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第三十四話 白装束の目的

 ダンジョンの中は、思った以上に歩きやすくなっていた。

 恐らく授業に使うという事で、あらかじめ教師陣が整備しているのだろう。

 仮に罠などがあるにしても、まず致命傷を負わせるような危険な罠はないと思っていい。

 本物のダンジョンと比べると広く、戦闘も大分楽そうだ。

 しばらく歩くと、大型犬ほどの大きさのトカゲのような魔物が姿を現した。

 目はクリクリとしており、無意味に可愛らしい。

 一見すると害意がなさそうだ。


「ゲコグロースだな。こちらから攻撃しない限り基本的に襲ってくる事はない。

害のある蟲を食べてくれるから、あえて街中に放置して街の掃除に使う事もあるという」


 ジークハルトの説明通り、襲い掛かって来る気配は全くない。

 まるでメルセデス達など眼中にないといわんばかりに岩壁に張り付いて移動している。

 来ないならば相手にする必要もなく、メルセデス達もゲコグロースを無視して先へと進んだ。

 少し進むと、今度は緑色の人型生物が複数いる場所に出てしまった。

 身長はメルセデスと同じくらいだろうか。目は赤く、腹が出ていて身体は引き締まっていない。


「あれはゴブリンニートだな。ゴブリン種の中では最も弱く、臆病だ。

基本的にダンジョンから出て来る事はないが、時折他のゴブリンから追い出される事もあるという。

ゴブリンの中では無害な部類だが、自らの住処に入り込む者に対しては攻撃的になる」

「流石ジークハルト様。詳しいですのね」

「大した事ではない。調べれば誰でも分かる事だ。

……どうやら、私達は敵と認識されたようだな。来るぞ」


 ゴブリンニートの数は四体。

 それが奇声をあげ、メルセデス達を威嚇している。

 しかし声の大きさに反してへっぴり腰なので迫力はない。

 ジークハルト達は各々の武器を構え、魔物を片付けるべく踏み出した。


「それ!」


 まず最初に攻撃を仕掛けたのはドードだ。

 彼女が鞭を振るうと、先端の嘴が高速回転しながらゴブリンニートの腹へと突き刺さった。

 そのまま抉る様に回転が続き、やがてゴブリンニートを貫通して背中から嘴が飛び出す。

 ドードが腕を引くと嘴が引き抜かれ、彼女の手元へと戻ってきた。

 なかなか面白い武器だ、とメルセデスは感心する。

 投擲武器のようであり、鞭のようでもある。

 前世の世界のどの武器とも一致しない、興味深い一品だ。


「えい!」


 続いてハンナが手を突き出し、圧縮された水が発射された、

 それがゴブリンニートのうちの一体に炸裂し、そのまま倒れさせる。

 それと同時にジークハルトが踏み出し、ほんの一秒ほどでゴブリンニートとの距離を潰して剣を薙いだ。

 一撃でゴブリンニートの首が飛び、恐慌にかられた最後のゴブリンニートがハンナを狙って飛び掛かる。

 だがその首をメルセデスが掴み、握力任せに首の骨を砕いた。武器を使うまでもない。

 そのまま無造作に投げ捨て、周囲を見る。

 とりあえず他に敵はいないようだ。


「ほーっほっほっほ! まあざっとこんなものですわ!

