1-1 出会い
どうも、Make Only Innocent Fantasyの三条海斗です。
更新がだいぶ遅れてしまい、申し訳ありません。
さて、今回は前回までとは少しテイストが異なり、連続した物語になります。
最後までおつきあいお願いします。
それでは、どうぞ!
真っ赤な絨毯が敷き詰められ、静寂があたりをつつむその場所に、彼は立っていた。
その絨毯は、もともとは鮮やかな赤い色だったのだが、今では濁った赤に染まっている。
この絨毯を染め直したのは、染料ではない。
魔物によって殺された、この城の騎士たちのものだ。
騎士たちは、皆、彼の前に立ちはだかり、二度と動くこともない肉塊へと変貌した。
しかし、その肉塊ですら、いまは跡形も残っていない。
ここにいる魔獣が、すべて食い尽くしてしまったからだ。
着ていた鎧でさえ、食べてしまう魔物もいた。
既に誰もいなくなったこの城に、二人の人間がいた。
一人は、騎士たちを葬った男。
もう一人は、秘書のような姿をした女。
彼らは、魔剣の主……アストラルと縁があった。
女は、アストラルによって上司の悪事をばらされ、命からがら逃げ延びたという過去がある。
男は、アストラルの親友の体に憑依して、魔剣・レーヴァテインと戦った過去がある。
そう、男の名はダーインスレイブ。
女はかつて、ディゴールの屋敷で秘書をしていた。
そんな二人が、どうしてこの場所にいるのか。
それは、数時間前まで時をさかのぼることになる。
* * * * *
丘陵を走り抜ける、一人の女がいた。
明らかに旅人ではないその風貌は、その景色にはあっていない。
しかし、外見だけは美しく、絵になるといってもいいだろう。
だが、その女は旅をしているわけではない。
正確に言えば、彼女は逃げている。
自身を捕縛するかもしれない、騎士団から。
今は、一刻も早く遠くへと逃げなければならない。
彼女は、それしか考えていなかった。
(なんで私が……!)
ふと、思い出すあの臆病な顔。
その臆病な顔をした青年に、彼女は追い詰められた。
しかし、青年が追い詰めたのは、彼女の上司……いや、共犯者に当たる男であって、彼女自身が、ディゴールを見限っただけに過ぎない。
当初の彼女の計画では、ディゴールを見限り、知らぬ存ぜぬで通す予定だったが、青年……アストラルがレオンと協力体制をとった段階で、それはできなくなってしまった。
金獅子は確実に、彼女も関与していた証拠をつかんでいると踏んだ彼女は、こうして逃げ延びる選択をした。
実際、その選択は間違ってはいなかった。
彼女があのままあの場所にいた場合、金獅子の手によって殺されていた可能性が高い。
最も、アストラルがそれを許すわけがないため、実際には捕縛程度におさまっていたはずだが。
もうどれくらい、彼女は走っただろうか。
そろそろ丘陵も抜けようとしていたその時だった。
「っ!?」
彼女は、足がもつれて転んでしまった。
アンディゴから休まずに走り続けてきたのだ、無理もないだろう。
荒い呼吸を繰り返す彼女の心の中に、アストラル達に対する憎しみが沸々と湧き上がっていく。
(あの坊やたちは……必ず……!)
握った拳で、地面を殴りつける。
逃げなくては……。
そう思っていても、体は鉛のように重く、言うことを聞かない。
もうすぐ騎士たちが現れるだろう。
彼女の心の中に、あきらめが生まれようとしていた。
「女、そこで何をしている?」
酷く冷たい声。
心配などみじんもしていないのがわかる声だった。
「……恨んでいるのよ」と、彼女は短く答えた。
「誰をだ?」
「私をこんな目にした坊やを、世界を」
「その恨み、晴らす気はあるか?」
「え……?」
彼女はようやく、その声が聞こえた方を見た。
そこには、アストラルと同じ年くらいの青年が、似たような剣を携えて立っていた。
「もう一度問おう。その恨み、晴らす気はあるか?」
「……もちろん」
「ならば、立て。我が力を与えよう」
青年はただ、そう告げるだけだ。
(この人、本気で言っているかしら……)
彼女はそう思ったが、不思議と身体が軽くなるのを感じた。
そして、立ち上がると、彼に向かってこう言った。
「私はミサ。あなたは?」
「語る名前などない。呼びたければ、ダーインスレイブと呼ぶがいい」
それが、彼らの出会いだった。