打ち出来ない。
再び刃が宙を舞い、とうとうオーガの武器は一つだけとなってしまった。
「一本」
「ぐ……ぐおおおおおお!」
オーガが吠え、これまで以上の速度で刃を振るう。
だがメルセデスはこの僅かな戦いの中で動きを見切ったのか、刃で防ぐ事すらせずに涼しい顔で全てを避けていた。
そして反撃。剣を振り上げ、最後の一本を叩き落した。
そのまま間髪入れずに刃をオーガの首元に当て、動きを封じる。
「勝負あり……だな?」
「……ああ。俺の負けだ」
六本の剣を全て落とし、首に刃を突き付けた。
これでまだ負けていない、とはとても言えまい。
オーガは諦めたように敗北を認め、その場に膝を突いた。
ダンジョンに潜る系のゲームは沢山ありますが、実はその中で私が一番好きなのはTOBAL2だったりします。
敵の前に腐った肉を置いて食べさせたり、ダイナマイトを食べて自滅したり、下層に続く穴の前で寝てたらいきなり敵が出現して、そのままボッシュートしたり……あれは楽しかった。
TOBAL3出ないかなあ(´・ω・)