どうですジークハルト様、私の活躍、御覧になって?」

「ああ、見事だった。他の二人も申し分ない」


 ドードはジークハルトに褒められて顔を赤くしながらも得意そうに胸を張っている。

 ジークハルトの本当の性別を知っているメルセデスは、少しドードが不憫に思えた。

 まさか同性にアピールしているとは夢にも思うまい。


 その後も特にこれといって苦労する事なく、無事に授業は終了した。

 今回のところは、であるが……とりあえず、ジークハルトを狙う敵は行動を起こしていないようだ。



 朝方。

 皆が寝静まっている時間帯に、メルセデスは学園内を散歩していた。

 朝を知らせる小鳥の鳴き声は、吸血鬼にとっては一日の終わりを告げるものだ。

 吸血鬼は別に、フィクションにあるように朝日を浴びたら死ぬというわけではない。

 ただ本能的に、他の生物が暗い所よりも明るい所を好むのと同じように暗い所が好きなだけだ。

 人間は暗所よりも明るい場所の方が安心する。夜の学校を一人で歩くのは怖いが、朝の学校ならば一人で歩いても恐怖はないだろう。

 それと同じで、吸血鬼は夜の方が安心出来るのだ。

 とはいえ、人間の建物が時にわざと暗くする事でそれをデザインの一つとするように、吸血鬼もあえて明るくする事で雰囲気を作る場合もある。

 シーカーギルドなどがその一つだ。

 要するに日光を浴びる事に特に問題はなく、あえて言うならば夜目が効く分強い光の中だと物があまり見えないくらいだろうか。 

 メルセデスも例外ではなく、朝日の中ではあまり視界がハッキリしない。

 しかしそんな中で歩いている事にも理由があり……その理由が、メルセデスを取り囲むように近付いているのを肌で感じていた。

 気付いていないふりをして人気のない場所まで行くと、ここぞとばかりに気配の主が姿を現す。

 白装束に身を包んだ、奇妙な連中だ。人数は四人で、メルセデスの逃げ場を塞ぐように立っている。


「貴様等、何者だ……と聞いても答えんのだろうな」


 メルセデスの問いに返事をする者はなく、代わりに彼等は一斉に短刀を手に取った。

 分かりやすい返答である。変に能書きを垂れるよりも余程早くて意図が伝わる。

 四方から飛び掛かってくる男達を前にメルセデスは表情を変えずに、あえてギリギリまで引き付けてからマスターキーをハルバードにし、薙ぎ払った。

 突然武器が出て来るという事態に反応が遅れたのか、男達の下半身と上半身が生き別れになり、地面に転がる。

 一人だけ素早く跳躍して逃れたが、これも逃がす気はない。

 まるで男に吸い寄せられるような動きでメルセデスが男の前に跳び、一瞬で距離を詰めた。

 そして男の頭を掴み、地面へ降下。加速を乗せて叩きつけ、頭部を破壊した。

 それからハルバードを振るって更に二人の首を飛ばし、一人だけをあえて生かす。

 情報を吐くのは一人でいいし、吸血鬼ならば上半身だけになってもすぐには死なない。

 芋虫のように這いながら、男は唖然としてメルセデスを見上げる。


「き、貴様……やはり旧王派の回し者だったか……。

年齢も、外見通りではないな……!

迂闊……貴様のような手練れが旧王派にいたとは……それも、ここまで存在を隠し通していたとは……」

「生憎だがその推理は的外れだ。私は旧王派とやらではないし、年齢も……まあ、見た目通りだよ」


 転生前を含めれば年齢詐欺だが、メルセデスとして生きた年月を言えば見た目とそう差異はない。

 とりあえずこの男から情報を聞き出す必要があるが、普通に聞いても答えはしないだろう。

 さてどうしたものか、とツヴェルフに知恵を求める事にした。


「ツヴェルフ。こいつから情報を聞き出したいが、何かいい方法はないか?」

『ゴブリンヘクサーが催眠の魔法を使えます。それで聞き出せるかと』

「よし。では今すぐにゴブリンヘクサーを一体生産し、出してくれ」

『イエス、マスター』


 話してから少し経つと、ハルバードの中から黒いフードを被ったゴブリンが出現した。

 手には杖を持っており、いかにも魔法使いという出で立ちだ。

 彼は杖を突き出し、白装束に何か魔法をかける。

 すると、白装束の目から正気の光が失われ、トロンとした顔になった。


「よくやった」


 ゴブリンヘクサーに労いの言葉をかけると、彼はグッと親指を立ててサムズアップする。

 見た目は陰気だが、案外気のいいゴブリンなのかもしれない。

 メルセデスは男の髪を掴んで引き上げ、質問を発した。


「貴様等は何者だ? 何故ジークハルトを狙う」

「我々は……ベアトリクス帝国の……隠密部隊……。

アーベントロートで唯一、初代王の血を引く正当な後継者であるジークリンデ王女(・・・・・・・・)がいなくなれば……アーベントロートに『王剣』を使いこなせる者はいなくなり……我が国は優位に立てる……その為に、我等は来た……」


 やはりか、とメルセデスは顔をしかめた。

 ジークハルトの正体はジークリンデ王女であり、正当な王家の後継者だ。

 つまりこの隠密集団はジークハルト第五王子を狙ったわけではなく、影武者に騙されているわけでもなく、正体を知った上でジークリンデ王女を狙っているのだ。

 つまり彼女の変装は何の意味もない事になる。

 ゴブリンヘクサーは暇なのか、メルセデスの後ろで不思議な踊りを踊っている。


「ジークハルト……いや、ジークリンデ王女の情報は誰から聞いたものだ? 何故貴様等が正体を知っている?」

「情報は……アーベントロートの新王派……が、邪魔なジークリンデ王女を亡き者にするために、我々に情報を、売った……」


 メルセデスは溜息を吐きたくなった。

 どうやら現アーベントロート王は正当な王家の血族であるジークリンデが邪魔で消そうとしているらしい。

 それで他の国と手を組んで彼女を消し、自分の地位を盤石にするつもりなのだ。

 ジークリンデはこの事を……いや、知らないのだろう。

 きっと彼女は自分が本当に王族ではなく、それを守る使命を帯びた影武者だと思い込んでいるに違いない。

 問題は、何故『今』なのかだが……。

 そう考えていると、白装束は突然ハッとした顔になり、短刀を自らの首に突き刺した。

 どうやら催眠が解けてしまったようだ。

 ゴブリンヘクサーは盆踊りをして死者を供養している。


「王が国を売っている、か……笑えんな」


 メルセデスは死体とゴブリンヘクサーをとりあえずダンジョンに収納し、立ち上がる。

 それと同時に何者かが木の上から跳び、素早くどこかへと消えてしまった。

 どうやら見られていたようだ。

 しかし一瞬だが、後ろ姿は見えた。

 あれは間違いなく……ハンナだ。

 どうやら、今後は彼女の動向にも気を付けねばならないらしい。

メルセデス「ところでゴブリンヘクサーのフードいらないと思うんだが、それ無しで生産すれば少しはコスト削れないかな」

ツヴェルフ「まあ1Pくらいは節約出来ますね」

メルセデス「それと杖がないと魔法は使えないのか?」

ツヴェルフ「使えますが威力は落ちますね」

メルセデス「つまり催眠とかの魔法だけを使わせる分には必要ないわけだ。なら杖もいらないな」

ゴブリンヘクサー(やめて!? フードと杖ないと俺、個性のないそこらのゴブリンと同じ外見になるから!)

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― 新着の感想 ―
[良い点] メルセデスが強くて面白い! [気になる点] ダンジョン攻略者の血族の国であることが各国の戦力拮抗の要ぽいのに王自らがその血族を始末しようとするのはなんでなのか気になる 少なくとも6年以上前…
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