第四十八話 一件落着?
フェリックス襲撃より一朝が暮れた夜。
メルセデス、ジークリンデ、ハンナ、フェリックスの四人はメルセデスの部屋に集まり、件の事で話し合っていた。
あの白装束は無力化した後にハンナの部下達が引き取り、尋問にかけたという。
また、他にも周囲を張っていた数人の白装束を捕縛しており、ハンナが確認した限りではもう学園に敵はいないという。
全てを捕縛したわけではない。
少数を残して敵が撤退してしまったのだ。
ハンナ達が捕まえたのは、その残された少数の隠密兵だけである。
「それで伯母さん、奴からは何か聞き出せたか?」
「一応情報は搾り取ったけど、既に知っている以上の情報は持ってなかったよ。
あえて言うなら隠密隊の目的はジークリンデ王女の暗殺ではなく捕獲だったって事くらいだけど、それももう過去の事だしね。
今回の事も本当に、ベルンハルトの影響力を落す為のものだっていう情報以外は与えられてないみたい」
メルセデスの問いにハンナは困ったように言う。
今回捕らえた白装束は敵の隠密兵の中では小隊長クラスで、そこらの雑魚とはレベルが違う。
ほぼ不意打ちだった上に多対一だったから楽に勝てたものの、ハンナの初撃を回避するだけの技量はあったのだ。
だから重要な情報を持っていると思ったし、ベルンハルトもそれを期待してフェリックスを囮にした。
だが結果は振るわず、出て来たのは古い情報ばかりだった。
「切り捨てられた、と見るべきか」
「はい。今回のベルンハルトの影響力を落す作戦は元々、殿下の誘拐とセットで行うはずのものでした。
殿下を攫い、国内で最も厄介なベルンハルトの発言力を落す事でイザークが長く玉座に居座る様に仕向け、そして機を見て殿下に王剣を渡らせてイザークを玉座から落とす。
そうする事で殿下とベアトリクス帝国が仲良く悪者をやっつけて、殿下に恩を売り、戦わずして実質的にオルクスを属国にする。それが敵の目論見です」
ジークリンデの言葉にハンナが説明を入れる。
敵側の狙いはベルンハルトが推理したものだが、凡そ間違いはないだろうとメルセデスもハンナも思っている。
そして今回捕らえた白装束から搾り取った情報で推理が正しかった確証も得た。
だが既にベルンハルトが見切っていた以上、それは既出の情報でしかなく答え合わせにしかならない。
つまり、聞き出せた情報は実質的に何もないようなものであった。
「肝心の殿下を手に入れられなかった以上、この作戦は既に瓦解しています。
残念ながらあの白装束は、他の幹部が逃げる為の囮に使われたと見るべきでしょう。
他の隠密兵は恐らく今頃、撤退を終えていると思われます」
「一手遅かったという事か」
「いえ、一手早過ぎました。敵が動く前にその出先をベルンハルトとメルちゃんが潰してしまったので、敵は退かざるを得なくなったんです」
そう言いながらハンナは頬を膨らませてメルセデスを恨みがましそうに見た。
知らなかったとはいえ、ハンナの任務を最も邪魔したのはメルセデスである。
存在そのものが怪しすぎてハンナを混乱させ、更にハンナより先にイザークの正体を貴族達の前で暴露して捕えてしまった。
無論国の英雄である事は間違いない。褒められるべき事だ。
ハンナが本来やるべきだった事を代わりにやったのだから、それを恨むのは筋違いだとハンナも理解している。
しかし一方でメルセデスが迅速に動きすぎたのが原因で、敵の隠密部隊の幹部クラスを捕まえる暇もなく、計画を前倒しにしなくてはならなくなったのも事実であった。
勿論敵の計画はこの時点で崩壊しているので、逃げるのは当たり前である。
しかしハンナに落ち度がないわけではない。
彼女がしっかりとベルンハルトと連絡を取り合ってメルセデスの正体を把握していれば迷走などしなかっただろうし、打ち合わせをした上で共闘する事も出来た。
彼女もそれが分かっているから複雑なのだ。
「一応抗議文も送りましたが、知らぬ存ぜぬを通されて終わりでしょう。
ベアトリクス帝国の者と分かる証拠もありませんでしたし」
「待て。襲撃のタイミング的にAクラスに内通者がいるはずだ。そちらはどうなっている?」
「もう捕まえたよ。殿下の取り巻きいたでしょ? あの中の一人がそうだったから、『転校』させておいた。
……でもねえ、なーんかアッサリすぎるんだよねえ。
撒き餌にでも引っかかったみたいでモヤモヤする」
Aクラスには襲撃のタイミングを指示していた内通者がいた。
メルセデスはそれをハンナだと思い、ハンナはメルセデスだと思った。
だが実際はどちらでもなく、全く関係のない目立たない場所から密偵が出てきてしまった。
