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第六十話 青さと老猾さと

 向かって来る白装束を前にフェリックスはジークリンデを隠すように前に出た。

 ただ偶然通りすがっただけならば別にいい。このまますれ違うだけだ。

 しかし白装束達は明らかにこちらを目指して進んでおり、穏便に終わるとは思えない。

 更に話し合う気すらないのだろう。彼等は一斉に剣を抜くと、邪魔者であるフェリックスへと殺意を漲らせて走って来る。


「止まれ! そちらの目的は何だ? 金か、魔石か!?」

「語る必要なし!」


 金や魔石を差し出して穏便に済むならば、それも選択肢に入れたのだがやはり違うらしい。

 このままでは無抵抗で斬られるだけだと判断したフェリックスは止むを得ず剣を抜き、場合によっては白装束達と交戦する事を決意した。

 敵の数は五人。フェリックス一人ではやや厳しい数だ。

 しかし、やるしかない。王女に手を出させるわけにはいかないのだ。


「来るというならば手足の一、二本は覚悟して頂く!」


 馬を走らせ、マントをなびかせて加速した。

 今ここにいるのはジークリンデとフェリックスだけだ。

 ならば自分が戦い、守るしかない。

 腹を括ったフェリックスは前進し――と、見せかけて前方に魔法で霧の壁を作り、方向転換した。

 そのまま驚いた顔をしているジークリンデを攫うように抱えて自分の馬の上へ乗せ、ギガンティシュハムスターの口に袋を突っ込んでから全速力で退却した。

 ギガンティシュハムスターは上からジークリンデがいなくなった事にも気付かず前進を続け、隣町を目指して走り続けている。

 フェリックスはまず、この場で最も優先すべきはジークリンデの身の安全であると判断した。

 必要ならば戦うが、それは最優先ではない。あくまで最後の手段だ。

 故にここで選ぶのは逃げの一手。幸い実習が始まってまだ間もないのでスタート地点からそう遠くはない。

 ならばここは学園まで逃げ切り、王女を守る事が重要だ。

 最初の口上など、これから行くぞとアピールするだけのハッタリである。


(やはり追って来るか……!)


 しかしこの程度で撒けると思うほど甘くはない。

 白装束達はすぐにフェリックスの後を追い、馬を飛ばしている。

 だが矢などを撃ってくる様子はないので、少なくとも王女を殺めるつもりはないようだ。

 馬の速度はあちらの方が速い。

 当たり前だ、こちらは二人乗っているのである。馬にかかる負荷が違う。

 だが速度の差はこちらでカバーすればいい。


「凍れ!」


 フェリックスは後ろに魔法で水を放つ事で地面を濡らし、そこに素早く氷魔法を撃つ事で氷の道を作った。

 優れた術者ならば一度の動作で地面を氷漬けに出来るが、派生属性は扱いが難しいのだ。

 父のようにポンポン使える方が異常なのである。

 少なくともフェリックスでは、先に水を出してから凍らせるという二工程を踏まねば出来ない芸当だった。

 しかしそれでも効果はある。追手の馬は足を滑らせて思うように進めず、一気に距離が開いた。

 だがまだ緩めない。

 続けて使うのは、最初にも使った霧の魔法だ。

 追手の視界を遮る以上の効果はないが、やらないよりはマシだろう。

 これで相手がありもしない罠や奇襲を警戒して動きを緩めてくれれば言う事なしだ。


 フェリックス・グリューネヴァルトは天才ではない。

 だが彼は秀才であった。

 この年齢で不慣れながら派生属性を使えるのも、彼の日々の鍛錬あってこそである。

 魔法の属性は火と水で、特に水を得意とする。

 父の扱う地や風でないのは残念だったが、しかし水魔法は汎用性が高い。

 器用貧乏型のフェリックスには良くも悪くも合っていると言えた。



 追手を何とか撒いたフェリックスは無事にスタート地点へと辿り着いていた。

 やはりもう、そこには誰も残っていないがこの先は王都の中だ。ここまで来ればほぼ安心と考えていい。

 だが最後まで油断はしない。無意識のうちに緩みかけていた意識を引き締め、フェリックスは馬を王都へと進ませる。

 勝利を確信した時こそ、最も危険なのだ。

 必要なのは最後まで気を緩めない事である。


「おや、まだここに生徒が残っておったか」


 声が聞こえた事で、フェリックスは反射的に警戒の姿勢を見せた。

 だが声の主が自分の知る人物と知って安堵する。

 そこにいたのは飄々とした老人……フレデリック学園長であった。

 何故学園長がここに……?

