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僕と魔剣と ~それぞれの道~  作者: M.O.I.F.
第四部 この空の下で
21/22

第7話 明日への願い

どうも、Make Only Innocent Fantasyの三条海斗です。

第4部……番外編「それぞれの道」も次のエピローグで完結です。

最後まで、おつきあいお願いします。

それでは、どうぞ!!

「セレナ、立てる?」

アストラルは、セレナに手を差し出す。

「ああ……」

セレナはその手をつかむ。

目の前にいる人間が生きていると、手から伝わるぬくもりを通して感じる。

「本当に……アストラルなんだな……」

「ちゃんと、僕だよ。ほかの誰でもない」

「ああ……安心したよ」

その言葉通り、セレナは安心した顔を浮かべる。

しかし、すぐに浮かび上がった疑問を彼に尋ねていた。

「だが、どうしてここに?」

「レオンの部下が教えてくれたんだ。『何か嫌なことが起こるかもしれない』って。急いで向かったんだけど……すこし遅かったみたいだ」

「いや、遅くはない。来てくれて、ありがとう」

「僕も王都を、みんなを守りたいからね。それじゃあ、まずはこの場を切り抜けよう」

「ああ……!」

「魔法を解いたら、一目散に駆けだすから。……その前に」

アストラルは、セレナを抱きかかえる。

それは俗にいう、お姫様抱っこというものだった。

「なっ……!?」

顔を真っ赤にするセレナ。

彼女は生まれてから、年が近い男性にこんな風にされたことがない。

それに加え、今までと明らかに雰囲気が違うアストラルに動揺している。

彼女の頭は、この短い間に混乱していた。

「しっかりつかまってて! 走るよ!!」

「へっ!?」

普段の彼女ならば上げないような声に、アストラルも驚くが、今はそんな状況ではない。

アストラルは守護魔法を解除すると同時に、王都に向かって走り出した。

魔物がアストラルたちを攻撃しようとするが、アストラルが走りながらピンポイントで守護魔法を発動して、それを防いでいた。

そして、そのまま王都までたどり着く。

セレナを下ろすと、アストラルはすこし不安そうに尋ねた。

「怪我は?」

「だ、大丈夫だ……」

「よかった……」

アストラルはようやく安堵の顔をする。

だが、事態は安心など許してはくれない。

聞こえてきたのは、金属音。

それは、魔物たちが王都に近づいていることを示していた。

「もうこんなところまで……!」

アストラルは、焦った声を出す。

そして、セレナの方を向くと、間髪入れずに言った。

「セレナ、力を貸してほしい」

「勿論だ、何をすればいい?」

セレナも即答する。

彼女は最初から拒否するつもりなどない。

「前線にいる騎士たちを僕の後ろに集めてほしいんだ」

「待て、アストラル。一体、何をするつもりだ?」

セレナが少し怒ったような声でアストラルに尋ねる。

アストラルは、目を伏せ、何も答えない。

「答えろ、アストラル!」

セレナの問いに、アストラルは観念したかのように答えた。

「……王都全体を守護魔法で包む」

「幾ら魔力が多いお前でも、そんなことをしたら……!」

問い詰めるセレナ。

二人の距離はどんどん近くなっていく。

「王都を守るには、これしか方法がない」

セレナの目を見て、まっすぐに答えるアストラル。

そんなアストラルが、セレナは許せないようだった。

「だが、王都を守ることができても、ここを通過した魔物たちが別の村を襲う可能性があるんだぞ!」

「それは安心して。もう、ここで最後にする」

「……どういうことだ?」

怪訝な顔をするセレナ。

すると、アストラルはゆっくりと言葉を発した。

「……ファン、いるんだろ?」

「まぁ、いるといえばいるよ。君をここまで連れてきたのも、僕だからね」

物陰から、魔物を連れた中性的な容姿のファンが現れる。

セレナは少し警戒しつつも、そのファンを見た。

「そんなに警戒しなくてもいいじゃないか。少なくとも、アストラルに協力する間は仲間じゃないか」

「その言い方では、それ以外は敵だと言わんばかりだな」

「当たり前じゃないか。魔物を殺すだけの騎士とお友達になるなんて、死んでもごめんだね」

友達だった魔物を騎士に殺された過去を持つファンは、騎士が嫌いだ。

そして、ファンの目の前にいるセレナは騎士。

ファンがどれだけ我慢していても、やはり言葉にとげが含まれてしまう。

そしてセレナも、いきなり現れた人物への警戒心からか、言葉に敵意があった。

「二人とも、言い争っている時間はないんだ。ファン、簡単にセレナに説明してあげて」

そんな二人の様子を感じたアストラルが間に入る。

「仕方がないな」

ファンは少しだけいやそうな顔をするが、すぐにいつも通りの顔に戻った。

「僕は魔物を操ることができる。操るって言っても、自分の意のままにっていうのはほとんどできないけど、進路の修正くらいなら問題なくできる」

「それで、人里を避けて行進させるということか?」

ファンの言葉に、セレナはすぐに言葉を返す。

「そういうこと。これで人里に被害は出ず、今の段階で戦死者数は抑えられる。悪くないだろ?」

軽く、おどけた調子でファンは言う。

しかし、セレナはそんな様子は全くなかった。

「信用できないな。第一、本当に魔物が操れるというのなら、今すぐにでもやって見せろ」

「今はできない。魔物が興奮しすぎてる」

「本当はできないだけじゃないのか?」

少しだけ、嘲笑したような顔を浮かべるセレナ。

それは、明らかな挑発だった。

「よく言うよ! 君たちが魔物をこんなにも殺さなければ、ここまでの事態にはなりえなかったのに!!」

「何だと……!」

ファンの大きく放たれた言葉に、セレナも怒りを隠し切れないようだった。

ファンは間髪入れずに言葉を続ける。

「いいかい、魔物にも仲間意識がある。君たちだって、仲間が死んだら怒るだろう? それと同じだよ、魔物は仲間を殺されて激昂している。君たちが、ただ魔物を通しておけば、騎士にも死者は出なかったのに!」

