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咲くなら空に

作者: 花樹凛

味わっていただけたら嬉しいです

「~~桜が散るやい 桜が散るやい 今年もどどんっと桜は散る~~」


葉の落ちきった木々の下に、派手な衣服を身にまとった齢七十ほど男がいる。揚々として歌い踊っているその男は必然的に周囲の注意をひく。


「いい加減うるさいよあんたぁ!ずーーっと歌ってずーーっと踊ってるじゃないか!こっちは楽しく饅頭食べてんだからさ、邪魔なの!よそへお行きよ!」


そんな男の存在を良しとしない親子が団子屋にいた。団子屋から男を眺めている。


「じじいだからもう痴呆が進んでんだよ、年食って残ったのは踊る体力と笑顔だけってか いししししししししっ」


子が母に続き、男に冷めた言葉をおくっている。


「絶対そうだ、絶対そうだね。あれじゃ生きてる意味もないどころか、誰かが死なせてやったほうがあのじじいもみんなも幸せになるよ。そうすりゃお天道様も喜ぶに決まってる」


「うんうん、僕もそう思うよ母さん、ああいうやつがいるから僕たち子どもはあんなみたいに変に育ってしまうんだよ」


「……」


機嫌をとるため母に向けられた視線は、言葉を発する代わりにい軽蔑の目を男にむけている母の姿をとらえた


「どうしたの、返事してよーーあっ、ほらね、こういうこともあいつがここにいなければ起こらなかったんだよ」


「……」


「……」

しばし静観する親子


「~~散――って散ーーった桜はあすまた芽吹く、わしらの笑顔が花を咲かせ、わしらの思いがでっかく育てる~~」


親子の会話は聞こえていないのか、聞こえていたがそれでも歌うことを選んだのか、男の歌声があたりに響く


「……」


「……行きましょう」


「見てられないね」

親子は諦めたようにその場を後にする



「咲いたなら、みなで囲んで宴だ宴~今宵も村は平和じゃ平和~」親子が去って数刻、いまだ歌い踊る男の姿があった


「モじい……帰ろう」

ある一人の女性が熱演中の男に言葉をかける


「菊?……も、もう日暮れかい?きょ、今日のわしはど、どうじゃった?ちゃんと輝いておったか?ばあさん見てくれたかの?」


この菊という女性、男と知り合いのようであった


「……うん、今日もじいちゃん輝いてた、もうね、見えなくなるくらい輝いてたよ。」この女性は男の孫であるらしい


「そうかそうかぁ……よかったよかった……ばあちゃんとの約束だからのぉ」


「うんうん、それじゃあ帰ろうか」


「よかったよかった」

男は菊という女性に手を引かれ、ようやく帰路につくのであった    




「今日も疲れたの、されどこれはいい疲れじゃ、ばあさんのために疲れるのは嬉しいのう、ーーほっ、ここで一句 つからずや 人さえ食さえ 成ること得ずーーうむ!いい出来じゃいい出来じゃ、ばあさんに自慢せねば」


男はそういって仏壇らしきものの前に身を置く


「つからずやってのは漬物と疲れをかけたの?」


「うまいじゃろう?」


「うん、なかなか」


「はっは、聞いたかばあさんや、あの賢い菊がわしの句をほめてくれたぞい、もうわしの腕はばあさんをこえてしもうたぞ…………しかしばあさんがおらんと句をつくってもあんまり楽しく無いのう」


男は現実をみてしまったようだ、伏し目になる


「いつもばあさんと句で争ってましたよね……で、いつも最後は負けず嫌いなじいさんに負けてばあさんが勝ちを譲って……にぎやかでしたね」


懐古しているようであった、そして男がおもむろに口をひらく


「……あのなぁばあさん、わしはばあさんが戻ってこれるためならどんなことでもやれるんじゃよ?、あの世にいるばあさんには想像もつかんと思うがな、わしはばあさんとかわした村と人を元気にするという約束、ちゃんと毎日守ってるんじゃからな?わしはこれ以上ないほど不器用じゃろう?じゃからただ踊って歌うことしか人を笑わせる方法は思いつかん、たとえわしには似合わんとしてもな…………今日な、どこぞの親子がわしの姿を見てうるさいだの邪魔だの、早く死んでしまえだの言っておってな…………こんな馬鹿げたことでしか約束を果たせんわしを、わしは本当にみじめと思う……さすれどわしにはほかにできることもない、そしてなによりさすな、その子供のほうがわしのこと見て笑ってくれたんじゃ、……その笑いは違う意味での笑いだったのかもしれん、でもわしはそれでもいいんじゃ。例え馬鹿にされておったとしても、わしをみてその口元をゆるめて、白い歯を見せてくれた、わしにはそれだけで十分じゃった。わしはその歯を見るために阿呆になっているわけじゃ はっはっはっ……ばあさんが阿呆になって踊っとるわしをみたら腰を抜かすじゃろうて」


「あの親子の会話聞こえてたんですか……」

菊は複雑な表情で男をみつめる


「それはもうばっちりとな はっはっは」


「ばあちゃん……みんなを笑顔にするために一生懸命阿呆になって踊ってるモじいはすごくかっこいいよ、頑張ってるじいさんをほめてあげて……ちゃんと見守っててね」


「はっはっは、照れるのう」


「もう寝ましょうーか。明日もがむしゃらに人と村を元気にしちゃいましょう!笑われて本望!一緒に笑われましょう」


「そうじゃそうじゃ、どんな笑顔も変わらない笑顔じゃ……それでいいんじゃ」


二人は寝床につき、時が流れる


「……おやすみなさい」


「……ゆっくり休むんじゃぞ」



翌日声高らかに歌っている、今度は二人にふえた阿呆どもの姿が村にあった


「~~笑わぬ者の噂をきけば、この天下の被笑者モじいがすぐさま参上、笑わぬ者は許さぬ、このモじいが決して許さぬ、笑顔よ笑顔、笑顔を見せぬか、笑顔でわれの天下は満ち足りる、笑顔だ笑顔、それがすべてじゃ~~」


二人はすべてを笑いに変える。


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