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第2話 「運命を分かつ出会い」

 パーティーから追放された翌日、俺はギルドのカウンターで1人ミルクを飲みながらうなだれていた。

 昨日のうちにクラウディオたちはこの街を出て行った為、彼らに出くわす心配が無いのはある意味ありがたかった。


 とはいえ昨日騒ぎを起こしたことには違いないので、ギルドのマスターからの視線は痛いが……。

 俺だってもう長居するつもりなんて無い。

 未練がましくギルドに来てみたは良いものの、フルジール人がパーティーに誘われないのは当然だ。


 「はぁ、アレさえ無ければ……」


 チラリと、俺はギルドのカウンターに置いてある蒼く輝く『魔石』へと視線を向けた。

 煌煌と光を発している魔石は特別な透明のケースに仕舞われており、利用者が立ち寄るとギルドのマスターが取り出しバフをかける仕組みとなっている。


 恨めし気な視線を魔石に送っていると、丁度1人の冒険者が魔石の元へと近づいていくのを見かけた。

 

 透き通るような銀色の髪のショートカット、その毛先は淡い水色のグラデーションがかかっており、線の細い整った横顔の少女は真剣に魔石の近くに置いてあった小さな本を読んでいる。


 あの本は飲食店にあるメニューみたいなものだ。どんな種類のバフがかけられ、値段はいくらなのかがあの本には書かれている。


 俺はそんな彼女の様子を遠くからつまらなそうに肘をついて観察していた。


 「あ、あの、マスター。バフの料金ってこれより安いのは無いのですか?」

 「あん? 嬢ちゃん何言ってんだい。バフ1回分なんて今時そこら歩いている子供でも支払えるぞ」

 「むむっ、そうですか……。困りましたね」


 あの子、新米冒険者なんだろうか。

 バフ1回分の金も無いなんて相当だぞ、無一文に近いと言っても過言では無い。


 だが、それにしては装備している鎧や剣はしっかりしているように見える。


 「あー、もしバッファーが必要なら1人心当たりがある」

 「本当ですか!? ぜひ紹介してください!」


 客の出入りが激しいな、ギルド内の酒場が大分騒がしくなってきた……。

 あの2人が何を話してるのか聞こえねぇ。


 パアッと明るくなった少女の表情から察するに、きっとタダにしてくれたか値段を安くまけて貰えたんだろう。

 羨ましい、俺なんてフルジール人ってだけでぼったくられる場合がほとんどなのに。


 ……ん? なんだなんだ、女の子がこっち近づいてくるぞ。


 「あ、あの。シドゥさん……ですか?」

 「えっ、そうだけど……。何か用?」

 「ええっと。わ、わわ、私とパーティーを組んでくれませんか!?」

 「……!」


 耳を疑うような彼女の透き通った言葉。

 絶望に打ちひしがれていた俺へと差し伸べられた、少女の誘い。


 恥ずかしさに頬を赤くした少女の上目遣い。近くで見る少しあどけなさを残す彼女のその顔は、遠くで見た時の横顔よりずっと可憐で美しかった。


 「……ダメ、でしょうか?」

 

 唖然としている俺に不安を覚えたのか、少女は消え入りそうな声でつぶやいた。慌てて俺は首を横に振る。


 「だ、ダメじゃない! でも、フルジール人の俺を、その。……良いのか?」


 自分で言っていて情けなくなってきた。

 俺は何時の間に人を信用できない性格になってしまったのだろうか。


 それでも俺は怖かったのだ。

 出来ることならもう2度と、仲間に裏切られるなんて体験をしたくない。そんな思いをするくらいならいっそ、1人でいた方がマシなくらいだ。


 だが俺のその負の感情が伝わったのか、目の前の少女は慈しみの含んだ温和な笑みを浮かべ両手で俺の手を包んだ。

 暖かい彼女の体温が俺に伝わる。


 「フルジール人かどうかなんて関係ないです。だって、シドゥさんはシドゥさんでしょ?」

 「っ……」


 彼女の言葉に俺は息を飲んだ。

 ほほ笑んだ彼女の顔に俺は、目を見開き自然と涙が一粒零れた。

 

 ――ああ、そうだ。そうだったんだ。

 俺はきっと、そう言ってもらえるのをずっと待っていたんだ。


 バッファーに憧れ修行を始めた、子供の頃からずっと……。


 俺は遠慮がちに彼女の手を握り返した。


 「……君の、君の名前を教えてくれないか?」

 「ふふっ、私の名前は――」


 涙の伝った右頬からは、もう痛みを感じなくなっていた。



 ♦♢♦♢



 凶暴なブラッディ・ウルフの群れに囲まれながら、クラウディオたちは息も絶え絶えに武器を構えていた。

 額から流れる血に視界を赤く染めながら、クラウディオは苛立たし気に叫ぶ。


 「クソッ! なんでこんな雑魚共に苦戦しなくちゃならねぇーんだ!!」

 「落ち着いてクラウディオ!」


 クラウディオ同様に激しい傷を負っているカティアが膝をつきながら叫ぶ。

 ノエルはダメージの深刻さから、座り込み迫りくる死の恐怖にガタガタと体を震わせていた。


 「……も、もう無駄だわ。私たちここで死ぬのよ……」

 「ノ、ノエル……!」


 戦意を失っていく仲間たちに、クラウディオは顔を歪ませる。


 「あのギルドのマスター、あいつが原因だ! バフの効果が全然感じられねぇ、騙されたんだ俺たちは! だってそうじゃないと、俺がブラッディ・ウルフなんかに苦戦するはずがねぇだろ!?」


 ついこの前まで談笑しながらでも倒せていたモンスターに殺されかけているクラウディオの顔には、ビキビキと血管がうかんでいる。


 ダラダラと唾液を垂れ流すブラッディ・ウルフたちは、もうすぐ食べれるであろう獲物を前に舌なめずりをし獰猛さに磨きをかける。


 その姿にクラウディオが雄叫びを上げ走り出した。


 「雑魚モンスターがよぉぉっ!!」

 「クラウディオ、駄目ぇ!!」


 剣を構えがむしゃらに走り出したクラウディオの体に、ブラッディ・ウルフの凶牙が食らい付いた。周囲に鮮血が飛び散る。


 「ごふっ――」

 「いやぁああぁぁぁっ!!」


 虚しく響くノエルの叫び声。

 

 そんな中、見知らぬ人物がクラウディオたちの前へと飛び込んだ。

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