 そう疑問に思うものの、そんな事は後で聞けばいい事だと思い直した。


「学園長、いい所に! 大変なんです、白装束の妙な連中が殿下を襲ってきました!」

「ほ。それはそれは……穏やかではないのう」

「恐らく帝国の手の者でしょう。じきに追いついてきます」

「ふむふむ」


 フレデリックは、不気味なほどに落ち着いていた。

 流石は学園の長といったところか。この程度では動じないという事なのだろう。

 しかしフェリックスは何故か、その姿に頼もしさよりも薄気味の悪さを感じていた。


「ともかく、すぐに王都に入りましょう」

「まあ落ち着くがよい。茶でも飲むかね?」

「何を悠長な事を!」


 今は落ち着いているような場合ではない。

 確かにどんな時も冷静であるべきだとは思うが、学園長のこれは冷静とは言わない。

 ただ時間を無駄にしているだけだ。

 冷静である事と何も考えない事は全く別である。


「最近よい茶葉が入っての。まあゆっくりするといい。

どれ、わしが淹れてやろうかの」

「学園長! 僕の話を聞いていましたか!?」

「うむ聞いておるよ。敵国の追っ手が迫っておると……それは大変な事じゃ。大変、大変……」


 口では大変と言いながらも、やはり動く様子を見せない。

 のんびりと、鞄からティーカップを出すその姿はただのボケ老人そのものだ。

 これにはさしものフェリックスも苛立ちを感じた。

 こうしている間にも敵は近付いてきているのだ。いつまでも留まっているわけにはいかない。


「もういい! 失礼します!」


 しばし悩んだ末、フェリックスはこの場を離れる事を決めた。

 学園長の事が心配でないわけではない。

 しかし優先すべきは王女の安全である。

 それに敵の狙いがジークリンデならば、学園長は無視されるだろうという考えもあった。

 しかしフェリックスを乗せた馬が駆け出そうとしたところで、その行く手を突如生えた巨木が遮った。


「これは……!?」

「ほっほっほ、そう急がんでもいいじゃろう。若い者は短気でいかん」


 道を塞いだのはどうやら、フレデリックらしい。

 植物を生やす魔法などフェリックスは聞いた事もないので、何かしらのアイテムを使っているのかもしれない。

 だが重要なのはそこではない。

 何故邪魔をしたのか……大事なのはそこだ。


「何のつもりですか、学園長……」

「これは儂が昔、秘境を旅していた時に見付けた植物でのう……。

不思議な事にこの植物は一瞬で成長したり種に戻ったりするんじゃ。

あるいは、一種の魔物なのかもしれん。儂はそれを自在にコントロールする方法を長年の研究で見付け出した」

「そんな事は聞いていません! 何故邪魔をしたのかと聞いているのです!」

「ふむ、何故と……何故かのう……はて、何故じゃったか……」


 ひょっひょ、と笑いながらフレデリックはフェリックスの言葉をはぐらかす。

 彼は少し考えるように沈黙し、やがて思い出したように手を打った。


「おお、そうじゃ。最近よい茶葉が入っての。まあゆっくりするといい。どれ、わしが淹れてやろうかの」

「~~~ッ!!」


 ……このボケ老人!

 フェリックスは既に苛立ちが限界に達していた。

 普段ならば笑って流す事も出来ただろうが、今は場合が場合だ。

 最早悪意を持ってやっているとしか思えない。

 だがフレデリックの嫌らしいところは、わざとなのかそうでないのか判別出来ない事だ。

 ただボケているだけなのか、それとも明確にわざとやっているのか……それが分からない。

 そこには、『学園長が敵に手を貸すはずがない』という思い込みもあったのかもしれない。

 フェリックスは真面目な男だ。そして、真面目故に踏ん切りが付けられない。

 『敵ではない可能性』があるだけで、ここでフレデリックを強引に排除するという選択肢を取れないのだ。

 もしもここにいるのがメルセデスかベルンハルトならば、こんな老人の絡め手に惑わされたりはしなかった。

 悪意の有無など無関係に『邪魔だから』という理由で攻撃して潰していた事だろう。

 敵か味方かなどは些細な問題で、実際に現実問題として邪魔をしてきたならば、もうそれは味方であろうが『無能な味方』という名の敵なのだ。

 フェリックスには、その決断が出来なかった。

 何故なら彼は本質的に真面目で、そして良識のある至って真っ当な男だからだ。

 判断力が悪いわけではない。頭もある程度は切れるし、内心では既にフレデリックが敵と手を結んでいる可能性に思い至っている。

 だが『もしかしたら本当にボケているだけかもしれない』。『何か策があって演じているのかもしれない』と、そう考えてしまう。

 そしてそれが、彼の致命的な弱さであった。


「……青いのう。時間切れじゃよ、フェリックス君。

王女を彼等に引き渡してもらおうかのう」


 結局フェリックスがフレデリックを敵であると確信したのは、他でもないフレデリック自身の口から告げられてからであった。

IF:もしメルセデスだったら


爺「最近よい茶葉が入っての。まあゆっくりするといい。

どれ、わしが淹れて……」

メルセデス「一人で飲んでろ。行くぞジークリンデ」

この塩対応である


爺「これは儂が昔、秘境を旅していた時に見付けた植物で」

メルセデス「そうか」

コマンド:拾う

アイテム→使う:巨木

システムメッセージ『巨木で学園長を殴ります。よろしいですか?』

ニア はい

    はい

    はい


メルセデス「ふん!」

・メルセデスのこうげき! フレデリックに999のダメージ! フレデリックをたおした!

・これはいい丸太だな……。

・メルセデスは秘境の植物を手に入れた!

・メルセデスは56000エルカを手に入れた!


ベルンハルト「お前に足りないのはこういう決断力やぞ」

フェリックス「…………」

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[一言] 拾って殴れてたら苦労はないんすわ
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