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第6話 「人を見かけで判断することなかれ」

 「あら、無事に戻ってこられたのですね。まぁ、お疲れさまでした」


 いつも通りの調子だな、この受付嬢は……。


 無事に街のギルドへと帰還した俺とエヴァは、受付嬢のぶっきらぼうなお出迎えを受けていた。赤髪を編み込んだその受付嬢は、さっぱりとした態度を取りつつもジロジロとエヴァが怪我をしていないか観察している。


 「貴方たちが私の元にこの依頼書を持ってきた時はどうなる事かと思いましたが、要らぬ心配だったようですね」

 「ふっふーん。シドゥさんとなら楽勝でした!」

 「そう、ですか。シドゥさんという名前だったんですね、貴方」

 「あ、あはは……。結構このギルドには顔を出してたと思うんだけどなぁ」


 ジト目な受付嬢の少女とは、クラウディオたちとパーティーを組んでいた頃からよく顔を合わせていた。まぁ、受付嬢とのクエスト受注のやり取りは、コミュニケーション能力の高いカティアが担当していた為、直接的に話したことは無かったが……。


 もちろん俺は、彼女がモニカという名前だと知っている。

 5人いるこのギルドの受付嬢の中で、とりわけ可愛い見た目をしている事から冒険者たちの間では一番人気の受付嬢だ。


 まぁ、その可愛らしさに惹かれて安易に近寄ると、彼女のぶっきらぼうな洗礼が待っているのだが……。

 受付嬢として非常に優秀で、毎日大量に舞い込んでくるクエストの整理や各冒険者に見合った難易度の選別など、聞いただけで目が回りそうな仕事を彼女は毎日こなしている。


 つまり口ではそっけない態度ではあるが、今回のゴブリン討伐のクエストを俺とエヴァなら成功させられるとモニカは判断してくれたという訳だ。


 「それよりも受付嬢さん、私たちのことを心配してくれていたんですかっ?」

 

 キラキラとしたエヴァの子供のような視線を受け、モニカがジロリとエヴァを見つめる。


 「貴方がドジっぽそうだったので。冒険者の心配をするのは受付嬢の仕事のうちですから」

 「あう。ド、ドジっぽいですか……」


 あ、この受付嬢照れてる。

 

 エヴァは気づいていないが、ほんのりと頬が赤くなってるぞ。

 ぶっきらぼうなだけで、根は案外良い人なのかも知れない。


 「向こうの村では何も問題は無かったですか? 言いづらいですが、シドゥさんは何かと厄介事に絡まれやすいでしょうし」

 

 気を使ってか、遠まわしにモニカはフルジール人である俺を心配してくれている。


 あの夜、激昂した男と俺との騒ぎによって村はお祭り騒ぎでは無くなってしまった為、俺は泣きじゃくるエヴァの手を引いて村の宿で一晩を明かした。


 朝日に照らされながら宿の外でエヴァを待っていると、すっかり元気を取り戻した様子のエヴァが出てきたので俺は心底ホッとしたものだ。


 村の人たちは昨晩と変わらず気の良い人の集まりで、盛大に見送られながら俺たち2人はこの街へと戻ってきた。

 当然のことだが、見送ってくれた人たちの中に騒ぎを起こしたあの男の姿は見当たらなかった。


 「シドゥさん……」


 不安そうに俺を見上げるエヴァへ、安心させるように笑みを浮かべるとその頭に手を置きモニカへと顔を向ける。


 「問題は無かったよ。村の皆も良い人ばかりだったし。強いて言うなら、対象のゴブリンの他にブラッディ・ウルフの群れが現れたことくらいかな」

 「……貴方がそう言うのなら。しかしブラッディ・ウルフですか。ここ最近はモンスターがやけに活発ですね……。まぁそれは別として、この調子でこれからもクエスト頑張ってくださいね。私が貴方たちのパーティーを担当していきますので」

 「担当……」

 「? どうしたのですか? これからも冒険者、続けていくおつもりなのでしょう?」


 モニカから言われた担当という言葉。それは俺がこのギルドで活動していくのを認めてくれたということに他ならない。


 嬉しさが胸の内から込み上げてくる。

 俺はついに、エヴァと共に1人の冒険者として再スタートを歩み出せたのだ!


