第二十七話 始まる学園生活
来たか……なろうコン……(ガタッ)
ゲーム部門賞とかいう凄い心惹かれる賞もあるし、ダメ元で何か書いて応募してみようか……。
でもそれやると、確実にこっちの更新頻度が落ちるという……。
決まりきった定型文を、紙を見ながら読み上げるというだけの新入生代表挨拶を終え、メルセデスはこれから数年間通う事になる教室へと移動していた。
クラス分けは入学試験の成績で決定され、メルセデスが配属されたAクラスは成績上位勢二十名が集まるクラスだ。
ただし成績次第ではクラスを替えられてしまうらしく、ずっとここにいられるかどうかは本人の努力次第である。
軽く教室を見回して見ると、当然ながらまず第五王子が目についた。
サラサラの銀髪が嫌でも目立つ美少年で、早くも女子生徒達から熱い視線を浴びている。
吸血鬼というと何となく銀髪なイメージがあるが、実はこの世界では銀髪はそう多くない。
大体が金髪か茶髪、赤髪、黒髪、珍しいので桃色や青なんかもいるが銀は殆どいない。
銀色の髪は高貴の証とされ、王族のみが持つ特徴だ。
尚、紛らわしい事に白髪は割とその辺にいるらしい。
他には特にこれだという生徒はいない。このクラスにいる時点で全員がエリート候補であり、全員が光る物を持っているといえば持っているのだが、それだけだ。
「二十人揃っているな」
ドアが開き、静かな声と共に大人の吸血鬼が入室した。
恐らくは……というか十中八九教師だろう。
外見年齢は吸血鬼には珍しく四十代後半に見え、かなり老け顔だ。不老期がよほど遅く来たのだろうが、他の吸血鬼にはない渋さがあった。
白髪交じりの黒髪はオールバック。深い皺が刻まれた顔は決して美形ではないが、渋さと男らしさとむさ苦しさが同居している。
左目には縦一本の傷が刻まれているが、再生していないのが少しだけメルセデスは気になった。
口元には無精髭を生やし、その瞳は鋭い。
灰色のコートを着こなす姿には貫禄のようなものが伺えた。
(強いな)
メルセデスは教師を見て、直感的に彼が相当の実力者である事を悟った。
恐らくはベンケイよりも格上だろう。
自分でも一対一ならば勝てるかどうかは分からない。それだけの強さを彼に感じた。
「これから一年、お前達を担当するグスタフ・バルトだ。
ただし来年も俺がお前達を担当するかはお前達の努力次第だ。
今日は軽く一年の流れだけを説明し、その後全員に自己紹介をしてもらう」
教師――グスタフが名乗ると教室がざわめいた。
どうやら割と名の知れた有名人だったらしい。
そんな生徒達に構わずにグスタフは早々に説明を開始した。
「一年は前期と後期に分けられる。
前期と後期の終わりにそれぞれ筆記と実技試験が設けられる。
試験の後には長期休暇がある。この休みを使い己を磨くも腐るもお前達次第だ」
言い方こそ遠回しだが、要するにそれは休みだからとサボるような奴は来年には消えていると言っているに等しい。
生徒達にも緊張が走り、先程のざわめきが嘘のように話に集中している。
「行事としては夏に狩猟祭、冬には武芸祭がある。
成績に直接響くものではないが、興味があれば出てみるのもいいだろう。
それでは、全員自己紹介をしてもらおうか」
◆
自己紹介を終え、その日は終わりとなった。
メルセデスは自分に割り当てられた寮室へと向かい、ドアの前の番号を確認する。
部屋の中は決して広いとは言えないが、狭くもない。
白い壁に囲まれた清潔な室内は、流石に貴族や商人の子が通う学園といったところか。
この世界の一般的な衛生観念を思えば十分に上出来だ。
部屋の隅には二段ベッドが配置されているが、浴室やトイレは流石に個室ごとに用意されていない。
だが、来る途中にそれらしき部屋があるのは確認したので、必要な時はそこに行けという事だろう。
もっともメルセデスは持ち運べるダンジョンがあるので不要とも言える。
しばらく室内を観察していると、ドアが開いて少女が中に入ってきた。
恐らく、これから同じ部屋を使う事になる生徒だろう。相部屋という事だ。
少女はメルセデスを見ると、笑顔を向けた。
水色の髪の、可愛らしい顔立ちの少女だ。
髪は三つ編みのおさげを二つに分けて束ねており、幼い印象を抱かせる。
「相部屋の人ですか? 私はハンナ・バーガー。ネーベルバンクの方から来ました。
よろしくお願いします」
少女の名を聞き、メルセデスは少女がバンズに挟まれてハンバーガーになっている姿を想像した。
勿論バーガーとはそういう意味でない事くらい分かっているが、こんな事をつい連想してしまうのは前世の影響だろう。
……そういえばこの世界でハンバーガーを見た事がない。トライヌ辺りにアイデアを提供すれば結構売れるかもしれない。
いや、無理か。そもそも柔らかいパンはこっちでは高級品だ。
「メルセデス・グリューネヴァルトだ。よろしく頼む」
「グリューネヴァルト? それって結構大貴族じゃ……」
「生憎と私は四子だ。家を継ぐ事はない」
