第6話 王都防衛戦
どうも、Make Only Innocent Fantasyの三条海斗です。
ちょっと長くなってしまいましたが、次で第四部最終話です。
もうすこし、最後までおつきあいお願いします。
それでは、どうぞ!!
「日が昇るな……」
セレナの隣に立つ、騎士団長はそうつぶやいた。
ここには、騎士団に所属している全騎士が集結している。
文字通り、総力戦だった。
「住民の避難はどうなっている?」
騎士団長は、近くにいた部下……それでも小隊・中隊長規模の騎士に尋ねた。
「王立図書館および王宮への避難は完了しております。また、若い者に王宮および王立図書館の護衛を任せています」
「うむ。生き残る可能性は高い方がいいだろうからな」
生存確率の高い後方に、若い者を残す。
それくらい、この作戦での生還率は低く見積もられていた。
いや、その生還率が算出されなくても、騎士たちは死を覚悟しただろう。
「セレナ。今回の作戦が終わったら、どうするんだ?」
騎士団長はセレナに、そう問いかける。
しかし、その顔はセレナを見ず、ただまっすぐ前を見ていた。
「今回のことで被害にあった村の復興支援をしながら、あいつの旅が終わるのを待とうかと」
「なるほど。英雄は、来ない……か」
「アストラルがいなくても、私たちはこの場所を守らなくてはなりません。それに、もともとアストラルは戦う人間ではない。これ以上頼るわけにもいきません」
セレナは、そう答える。
その答えを聞いた騎士団長・アレックスは大きな声で笑った。
「な、なにがおかしいのですか?」
「いやいや、なにもおかしくはない。ただ、な……」
笑いがこらえきれないのか、それでも笑い続ける騎士団長。
よく見てみると、周りの騎士も笑いをこらえているようだった。
「私は、なにかおかしなことを言ったのだろうか……」
「まァ、なんだァ。恋する乙女ってことだろ」
ぶつぶつとつぶやくセレナに、レオンがぼそっとそう伝える。
それを聞いたセレナは、見たこともないほど、顔を真っ赤にした。
「そ、そういう意味で言ったのではない!」
「わァかってるよ、んなことくらい」
「そうですよ、きっとアストラルさんも同じように思っていますから」
レオンに続き、アリシアもそう答える。
戦う前だというのに、彼女たちの気持ちは重くない。
『絶対に生き残る』
その想いが、彼女たち……その場にいるすべての者たちを突き動かす。
逃げるためではない。
殺すためではない。
守るための戦い。
「……来たか」
騎士団長の視線の先に、大きくうごめく黒い塊があった。
その塊は三角形を地面に置いたかのように、奥へ行くほどに横に広がっていく。
その数は、依然見たときよりも多くなっているようだった。
「多いな……。やはり、この3日で数を増やしたか……!!」
「数が多かろうと、やるべきことに関係ない」
騎士団長はそういうと、振り返り剣を抜く。
そして、それを上にあげると、大きく叫んだ。
「皆の者、聞けっ! 眼前に広がる魔物の群れを見よっ!! 我らが命は、王国の民のためにあると知れっ!!! 王国を守り、必ず生きて帰還せよ!!!!」
「「了解!!」」
騎士団長の声に答える、多くの騎士。
その声に、絶望の色はない。
「戦闘準備! 配置に着け!!」
その命が出されると、騎士たちは自分の持ち場へと走っていく。
一番危険な第一次防衛線。。
この防衛戦は、馬防柵によって、魔物の群れを分散させ、各個撃破を目的としている。
その第一次防衛戦を突破してきた魔物を相手にする、第二次防衛線。
深い堀に入った魔物を弓や落石などで遠距離で対処する防衛線。
この防衛戦を突破された場合、自らの腕のみで魔物を倒す第三次防衛線以外、王都を守る術はない。
この三段階の防衛線で、決着をつける。
それが今回の作戦だ。
レオンは、その戦闘能力の高さから第一次防衛線に。
アリシアは、魔法を使えることから第二次防衛線に。
セレナは、王都を守る最後の砦である第三次防衛線に配備された。
魔物が間もなく、第一次防衛戦に到達するとき。
騎士団長の大きな声が、戦場に響き渡る。
「戦闘開始!!」