「ふざけるな! 実際、農村で死者が出ているんだぞ!! やつらがただここを通過したいだけならば、死者は出ないはずだ!!」

「先に攻撃したのは、君たちだ! 農村のことだって、”農具で攻撃した村人”が魔物の反撃で殺されたんだ!!」

「どうしてそんなことが断言できる! 実際に、この目で見たのか!?」

二人とも、感情を隠さない声で、言葉で、言い争いを続ける。

見かねたアストラルが、すこしだけ低めに、二人をなだめるかのように、言葉をかける。

「二人とも落ち着いて」

「……すまない」

アストラルのその様子を見て、我に返るセレナ。

そして、すぐにしゅんとうつむく。

どうやら、感情的になってしまったことを反省しているようだ。

「……僕の説明は終わりだ。これ以上は何を言っても無駄だからね」

その様子を見たファンが、すこしだけ追い打ちをかけるように、言う。

「ファン」

「……悪かったよ」

ただ名前を読んだだけだが、その声に含まれた意思を感じたファンは、すぐに謝る。

しかし、『僕は悪くない』という様に、むっとした顔を浮かべた。

それを見たアストラルは、少しだけ笑うと、セレナの元へとあるく。

「セレナ、実際に僕らはその村を見てきた。死者が出たっていう農村よりも北の方角の村じゃ、魔物が通過しただけで、魔物の攻撃による死者はいなかったんだ」

「だが……!」

彼女は実際に、死者を見ている。

簡単には信じられない。

少しだけ、まっすぐにアストラルを見つめる目に、そんな思いがこもっていた。

「信じられないかもしれないけど、魔物は攻撃する意思をもって行動しているわけじゃないのは確かだよ。だからこそ、この戦いを終わらせることができる」

「それが王都を守護魔法で包むという作戦か?」

「そう。魔物はここよりも遠くへ行きたいだけだ。だからこそ、ここは通れないと伝える必要がある。攻撃的じゃないやり方でね」

「それで、『頼む』と私が言うと思うのか?」

「思わない。だけど、これしか道はないんだ。人を、王都を、魔物を、全て守るには」

アストラルは、まっすぐセレナの目を見る。

そのまなざしは真剣だ。

「アストラル……!」

「信じて、セレナ」

『いや、やっぱりだめだ』と言う言葉が、彼女の口から出かけている。

住んでのところで、彼女はその言葉を飲み込み、少し逡巡した後、ため息をついた。

次の瞬間には、いつものセレナがそこにいた。

「……わかった。それで、私はどうすればいい?」

「魔物の血がついた騎士を優先的に退避させるんだ。魔物の血の臭いが興奮の元になってしまっているからね。僕が騎士たちを退避させる時間を稼ぐよ」

さきほどまで黙っていたファンがセレナに言う。

セレナは少し驚いた様子だったが、すぐに落ち着いた声で尋ねた。

「どうやってだ? 今は魔物を操ることはできないのだろう?」

「こうやって」

ファンは懐から、小瓶を取り出すと、そのふたを開けた。

小瓶の中からは、強烈なにおいがした。

「……なるほど。臭いか」

「本当はやりたくないんだけど、魔物は鼻がいいからね。これで血の臭いをごまかす」

すこしだけいやそうな顔を浮かべるファン。

実際、魔物が嫌がる臭いなのだろう。

「あとは堀の中の臭いも消したいんだけど……大量の水を一気に流すのは難しいかな」