まあ、密偵なのだから目立つわけがない。当たり前の事だ。
しかしハンナはこれに納得出来ていない。
密偵がいると思って探したら本当に密偵がいた。喜ぶべき事だ。
これで学園内から敵を排除出来たのだと考えていい。
しかしハンナの勘が告げるのだ、『まだ油断するな』と。
「……その……何か、僕の知らない所でえらい事になってたんだな……」
そして今回巻き込まれてしまったので、話し合いに参加させられたフェリックスは顔を青くしていた。
何もかもが初耳で、自分がここにいていいのかと気後れしてしまう。
王剣の正体がダンジョンとか何それ。今初めて知りました。
ジークハルトがジークリンデで影武者が本物で? ややこしくて意味が分かりません。
ハンナおばさん、何で十一歳の子供に混じって授業受けてるんですか? ご自身の年齢考えて下さい。
イザーク王が偽物で国王一家も偽物? あの噂本当だったんですね。
そしてもう父と妹がフルボッコにして処刑済み? どういう事なの。
「フェリックス君が気に病む事じゃないよ。子供はこんな事に本来関わるべきじゃないんだから。
むしろ巻き込んじゃった事を私が謝らなきゃいけないくらいだよ」
「し、しかしメルセデスは……」
「この子は参考にしちゃ駄目」
何やらハンナから不当な評価をされている気がしないでもない。
ともかく、学園から敵がいなくなったなら何よりだ。
これでようやく学業に打ち込めるし、結果論ではあるが王族に恩を売れたのは大きい。
これならば学園を卒業した後に、他のダンジョンを探す際に力になってくれるだろう。
勿論今のうちにグリューネヴァルト家の力で他のダンジョンの情報も集めるつもりだ。
とはいえ、今のままでダンジョンを制覇出来ると思うほど自惚れてはいない。
まずは基盤固めだ。焦る必要はない。
今まで何百年も制覇されなかったものが数年放っておいただけで先を越されるものか。
学園に通うこの七年間で伸ばせるだけ自らの力を伸ばす。そうしなければダンジョンの制覇どころか、ベルンハルトに勝つ事すら難しいだろう。
「ハンナさん。聞きたいのだが……僕はやはり、父上の子ではないのか?」
「……敵に言われたの?」
「ああ。いや、本当は自分でも薄々思っていたんだ。
僕は父に全く似ていないし、髪の色も違う。だから……もしかしたら、母上が他の男との間に作った子供なのではないかと……ずっと思っていた」
「フェリックス君のお母さんというと、ヴァルブルガさんだよね。
浮気なんてする吸血鬼には思えないけど……あー、でも旦那があれじゃ浮気したくなってもおかしくないかなあ」
どうやらフェリックスの母はヴァルブルガというらしい。
誕生会で一度見た、桃色の髪の女性がフェリックスの母だったはずだ。
見た目は可憐な夫人だったが、名前は随分と雄々しい。
人が乗り込む巨大ロボットの名前だったとしても違和感がなさそうなくらいに格好いい名前だ。
合体機神ヴァルブルガ、地球の未来の為に発進!
「そっちは調べた事ないからなあ……というか、いくら弟のお嫁さんだからって敵でもない相手のプライベートなんて調査しないし……」
ハンナは腕を組み、困ったように言う。
実際のところ、フェリックスが浮気で出来た子供だったとしても違和感はないのだ。
ベルンハルトはあんな性格だし、妻に愛など当然向けない。家族サービスもしない。
いくら待遇をよくしようが、それでは浮気されても文句は言えないだろう。
少なくともハンナ自身はベルンハルトのような夫は御免だと考えている。夫があんな男だったら今頃離婚していただろう。
「まあ、髪の色が両親と違うっていうのは珍しいけど、あり得ないわけじゃないよ。
例えばお婆さんとかお爺さんとかの血でそうなる事もあるっていうし」
「そ、そうかな」
「うん。大丈夫だよ、きっと」
ハンナは笑顔でフェリックスを勇気付け、肩を叩く。
それから今回の話し合いは終了となり、各自は自分の部屋へと戻った。
それを見送り、メルセデスと二人だけになった部屋でハンナは天井を仰ぎ見る。
「メルちゃんどうしよう。ヴァルブルガさんのご家族に金髪って一人もいないんだけど」
「おい」
そしてサラリと、フェリックスが聞いたら失神しそうな爆弾発言を投下した。
~尋問中~
ウサちゃん「…………」
※今日はシュフがいないのでウサちゃんが料理中
料理「テケリ・リ、テケリ・リ……」ゴゴゴゴゴ……
白装束「おい待て、何か動いてるぞそれ……匂いやばいし、鳴き声発してるし、それに見てると何か背徳的な気分になるというか、正気が削られていくと言うか……。
おい冗談だよな……まさかそれ、俺に食わせる気じゃないよな!? おい、やめろ! おい!」