* * * * *
セレナたちが魔物の姿を捉えたころ。
魔物の群れも、同じようにセレナたちを見ていた。
そして、その歩みを妨害するものも。
それでも、魔物たちは進行方向を変えない。
ただまっすぐ、前に進んでいく。
その眼が見ているものは、人か明日か、命か。
それは魔物にしかわからない。
だが、その答えを告げるかのように、聞こえてきた声に、戦闘を走る魔物は雄たけびで答えた。
「ウォォォォォォォォォン!!」
* * * * *
聞こえてきた雄たけび。
それは、魔物たちの言葉なき声。
まるで、『邪魔をするな』と言わんばかりに、魔物たちの速度は上がっていく。
「ったく、最初から殺る気満々かよ!!」
レオンは短剣を取り出し、金獅子時代を彷彿させる構えをする。
「行くぜェ……!」
魔物たちが馬防柵に差し掛かり、先頭集団が分散して第一次防衛線とぶつかる。
「はあっ!!」
「ガアッ!!」
牙と剣、爪と剣が交わり、至る所で激しい音を立てる。
「ちぃっ! 数が多いなァ!!」
短剣を巧みに使い、魔物を一体ずつ倒していくレオン。
彼の身体能力の高さは、全く衰えを感じさせない。
それどころか、前よりも格段に向上しているようにも見えた。
「おい! 無理すんなァ!!」
近くにいた騎士に、そう声をかけるレオン。
だが、騎士にはその声が聞こえていないようだった。
「はぁっ……はぁっ……!」
「ガルルルッ」
肩で息をしている騎士をにらむ魔物。
にらみ合いが続くかに思われたが、そのにらみ合いは長くは続かなかった。
「う、うわあああああああ!!」
「待てっ! 大振りすぎんぞ!!」
叫び声にも近い声を上げて、騎士が大きく剣を振り上げる。
すぐにレオンが静止したが、時すでに遅し。
「ガアアアアアアアアアア!!」
下から魔物がその騎士の首めがけて、飛びかかる。
すぐにレオンが攻撃しようとしたが、別の魔物に阻まれる。
「くそっ! 邪魔だァ!!」
すぐに魔物を倒すが、次の瞬間、目の前にあったのは、のど元を食いちぎられた騎士の死体だった。
「くそっ……!」
レオンは、悔しさをにじませる。
手が届く距離にいた仲間。
かつてはレオンを追う騎士たちでも、今は仲間だ。
その命が、彼の目の前で散っていった。
「さすがに……このままっていうわけにもいかねえかァ……!」
レオンは、息を大きく吸う。
そして、次の瞬間には獣人化していた。
「オラオラァ、どきやがれ!!」
爪で魔物を蹴散らしてくレオン。
しかし、一人で倒せる数には限界がある。
すでに何匹かの魔物は第一次防衛線を突破していた。
「そっちにいったぞ!!」
* * * * *
「了解ですぅ!!」
レオンの声に、アリシアが答える。
その眼前には、堀の中に入っていく魔物たちの姿があった。
「ここから先へは行かせません!!」
アリシアはそういうと、手を真上にあげる。
そして、目を閉じると、手の上に水の球が現れた。
「底まで落ちてくださいっ!」
そして、その水球を魔物にぶつける。
水球を受けた魔物は、斜めになっている坂を転がり、堀の一番下まで落ちていく。
そのアリシアの横から、絶え間なく降り注ぐ弓矢。
堀に入った魔物たちは、その弓矢に一匹、また一匹とやられていく。
魔物が跳躍しても届かないくらい大きな堀。
アリシアたちがいる方に行くには、その堀の一番下まで行って坂を上るか、とてつもない遠回りをするしかない。
もちろん、騎士たちがそのとてつもない遠回りを許すはずがないため、魔物たちは堀を進んでいくしかない。
だが、堀の両側は急な坂になっていて、降りるのは楽だが、上るには少し時間がかかる。
その間に、アリシアの魔法や落石舞台によって堀の一番下まで落とされ、弓矢によって仕留められる。
逃げようにも、反対側の坂も同じように急になっていて、魔物たちがどんどん増えていくと逃げることですらできなくなる。
その結果として、堀の中には魔物の死体がどんどん増えていった。
* * * * *
作戦は順調に進んでいる。
セレナも、騎士団長も、第一次・第二次防衛線の活躍を見ていた。
(レオン……アリシア……! 頼む、無事でいてくれ……!!)