「あ、私出来ますぅ」

ファンはセレナに尋ねる。

しかし、返ってきた答えはセレナが言ったものではなかった。

「アリシア!?」

アストラルは驚いた声を出す。

まさかこんなところにアリシアがいるとは思っていなかったのだろう。

「お久しぶりですぅ、アストラルさん」

「アストラル、遅かったじゃねえか」

アリシアの後ろにいたレオンが、アストラルの肩に手を置く。

レオンのその顔は、嬉しそうだった。

「レオン、アリシア……!」

驚きが混じった、しかし嬉しそうに、アストラルはつぶやく。

だが、懐かしい面々との再会を喜んでいる時間はなかった。

「君があの堀を水で満たすことができるのかい?」

アリシアを見たファンが、すこしだけ疑うような声を出す。

アリシアの姿だけ見れば、確かに信じられないだろう。

「私が高級魔法で、堀の中の水で満たしますぅ」

「それは10分以内で終わるかい?」

「はい!」

自信満々に堪えるアリシア。

えっ編と胸を張る姿が、すこしだけ幼く見える。

「彼女は魔女だ。大丈夫、信頼できるよ」

いまいち信用できないという顔をするファンに、アストラルが後押しをする。

その言葉を聞いて、ファンは決心がついたようだった。

「なら任せよう。さて、アストラル。あとは君に託したよ。僕が出てから10分。それまでに騎士を退避させて守護魔法を発動するんだ」

「ファンも気を付けて」

「ああ、任せて」

ファンは手を振ると、隣にいた魔物の背に乗って前線へと走っていく。

その会話を聞いていたレオンが、信じられないといった声を出す。

「守護魔法? 一体、何の話だァ?」

「僕が王都を守護魔法で包む。そうすることで、魔物は王都に入ってこれない」

「あァ!?」

本気か? という言葉が続きそうな勢いで、レオンがアストラルに迫る。

しかし、その言葉が続かなかったのは、先にいった人物がいたからである。

「あ、アストラルさん! それはさすがに無謀ですぅ!!」

「わかってる。だけど、これしか方法はないんだ」

「……ったく、こうなると思ってなかったんだがなァ……」

なんだか諦めたかのような声を出すレオン。

そして、腰の袋をアストラルに手渡す。

中身を確認すると、アストラルは目を見開いた。

「これは……!」

袋の中に入っていたのは、大量のジェイド石だった。

「なんかあった時のために、ジェイド石をありったけ持ってきたァ」

「こんなにも……!」

「これで守護魔法の足しにはなんだろ」

「あ、ありがとう!」

アストラルは、レオンに礼を言う。

レオンは、構わないといった風に手を振った後、すこし難しい顔をした。

「さて、これを王都周りに配置しなきゃならねえがァ……一人で10分じゃきついなァ」

「それなら私も協力しよう」

レオンの言葉に、セレナが素早くこたえる。

ようやく、自分にできることが回ってきたと思っているようだ。

「私もですぅ!」

セレナに続いて、アリシアも勢いよく手を挙げていう。

しかし、すぐにその頭をレオンに少し叩かれた。

「ったぁ……!」

「お前は魔法を放つ役割があんだろ」

「すぐに終わりますぅ。それが終わり次第ということで」

叩かれた頭をなでながら、アリシアはさも簡単だという様に、答える。