ベルンハルトは今の所メルセデスに家を継がせる気満々なのだが、メルセデスはあえてそれを無視するように、家を継がないと断言した。
グリューネヴァルトの名はメルセデスにとっては己の行動を制限する鎖のようなものだ。
今は利用価値があるからベルンハルトに従っているが、時が来ればさっさとこんな鎖は切断してしまうつもりでいる。
それに、後継ぎの座を欲しているのが少なくとも一人いるのだ。
だったら、フェリックスにくれてやればいい。要らないものをわざわざ継いで兄弟に恨まれる趣味などないのだから。
「グリューネヴァルトさんって確か、入学式の時に挨拶してた人ですよね?」
「メルセデスでいい。確かに新入生代表として壇上に上げられたな」
「あ、だったら私もハンナでいいですよ」
ハンナはメルセデスが新入生代表の挨拶をした事に「はえー」だの「すごいねえ」だのしきりに感心している。
ああいう場に立たされるという事は、余程地位が高くて最初からあの役割が決まっていたか、あるいは試験で高得点を叩き出したかのどちらかだ。
第五王子の試験結果は不明だが、彼は点数に関係なくあの役割を担っていた可能性が高い。
それから二人は自分の境遇などを軽く語り合い、しばらく話した頃にはハンナからは固さが取れて口調も砕けたものへと変わっていた。
「それにしてもメルセデスさんって髪サラサラだよね。肌もスベスベだし。羨ましいなあ」
「ハンナだって十分可愛いだろう」
メルセデスは昔と違い、ダンジョンで温泉などを使い放題なので清潔の基準が他とは違う。
この世界での入浴など数日に一度がいい方で、その浴場すら一般市民が使う物は以前語ったように共同の混浴だ。
そして、その共用の浴場すら貧しい村の者は使えない。
その点で言えばメルセデスの衛生観念は、この世界の基準で言えば潔癖症とも言えるレベルだろう。
ハンナもこの学園に通える以上、それなりに裕福なのだろうし実際身綺麗な部類だ。
だがそれでも、毎日温泉を使って身体や髪を洗っているメルセデスと比較してしまえば多少劣るのは仕方のない事だ。
それでも中世の地球と比べれば段違いに清潔なので、接していて不快感は全くない。
というか中世のヨーロッパがやばい。
あまりに酷いので具体的な説明は省くが、国王の住居であったルーブル宮殿すら汚物まみれで住めなくなったレベルで酷い。
この世界がそんなカオスを極めた状態でなかった事はメルセデスにとって最大の幸運であっただろう。
「ところで、グスタフ先生は有名人なのか?」
話題に詰まったメルセデスは、とりあえず自分達のこれからの担任となる教師について話を振ってみる事にした。
彼が名乗った時に教室がざわめいたが、メルセデスは彼の事を知らない。
五歳の時からずっと修行ばかりを繰り返し、得られる知識は屋敷にあった本だけだった。
そんなわけだから、メルセデスの知識は一部に偏りがある。
少なくとも巷で有名な人物だとか最近の流行だとか、そんなものは全く知らない。
「知らないの? 英雄グスタフ……八十年前の獣人との戦争で大活躍した人だよ。
国を救って、当時の王様に王女を貰ってくれって言われた逸話があるくらいなの」
「まるで物語の主人公だな」
「そうだよ。実際に先生を主役にした劇もあるくらいなんだから。勿論先生本人が出るわけじゃなくて、役者さんが演じてるんだけどね」
そしてどうやら、グスタフはかなり名の知れた人物だったようだ。
王女を貰ってくれと言われたのは流石に後世が勝手に誇張して後付けした逸話だろうが、戦争の英雄とは凄まじい経歴の持ち主が教鞭を取ったものである。
しかしそんな人物ならば、学べる事も多そうだ。
有能な教師に当たる事が出来た幸運を、メルセデスはとりあえず喜んだ。
この学園での授業は必修科目と選択科目に分けられる。
必修はその名の通り必ず修めなければならない学科であり、選択は自分の判断で選ぶ事が出来る。
必修は算術、歴史、戦学、それから魔法の四つ。
選択は格闘、武器術、領地経営、行政、探索術、エルフェ語から三つ選ぶ。ただし武器術か格闘のいずれかは必ず取らなければならない。
メルセデスとしては、まず領地経営は捨てていい。グリューネヴァルトを継ぐ気などないのだから、領地を経営する事もない。
行政も要らない。この二つは領地を継ぐ気のある者が取るべき学科だろう。
探索術は少し惹かれるものがあるが、既にシーカーとしてやっていけているので別にいいだろう。
結局メルセデスは格闘と武器術、それからエルフェ語を選択する事にした。
やや戦闘系に傾いてしまっているが、元々身一つで生きていくと決めていたのだ。これが自分向きだろうとメルセデスは考えている。
こうして、メルセデスの学園生活が幕を開ける事となった。
シュフ「柔らかいパンで作るハンバーガー? ダンジョンの機能で小麦を量産してくれれば作れるぞ」
メルセデス「…………」
後日、グリューネヴァルト家の食卓に柔らかいパンが並ぶのは当たり前の光景となった。