ぎゅっと槍を握る手に力がこもる。
最前線で戦うべきだと考えている彼女が、一番最後の防衛線にいることになっているのは、騎士団長によるものだった。
『作戦の立案者が最後列で戦況を判断せずに、どのように王都を防衛するというのだ?』と言われてしまえば、セレナが反論できるはずもない。
作戦を詰めたのはレオンたちだが、王都防衛線を張るといったのは、セレナだ。
作戦の立案者である彼女は、第三次防衛線で作戦成功の報告を待っていた。
「信じろ、自分の作戦を」
「信じてはいますが……やはり、私も前線に行くべきでは……」
騎士団長の言葉に、セレナはそう答える。
「部下を信じて待つ。もしも部下が失敗をしても、その失敗を取り返すのが、上司としての役目だ。最後にいなくて、いつ部下のミスを挽回するんだ?」
「わかってはいます。ですが、じっと待っているだけ、というのは私にはできません」
「もうすこし忍耐を覚えるんだな。彼の帰りを待っているのと同じように、部下の帰りを待つといい」
セレナと会話をする騎士団長は、一度もセレナの方を見ない。
ただ、まっすぐ前線の行方を見ているだけだった。
それはまるで……二つの防衛線を突破されると、予想しているかのように。
セレナは、その視線に悪い予感がした。
奇しくも、その予感は当たってしまうことになる。
* * * * *
「ちぃ!!」
レオンが魔物の攻撃を避け、爪で魔物の体を切り裂く。
時間が経つにつれ、レオンたちの体力は減っていき、それと同時に魔物の力が増していっているようだ。
「最初の群れは、様子見ってことかよ……!」
それを示すかのように、魔物の攻撃によって倒れていく騎士が増え始めていた。
魔物の数は減っていても、全体から見れば微々たるものだろう。
次第に、騎士たちの顔色にも限界の色が見え始めていた。
(くそっ……! ここまでやったっていうのによ……! だが、まだ戦える!!)
レオンがそう思ったとき、彼の耳に聞こえてきた音があった。
彼はその音に、自分の耳を疑った。
聞こえてきたのは、バキッっという、まるで”木の枝を折るような音”だった。
「おいおい……嘘だろ……!!」
レオンが見たのは、複数の魔物が、馬防柵をかみ砕いている姿だった。
「馬防柵を守れっ! やつら、作戦に気付いていやがる!!」
そうはいっても、馬防柵を守るために動ける騎士など限られている。
レオンも必死に攻撃をして馬防柵を守るが、それでも数が多すぎる。
すると、遠くの方でガラガラというすこし小気味のいい音が、彼の耳に届いた。
「嘘だろ……! まさか、もう壊しやがったっていうのかよ……!」
だが、彼の目に見えたのは、破壊された馬防柵を超えていく魔物の姿だった。
馬防柵は奥から順に、一つずつ壊されていく。
気がついたときには、すでに半分以上の柵がなくなっていた。
「くそっ!!」
レオンは判断する。
いま、どうするべきなのかを。
そして、彼にとっても、そして後方に控える仲間にとっても、つらい答えを彼は選択した。
「全員退けっ! もう、この防衛線は持たねえ!!」
「退けってどこに!? この後ろには、堀があるんだぞ!!」
騎士たちの声は、必死だ。
頭では、防衛線が突破されているということがわかっていても、それを認めたくないのかもしれない。
「遠回りをしてでも、逃げ延びるんだよ! 第二次防衛線じゃなくても、第三次防衛線に加われば、まだ守り切れる可能性はある!」
レオンは魔物を倒しながら叫ぶ。
その姿に、騎士たちが何を感じたのかはわからない。
だが、騎士の目に『逃げる』という文字は見えなかった。
「あんたも、ちゃんと追ってこいよ」
「はん、誰に言ってやがるんだァ?」