それを見たレオンは、余計に疲れた顔をした。

「ったく……」

「ともかく、アリシアは魔法の準備だ。私とレオンでジェイド石を配置していこう」

「お願い。僕はここで騎士たちの誘導をする」

「んじゃあ、ちゃっちゃと終わらせようぜ」

「ああ……!」

「はい!」

レオンの言葉に、セレナとアリシアが返事をする。

そして、アストラルの言葉をきっかけに走り出した。

「みんな、頼んだよ! セレナも、無理はしないで!!」

「アストラルこそ、倒れるなよ! レオン、反対側は任せたぞ!!」

「任されたァ! それと、迷子になるなよ、アリシア!!」

「だ、大丈夫ですぅ! アストラルさんも、ご無事で!!」

「大丈夫、ここは任せて!」

それぞれが、それぞれに声をかけて、力強く答える。

残り10分。

最後の作戦が、開始した。


 * * * * * 


第3次防衛線。

王都への最後の砦のその防衛線に、魔物にのったファンがいた。

「さて、この場所でいいかな」

そうつぶやくと、ファンは小瓶のふたを開け、地面に垂らした。

それを繰り返し、第三次防衛線の等間隔程度に、小瓶の中身の液体が染み込んでいった。

それからすぐに、魔物たちが動きを止め、なにか苦しんでいるようだった。

「いまのうちに王都に下がるんだ!!」

「何を言う! ここで下がれば……!!」

近くにいた騎士が、ファンに抗議する。

今のうちに、魔物を倒そうと考えているようだった。

「アストラルの作戦なんだ! だから、王都に戻ってくれ!!」

「アストラルだと……! それは、本当か!?」

さらに別の騎士がファンに尋ねる。

その騎士は、すこしほかの騎士とは違う様に、ファンは感じた。

「ああ、ここをまっすぐ行った先に、アストラルがいる。そこを目指してほしい」

「……わかった。みな、聞いたな! 英雄の作戦だ! 王都へ下がれ!!」

その騎士が大きな声で言うと、騎士たちは次々と王都に戻っていった。

「すまない。ここも、限界が近かった。下がらせるきっかけになったこと、感謝する」

その騎士は頭を下げる。

他の騎士が素直に言うことを聞いたということは、かなり上の騎士のようだ。

「時間がない、早く戻るんだ」

「ああ、すまない」

その騎士は、周りにほかの騎士がいないことを確認すると、王都に下がっていった。

「本当に、君は好かれているね……アストラル」

その騎士の背中を見送るファンは、小さく、そうつぶやいた。


 * * * * * 


トコトコと走るアリシア。

王都からすこし時間が経ってしまったが、第二次防衛線にたどり着いていた。

「はぁ……はぁ……」

王都から休まず走り続けてきたのだろう、アリシアは息も絶え絶えだった。

「……よし!」

深呼吸を何度かして、呼吸を落ち着かせる。

そして、ゆっくりと目を閉じると、手を前に出した。

「『命の根源、全ての始まりの源、これは生きとし生けるすべての者たちへの恵み。これは始まりを意味し、同時に終わりを意味する。命を与え、恵みを与え、罪を流すもの。命を奪い、恵みを奪い、功を流すもの。これこそ、この地における万物万象の理、抗えぬ自然の力。全てを与え、全てを奪うもの。汝、その力をわが身に宿し、何を求むる。汝、我が魔の焔を分け与え、何を求める。汝、その名を告げよ』……!」

