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第四十五話 魔法の仕組み

 狩猟祭を間近に控え、メルセデスに接触して来たのは『雷鳴』派だけではなかった。

 次に接触を試みて来たのは『螺旋』派だ。

 彼等はメルセデスが食堂で夜食を取っている時に、突如として乗り込んできた。

 それはまあいい。いや、全然よくはないのだがこの際大目に見よう。

 だが問題はその登場の仕方と、何よりも珍妙な恰好にあった。


「フハハハハハハハハハハ!!」


 入口から馬鹿のような高笑いが響き、そこから現れたのは何と馬であった。

 馬の上には直立する長身の男が立っており、食堂にいた生徒達の何事だという視線を一身に浴びている。

 身体は鍛えられており筋肉質だ。

 それでいて決して過剰に筋肉を付けているわけではなく、適度に引き締まっている。

 上下黒のノースリーブの変な衣装を着ており、上からは真紅のマントを羽織っているがとてもダサい。

 頭には茶色い、グルグルと螺旋した変な髪型……? を模した兜を着けている。

 端的に言えば、それはまるで茶色のソフトクリームのようであった。

 何で頭にウ……ソフトクリームを乗っけているのだろうか、あの男は。

 顔立ちは悪くないが、ハンサムというわけでもない。

 彫りの深い男前な顔をしている。しかし奇抜な恰好が折角の素材を台無しにしていた。

 男を乗せた馬はやがて茫然としているメルセデスの前で停止し、男を振り落とした。

 落とされた男は潰れた蛙のようなポーズで床に倒れたが、しかしすぐに立ち上がってメルセデスを見下ろす。


「小娘。貴様がメルセデス・グリューネヴァルトだな? 俺はジクストゥス・シェーンベルク。

シェーンベルク侯爵家の長男にして、いずれシェーンベルク領を継ぐ男よ。

年齢は今年で二十! 素行の悪さが原因で留年する事二回!」


 また変なのが来たなあ……。

 そう思いながらメルセデスは、冷めた眼で男を観察する。


「喜べ小娘。貴様は我が『螺旋』派に加わる事を許された」

「お断りします」

「…………」


 即答で断り、こんなのが派閥のトップなのか、と内心で呆れた。

 まあ『雷鳴』と違って、派閥のトップ自らが出て来たのは好印象か。

 だが折角のトップがこれでは逆効果としか言いようがない。


「喜べ小娘。貴様は我が『螺旋』派に加わる事を許された!」

「言い直してもお断りします」

「……今なら、俺とお揃いのユニフォームもあるぞ?」

「いりません」

「兜も付けるぞ?」

「いりません」


 塩対応で勧誘をことごとく切り捨てる。

 するとジクストゥスは目に見えて落ち込み、食堂の隅まで行くとその場で体育座りをしてしまった。

 豪胆な男かと思いきや、一転してウジウジして鬱陶しい。

 すると取り巻きが慌てたように言う。


「ああっ、ジクストゥスさんがまた落ち込んだ!」

「何て事をするんだ! あの吸血鬼(ひと)、馬鹿だけど打たれ弱いんだぞ!」

「そうだ! 馬鹿だけど!」

「センスださいけど繊細なんだ!」

「頭にウ〇コ乗っけてるけど傷付きやすいんだぞ!」

「えぇぇ……」


 本当に何であんなのが派閥のトップをしているのだろう、とメルセデスは心底呆れた。

 やはり侯爵家長男の名はそれだけ絶大だという事か。

 ともかく、あんなのと仲間と思われたくないし今後万一どこかの派閥に入る事があっても、あそこだけは避けようと心に誓った。

 何よりユニフォームがダサい。


「ジクストゥスさん、やっぱその兜がいけないんスよ。もう捨てましょうよそれ」

「何を言う! これは古文書から発見された由緒正しき神の髪型だぞ! ペガサス昇天盛りというのだ!」

「髪のボリューム足りないからって兜作ってまでそれにする必要あります? てゆーか色変えましょうよ」


 取り巻きと漫才染みたやり取りをするジクストゥスを無視して食事を平らげ、食器を食堂のおばちゃんに渡す。

 おばちゃんとはいうが、見た目は二十代の若々しい女性にしか見えない。

 吸血鬼には不老期というものがあるので、おばちゃんらしいおばちゃんというのは希少種だ。

 ただしおっさんは妙に多いので、男女で不老期に差が出やすいのかもしれない。 

 ともかく、あんな馬鹿に付き合ってやる義理もないので、まだ言い争いをしているジクストゥスを放置してメルセデスは食堂を後にした。



「今日の授業は魔法だ。今までは座学だけだったが、次からはいよいよ実践に移る。

お前達もこのクラスにいる以上、ある程度の魔法は既に使えるだろうが、基礎が分からずして先に進む事は出来ない。

そこで今日は最後に簡単な小テストを行う。これで70点より下の点数を取った者がいれば、そいつは補習だ。覚悟しておけ」


 授業開始と同時にグスタフが口にした言葉に生徒達が緊張を見せた。

 テストというのは嫌なものだ。学生にとっては悪魔の言葉と言っていい。

 そんな生徒達の反応を気にせず、グスタフは淡々と今までのおさらいを始める。

 テスト前にこうして教えてくれるのは彼のいい所だ。


「魔法とは、大気中に存在している『マナ』に働きかけて様々な事象を起こす力だ。