去り際、騎士が残した言葉に、レオンは笑みを浮かべながら答えた。
* * * * *
「第一次防衛線が突破された……!」
アリシアはその様子を、この目で見ていた。
そして今も、崩壊した第一次防衛線で、レオンが戦っている姿も見えた。
「レオンさん……!」
だが、アリシアはレオンを助けにはいけない。
ここで、魔物たちを足止めしなければならないからだ。
崩壊した第一次防衛線を超えてきた魔物は、堀の中でどんどんその歩みを止めていく。
しかし、その数が多すぎて、対処しきれていないのも、事実だった。
第一次防衛線と第二次防衛線。
この第二次防衛線が、第一次防衛線の後ろにあるのは、数が多い魔物相手では、対処しきれない可能性があったからだ。
弓矢は絶え間なく降り注いでいるが、一人の人間が絶え間なく撃っているわけではない。
多くの人が、攻撃をすることで絶え間なく降り続いているに過ぎない。
その中の一人の隙を突かれてしまうと、最悪それが連鎖して防衛線すべてが崩壊しかけない。
だからこそ、初めに数を減らす第一次防衛線の後ろに堀が配置されたのだ。
その第一次防衛線が崩壊した。
それはつまり、魔物たちは何の障害物もなく、堀へと侵入することができてしまうことを意味していた。
「矢を放てっ! 落石部隊は絶え間なく落とせ!!」
第二次防衛線を指示する騎士の怒声にも近い声が響く。
近くであれば耳をふさぐであろう大声。
しかし、それくらい大きな声を出しても、魔物たちの足音でかき消されてしまう。
「流れてくださいっ!!」
アリシアが、水流を生む魔法を放ち、魔物たちを押し流す。
しかし、それでもわずかな時間稼ぎにしかならない。
「対処しきれません……!!」
現状では、まだぎりぎりのところで押しとどめている。
しかし、堀は簡単に言ってしまえば、ただの溝だ。
それは延々と続くものでもなければ、川のように流れていくものでもない。
そこに入ったものは、そこにとどまり続け、最終的にはあふれ出る。
現在の堀には、大量の魔物の死骸が堀を底上げし、大量の魔物がひしめき合っている。
そして、その時は訪れた。
「魔物が一直線に来る……!」
高くなった堀の底、動き回る魔物の背。
その二つが合わさって、堀の深さは半分……いや、3分の1程度にまで浅くなってしまっていた。
そうなってしまえば、もともとの身体能力の高い魔物は、ほぼ直進するかのようにわたってくる。
「何としてでも撃ち落とせ!!」
弓矢が魔物目掛けて放たれるが、下にいる魔物に刺さり、その背を自由に走り回る魔物には当たらない。
そして、一匹の魔物が対岸にたどり着く。
弓矢を構えていた兵士は、近くの魔物には無防備な格好を見せてしまっている。
それを見逃す魔物ではない。
「ガアアアアアアアアアア!!」
咆哮を上げると、爪で騎士ののど元を切り裂く。
倒れた騎士の息の根が止まるのを確認せず、魔物は次の標的を定めるかのように、王都へと進んでいく。
別の魔物も、一体、また一体と魔物は第二次防衛線を突破して、王都へと走っていく。
「ここで押し返さないと……!」
アリシアが詠唱に入る。
魔物を魔法で押し返すためだ。
だが、そんなアリシアを狙う、一匹の魔物がいた。
その魔物は、対岸に渡り切ったばかりで、まだ誰も気づいていない。
詠唱中のアリシアさえも、その魔物に気付いていなかった。
魔物は声を殺してアリシアに近づく。
そして、一息で殺せるというところで、ようやくその声を出した。
「う、うわあっ!?」
驚いて、しりもちをつくアリシア。
魔物は手加減などしない。
しりもちをついていようが、背中を見せようが、ためらわずに食らう。
「ガアアアアアアアアアアアア!!」
「ひっ……!」
恐怖で声も出ないアリシア。