省略形ではない、完全な詠唱。

それをアリシアは完ぺきにこなす。

そして、力強く、希望を込めて、その名を言い放った。

「『イニィーツオ・マーレ(始まりの海)』!!」

アリシアの目の間に、突如として現れる巨大な水。

それは、まさしく海と呼ぶにふさわしかった。

「いってえええええええええええええええ!!」

アリシアは、手を思い切り横に振る。

その動きに連動するかのように、目の前の海から、大量の水が堀へと流れていく。

水流の勢いは止まらず、堀をすべて水で満たしていく。

「っ……! はぁ……はぁ……」

へなへなと座るアリシア。

どうやら、渾身の魔力をつぎ込んだようだ。

「ジェイド石の手伝いをしないと……!」

アリシアは、体に鞭打って立ち上がる。

しかし、その足はがくがくと震えている。

「私だって……力になるんですぅ……!!」

アリシアは、ゆっくりだが、一歩ずつ、歩いていく。

足こそ震えているが、その足取りは、しっかりとしたものだった。


 * * * * * 


「これで……こっち側は終わりかァ」

レオンは、手元に残ったジェイド石を置く。

それが、レオンの担当分、最後のジェイド石だった。

前を見ると、まだセレナは終わっていないようだ。

(セレナの手伝いに行くより、あいつを迎えに行った方が確実かァ……)

レオンは、持っていた布袋を投げると、反転して走っていく。

その速度は人間が到底出せるものではない。

それくらいの速さで、レオンは走る。

アストラルがいる場所を超え、第三次防衛線を超えていく。

(ったく……まだあんなとこにいやがんのかァ)

レオンは、ふらふらと歩いているアリシアの姿をみつける。

そして、そのアリシアの元へと向かう。

「アリシア!」

「れ、レオンさん……!」

「無理すんなァ。ほら、行くぞ」

「お、お願いしますぅ……」

レオンは、アリシアをわきに抱え、王都へと走っていく。

もう時間はそれほど残ってはいない。

(あいつは、間に合うのかァ……?)

レオンの頭に不安がよぎる。

第三次防衛線で、ふらふらになっていたセレナだ。

途中で、力尽きた可能性もなくはない。

そんなレオンの顔を見たアリシアが、つぶやく。

その声は、やけにはっきりと、そして確信があるかのように、レオンには聞こえた。

「セレナさんなら、大丈夫ですぅ。アストラルさんがいますから」

「はん! 確かに、そうだなァ」

すこし笑みを浮かべるレオン。

そして、そのままの顔で、アリシアに告げる。

「舌をかむなよ!」

「へっ? ちょ……」

キョトンとした声を出すアリシア。

しかし、レオンはアリシアの言葉を待たずに、走る速度をあげた。

「っと、待ってくださいいいいいいいいいい!!」

第三次防衛線に、アリシアの叫び声が、響き渡った。


 * * * * * 


「こっちです! 急いでください!!」

アストラルは第三次防衛線から下がってきた騎士たちを誘導する。

ファンが告げたタイムリミットまで、あとわずかだった。

(時間まであと少し……。みんな、無事でいて……!)

騎士たちを誘導しながら、アストラルは仲間を想う。

次第に、騎士の数も減っていき、最後はアストラルも見たことがある顔だった。

「久しぶりだな」

「騎士団長……!」

アストラルに声をかける騎士団長。

アストラルの顔を見ると、少しだけ微笑んだ。

「なるほど、たくましくなった。男子三日会わざれば、というやつだな」

「いえ……僕はまだまだ未熟です」

アストラルは、腰に手を置くと、騎士団長にそう答える。

だが、その答えを聞いた騎士団長は『なるほど』とつぶやく。

「そう答えられるようになっただけでも、成長している。……君にこんなことを頼むべきではないとわかっているが……あとは任せた」

「……はい!」

騎士団長の言葉に、力強く答えるアストラル。

その返答を聞いて、騎士団長はすこしだけ嬉しそうな顔をした。

(守るんだ……! 今度こそ、僕が……僕の力で!!)