このマナへ与える影響力が大きければ大きいほどに魔法も強くなる。

これを我々は『魔力』と呼んでいる」


 生徒達はグスタフの言葉を聞き逃すまいと必死に耳を傾け、羊皮紙に書き写している。

 流石に成績上位が集うAクラスだけあって大半は真面目なものだ。

 だが僅かにではあるが、あまり真面目に聞いていない生徒もいる。

 きっと自分の学力に慢心しているのだろうが、彼等は来年にはこのクラスから消えている事だろう。


「この魔力が何なのかはハッキリしていない。

だが使えば減るものであり、使い過ぎれば命を落とす事もある。

魔法を使い続けた者の体重を測った所、僅かだが減っていたという研究結果もある事から、身体の中の『何か』を使っているのは間違いないだろう」

「先生、それ大丈夫なんですか……?」

「問題はない。過剰に使えば命に関わるが、普通に使っていれば健康を損なう事はないし、寿命にも影響しない事が判明している。

減った体重も普通に過ごしていればすぐに元に戻る」


 メルセデスには、グスタフの言う『何か』の正体が分かっていた。

 間違いなくナノマシンを使っているのだろう。

 この世界の物はナノマシンで出来ている。魔物も、道具も、吸血鬼さえも。

 恐らくだがナノマシンとは人工の原子のようなものなのだ。

 自分の中のナノマシンを介して外のナノマシンに働きかけ、その配列を変えたり反応を変える事で様々な事象を起こし、火や水に変える事も出来る……のではないだろうか?

 もっとも、それだけでは重力といったものを操れる理由にならないので、まだ何かあるのだろうが。

 あるいは人工の原子だからこそ、重力という力であろうと使えてしまうのかもしれない。

 ……全ては推測の域を出ていないが。


「魔法とは『イメージを現実にする力』だ。

マナはイメージに応え、思い描いたものを実現する。

魔法に必要なものは想像力だ。想像出来ないものは魔法でも出来ないし、想像し易ければ魔法の成功率も上がる。

しかし最初のうちから想像だけで魔法を創作するのは困難だ。

だからこそ誰もが想像し易い、既存の魔法というものがある。

例えば火属性の初級魔法である『フランメ』などは有名であるが故にイメージも容易だ」


 説明しながらグスタフは指先に炎を灯した。

 どうやら彼は火属性持ちらしい。


「固定観念を作りすぎるのはいい事ではないが、魔法の場合はそれが力になる事もある。

『フランメはこういうものだ』とハッキリ完成形を思い描ける者と、『よく分からんが火さえ出せばいいのだろう』という漠然としたイメージしか持てないものでは、魔法の完成度には差が生じてしまう」


 グスタフの説明が正しいならば、つまり『知っている魔法』であるほど明確にイメージ出来て強いという事になる。

 本当は誰でも想像力を働かせることでオリジナルの魔法を生み出せるが、それでは想像力の乏しい者が置いて行かれてしまう。

 だから『この魔法はこういう名前でこういう効果でこういう見た目でこういうものだ』という型にはめた既存の魔法が役に立つのだ。

 そしてこの点で言えばメルセデスは圧倒的に有利だ。

 知っている魔法の数が違う。

 前世で見た創作物に出た数々の魔法やら特殊能力は、言うまでもなく妄想の産物だ。

 しかし絵や映像という形で分かりやすく見せられたそれは、『完成されたイメージ』である。

 創作物というのはいわば、それを作りだした作者の想像力の具現化だ。

 仮にこの世界に魔法バトルを行う漫画本でもあれば、それは魔法使いの聖典になってもおかしくない。

 何せストーリーという形でその魔法の威力や見た目、規模、速度、果ては受けた敵の反応やダメージまで描かれているのだ。

 堅苦しく解説されるより、遥かにすんなりと頭に入って来る。

 惜しむらくは、メルセデスはマイナーな『駄作』ばかり読んでいたという事か。

 勿論国民的に有名な漫画にもなれば目も通していたが……完成されたイメージがそこまで多いわけではない。


 ともかく、自分が何故容易にオリジナルで魔法を開発できたかが分かった。

 そういう意味では有意義な授業であった。

転生者に優しい世界。

ただしイメージ次第では酷い事になります。


転生者「ダ〇の大冒険のア〇ンストラッシュを風魔法で再現するぞ!」

しかし転生者、ここでア〇ン先生といえば嫌でも思い出す“あの魔法”をイメージしてしまう。

転生者「あっ、待……タンマ! 今のなし、今のな……」


――メ・ガ・ン・テ


こうしてメルセデスの知らないところで一人の転生者が散った。

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― 新着の感想 ―
[一言] いや、知らん間に同郷のヤツ死んでもうてますやん
[気になる点]  メガンテの属性は風じゃないよね?
[一言] 場合によっては呪文まで用意されてますからね スレイヤー○なんて 呪文、力の根源、威力、範囲などなど全部のってるのし アレンジ可能だし、アレンジの仕方まで描写してますからね
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