 「あっ、そうだ。クラウディオたちは今どうしてるか聞いてる? モニカさん」

 「別の街のギルドで活動を始めたそうですが、詳しい話は何も」

 「……そうか。でもまぁ、あの3人なら楽しくやってるだろうな」


 辺境の村で暮らしていた頃からあの3人は仲が良かった。俺は遠巻きに3人が遊んでいるのを見ている事しか出来なかったがその頃は、どっちかというとクラウディオよりカティアの方がリーダー気質だった気がする。


 そういえば、1回だけカティアが俺を遊びに誘ってくれたことがあったっけ。思えば、小さい頃のカティアとノエルはあまり俺を嫌ってはいなかったような。


 その分と言えば語弊があるが、俺とクラウディオはよく衝突していたな。


 「シシ、シドゥさん! こ、これ見てください!」


 昔の記憶を懐かしんでいた俺のマントを、くいくいっとエヴァが引っ張る。その手には1枚の羊皮紙が握られていた。


 「ん? どれどれ、えー。『魔石発掘ツアーのお知らせ』?」

 

 なんだ、この妙に胡散臭さを漂わせた代物は。

 手書きのお粗末な仕上がりっぷりから見るに正式なクエストとは思えないし、そもそも冒険者のほとんどはダンジョンに潜ったら勝手に魔石を見つけてくるものだ。


 それをギルドなどに鑑定を依頼し、その魔石の価値によって報酬と引き換えるのが基本的な習わしとなっている。


 今のところバフを発動させる魔石しか発掘はされていないが、もしかしたら別の魔法が発動する魔石もこれから見つかるかもしれない為、全国のギルド協定は冒険者たちに魔石を個人的に所有するのを禁止している。


 その理由は単純で、この世界のパワーバランスが崩れる恐れがあるからだ。

 もし個人的に所有しているのが見つかれば、魔石の不法所持としてその街の騎士団なり自警団なりに捕まってしまう。


 「あぁ、それはメリィーサ様が勝手にクエストボードに貼り付けていった物ですね。ギルド公認の依頼書では無いですし、クエストを受けたいなら勝手に持って行って構わないですよ」


 メリィーサ様? どこかで聞いた事ある名前だな。

 

 かなり有名人だったハズ、確か魔石関連の研究の第一人者で……。


 「思い出した! 王宮公認の魔導博士メリィーサ!」

 「ええ。どうやら魔石が発掘される可能性のあるダンジョンがこの近くで2か所見つかったそうで、王都からメリィーサ様ともう1人の魔導博士がこの街を訪れているんです」

 「王宮お抱えの魔導博士が2人も? なら何でわざわざギルドに依頼なんか……。普通は騎士が護衛に着きそうなものだけど」

 

 俺の疑問の声に、モニカが「こほん」と1度咳払いをした。

 その直後の光景を俺は死ぬまで忘れないだろう。


 「メリィーサはぁ、せっかく王都を出て別の街に来たんだからぁ、そこで出会う冒険者に護衛してもらいたいの!」

 「えっ」

 「……こほん。なにか?」


 なにかでは無い。な、何が起こったんだ今。

 

 モニカが咳払いをしたと思った次の瞬間、彼女はきゃぴきゃぴと声色を弾ませ体をくねらせながらメリィーサと思われる人物の真似をし始めた。


 全てが唐突過ぎてついていけない。

 そういえば、以前ギルドに張り出されていた受付嬢たちのプロフィール一覧。あれにあったモニカの趣味の要項に物真似って書いてあったのをハッと思い出した。


 え、今のはモニカの渾身の物真似なの? どう反応すればいいんだ、笑えばいいのか!?


 「は、ははっ……。お、面白いね、モニカさん」

 「…………フフン」


 小さく、モニカが得意げに薄く笑う。

 

 何となく彼女がどういう性格なのか掴めた気がする。


 「お、おお、おおおっ……!」

 

 そして、俺の隣りではさっきから食い気味に例の依頼書を凝視しているエヴァの姿があった。さっきから変な声を上げている。


 「エヴァ、そんなにメリィーサの依頼が気になるのか?」


 俺の言葉にエヴァはぐわっと顔を上げると、依頼書のある一文を指さした。


 「見てください、ここ! ここです!」

 「なになに……。『価値の無い魔石を発掘した場合は、不良品処分としてアクセサリー加工にお使いください』? あーなるほど。エヴァも女の子だしな、アクセサリーとかに興味あるのか」

 

 ぶんぶんとエヴァが首を縦に振る。


 「あ、あのあの! い、一緒にお揃いのアクセサリー、作りませんか? シドゥさん……」

 「ええ!? お、俺と?」

 「は、はいぃ……」


 依頼書の羊皮紙で口元を隠し、火照った頬で俺を上目遣いに見てくるエヴァ。

 そんな表情をされてしまっては、断る理由を見つける方が難しいだろう。


 それに、エヴァには村での騒ぎの時に庇ってくれたお礼もしたいしな。

 バッファーの仕事泥棒である魔石と関わるのは正直気が進まないが、エヴァの為にもここは一肌脱ぐとしようか。


 「よし。ならこの依頼、俺たちで受けてみるか!」

 「ホントですか!? あ、ありがとうございます! シドゥさん!」


 嬉しそうに1度大きくバンザイをしたエヴァは、ぎゅっと両手を胸の前で握りしめキラッキラの瞳で俺の顔を見上げた。


 「絶対に見つけましょうね! 不良品を!!」

 「えー……。出来ればちゃんとした魔石発掘も頑張ろうね……」


 次の仕事へ向けて、俺とエヴァの気持ちは大いに高ぶっていった。

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