アストラルは、ぎゅっとこぶしを握る。

そして、魔物の群れを見た。

魔物たちは、ファンが撒いた液体の臭いでもがいているみたいだ。

その効果も、直に切れる。

まだ、レオンも、アリシアも、セレナも帰ってきていない。

だが、アストラルの心に、焦りはない。

それは、『必ずやり遂げる』という信頼があるからだ。

信じて待つ。

それは確かに単純なことだ。

だが、それはとても難しい。

並大抵の信頼では、できないだろう。

それができるほど、かつて魔剣をめぐる戦いをした仲間たちとの信頼は強かった。

そして、第三次防衛線から帰ってくるレオンとアリシアをみつけた。

「レオン! アリシア!!」

「待たせたなァ。ジェイド石を配置した後、こいつを迎えに行ってたんだァ」

レオンが指さした先には、すっかり元気をなくしたアリシアがいた。

「うぅ……揺れるぅぅ……」

「た、大変だったね……」

アストラルは俯くアリシアを見て、どれだけの勢いでレオンが走ったのか、容易に想像できた。

そんなアリシアの様子を全くと言っていいほど気にかけないレオンは、辺りを見渡した後、アストラルに尋ねた。

「そんなことはどうでもいい。セレナはどうしたァ?」

「まだ戻ってきてない」

「あァ!? もう時間だぞ!!」

「大丈夫。セレナは、必ずやり遂げるよ」

「信頼されてんなァ」

「信じてるからね。いつだって、どんなときも」

アストラルの答えを聞いて、レオンは『やれやれ』といった風に、首を振った。

「まぁいい。もう……時間だァ」

そういうと、レオンは魔物の方を見る。

アストラルも、それをみた。

「二人とも、僕の後ろに。いまから守護魔法を放つ」

アストラルの言葉に従い、レオンはアリシアを抱えたまま、アストラルの後ろに下がる。

それを確認したアストラルは、息を大きく吸うと、ペンダントをぎゅっと握った。

「行くよ! 守護魔法……発動!!」

アストラルの声が響くと、ペンダントが光り輝き、アストラルたちの前に光の壁が出来上がっていく。

それは次第に大きくなり、おいてあるジェイド石がその力を増大させていった。

「今度こそ……守って見せる!!」


 * * * * * 


セレナがジェイド石を置き終え、アストラルの元へ戻っている時、空に光の壁ができていくのを、彼女は見た。

「時間か……!」

身体に鞭打ちながら、アストラルの元へと歩いていくセレナ。

その足取りは重い。

「私は行くんだ……アストラルの元へ……!」

自分に言い聞かせるように、セレナはつぶやく。

何度も倒れそうになりながらも、彼女は一歩一歩、アストラルの元へ歩く。

当然、王都の道を歩く人影などない。

万全の体調の彼女ならば、すでにアストラルの元へとたどり着いているだろう。

だが、彼女が今いる場所から、王都の入り口までは、まだ距離がある。

壁を伝いながら、セレナは歩く。

待ち続けた、彼の元へと。

(全く……戻ってきたと思えば、いきなり忙しいな……)

セレナは、そんなことを思う。

彼女が想像していた、アストラルの帰りは、もっとおとなしいものだった。

勿論、誰もが魔物の襲来のさなかに帰ってくるなど、想像しないだろう。

(ふらっと帰ってきて、『ただいま』なんていうのかと思っていたが……まだ、『おかえり』でさえ、言えていないのだな)

すこし自嘲するような笑みを浮かべるセレナ。

その間も、足取りは止まらず進み続ける。

(いつも……そうだったな。アストラルにあった時も、学園に行った時も、今も……ゆっくりとあったことなんて、ほとんどないな)

空にできた光の壁は、完成を目指して大きくなっていく。

もう王都の半分近くが、覆われ始めていた。

(そうだな、たまにはゆっくりと会ってみたいな。普通に約束でもして、どこかでゆっくりと)

願いを込めて、セレナは歩く。

それは、未来への願望。

誰もが夢見る、穏やかな日常。

そんな願いを胸に、彼女は歩く。

その約束がしたい、彼の元へと。


 * * * * * 


「っ……!」

守護魔法を発動してから、数分。

アストラルの額に、汗があふれ始めていた。

「まだっ……!」

アストラルは魔法を放ちつづける。

ジェイド石の補助があっても、この消耗ならば、補助がなかった場合、アストラルはここまで持っていなかったかもしれない。

そんな危機感を覚えるくらい、アストラルの体力の消耗は激しい。

それに加え、魔物の攻撃も始まっていた。

「ガアアアアアアアアアア!!」

魔物は、光の壁を何度も何度も攻撃する。

その奥にいるアストラルに、攻撃を仕掛けようと言わんばかりに。

「お願い、落ち着いて……!」

アストラルがそうつぶやいても、魔物の攻撃が止む気配はない。

それどころか、激しさが増していくばかりだった。

「っぅ……!」

魔物の攻撃がある度に、アストラルが揺れる。

これだけ大きな魔法を放ち続けているのだ。

維持も普段よりも負担が大きい。

そう長い間、放ち続けていられる保証はなかった。

「アストラル! あともう少しだけ耐えて!!」

ファンの声が守護魔法を通して聞こえてくる。

あともう少し。

その時間は、アストラルにとって、とても長く感じる。

「ガアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

「なっ!!」

魔物の強烈な攻撃。

魔物たちも、本気で守護魔法を破ろうとしてきているようだった。

「っ……! しまった……!!」

体勢を崩すアストラル。

しかし、その体は地面には倒れなかった。

「遅くなってすまない」

「セレナ……!」

倒れかけたアストラルをセレナが支える。

そして、そのまま二人で互いを支えあって、魔物に向き合う。

「セレナ、ありがとう」

「まだ終わりじゃない。それに、礼を言うのは私の方だ」

「いま、言いたいんだ。ちゃんと、言葉で」

「私も、お前に言いたいことがある。これが終わったら、聞いてくれるな?」

「勿論、喜んで」

守護魔法を発動中、しかも目の前に魔物がいる状況下で、二人はそんな会話をする。

その顔は、とても穏やかだった。

「なにも、ここにいんのはお前たち二人じゃねえぞ」

「私もいますぅ!!」

「二人とも……!」

セレナとアストラルを、レオンとアリシアが支える。

「倒れるなよ、アストラル! セレナ!」

「しっかり、支えますから!」

ニッと笑顔を見せる二人。

それみたアストラルとセレナは、たがいに見合った後、笑った。

「さあ、もう少しだ!」

「ここまで来たんなら、持ちこたえて見せろ!」

「アストラルさん!」

「はあああああああああああああああああ!!」

仲間の声を聞き、アストラルが力を籠める。

守護魔法は、その想いに応えるかのように、その強度を増していく。

「よし、整った!」

ファンはそういったあと、指をぱちんと鳴らす。

それが聞こえたのと同時に、魔物たちは攻撃をやめた。

「さあ、僕に続け!」

ファンが走り出すと、魔物たちはそのあとをついていく。

一体、また一体とファンの後ろをついていき、数分後には魔物の姿は見えなくなっていた。

「終わった……。守り……切ったんだ……!!」

「アストラル!!」

ぎゅっと、セレナはアストラルを抱きしめる。

「せ、セレナ!?」

その突然のことに、アストラルは動揺していた。

「ありがとう……本当に……!」

すこし涙が混じったセレナの声。

その声を聞いて、アストラルはセレナを抱きしめた。

こうして、多数の犠牲者を出した王都防衛戦は、王都に住む民間人及び建築物の被害なく、幕を閉じた。

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