だが、魔物の牙はアリシアの顔に近づいてくる。
ぎゅっと、目をつぶるアリシア。
同時に、彼女は死の恐怖を感じた。
「アリシアッ!!」
レオンの声が響く。
そして、肉をかみ切るような、すこし湿った音がアリシアの耳に届いた。
* * * * *
「超えてきたか」
騎士団長の重々しい声が、セレナの耳に届く。
そして、すこしだけ彼女は苦々しい顔をした。
「戦う前にそんな顔をするな。こうなったのなら、全力を尽くせ」
「……はい!」
セレナは槍を……学園でアストラルに渡され、農村で副長に渡し、王宮で返されたその槍を構える。
必ず守るという強い意志の元、彼女は駆けだした。
魔物とのすれ違いざまに、セレナは槍を横なぎに振り、魔物を切り裂く。
その魔物は血を吹き出しながら地面に倒れる。
彼女は、振り向きなどしない。
ただ走ってくる魔物に、向かっていくだけだ。
「はあっ!」
次々に魔物を葬るセレナ。
かつて、エリート部隊と言われた第07部隊に所属していた実力は伊達ではないということを感じさせる。
「来るなら来い! 私が相手だ!!」
槍を操り、魔物を貫き、切り裂き、葬っていくセレナ。
明らかに最初から全力の戦いをしていた。
当然、体力もすぐになくなる。
開始数分で、肩から息をし始めていた。
それでも、彼女は止まらない。
槍を振り、突き出し、魔物に挑んでいく。
冷静さなどない。
あるのは執念に似た覚悟だけだ。
「突出しすぎるな!」
騎士団長の声が聞こえたとき、セレナはすでに魔物の群れに囲まれていた。
「くっ!」
槍を構えて、敵の動きを見るセレナ。
普段であれば、受け身の型で切り抜けるだろう。
だが、彼女に普段通りに受け流せるほどの体力は残っていなかった。
全力であったことを示すかのように、彼女が通ってきた道には、魔物の死体が転がっている。
その数は、並の騎士が倒せる数ではない。
「ガアアアアアアアアアア!!」
一体が吠えると、それが合図になり、一斉にセレナにとびかかる。
(くっ……! こんなところで……!!)
セレナは、槍を振り回そうとする。
だが、その瞬間、膝から崩れ落ちる。
もう、彼女には立っていられるだけの体力は残っていなかった。
「まだだ! 私はまだ……!!」
セレナの声は、魔物にも聞こえているだろう。
だが、そんなことで止まる魔物ではない。
既に、魔物たちはセレナを標的に定めていた。
* * * * *
(あれ……? 痛みがない……?)
まだ彼女は生きている。
大きく鼓動する心臓が、それを証明していた。
「ったく……! 危なくなったら下がれってんだァ……!!」
聞こえてきた、聞き覚えのある声。
ゆっくりと目を開けると、アリシアの目の前には、魔物が食いついた腕があった。
そして、その腕の主は、アリシアを守るかのように、立っている。
「れ、レオンさん!!」
「間に合わなかったらどうするつもりだったんだァ?」
「う、腕がっ! レオンさん、腕が!!」
「あァ? ったく、こんなんで動揺してんじゃねえよ」
レオンは腕を上げると、魔物の目をにらむ。
そして、噛みつかれていない方の手で、魔物を殴る。
「ッァッ……!?」
声にならないうめき声をあげながら、魔物はレオンの腕から離れていく。
タイミングを合わせて、その魔物をレオンは堀へと蹴り飛ばした。
ボールのようにはねた後、魔物はピクリとも動かなくなった。
「血がっ!!」
「大丈夫だァ。それよりも……」
レオンは王都の方を見る。
そこには、王都へと進む魔物を阻む騎士たちの姿が見えた。
「最悪の状況だァ」
「っ……!」
ぽろぽろと涙を流すアリシア。
「ったく、こんなところで泣いてるヒマなんざねえんだァ。さっさと後方に下がるぞ」
「……っ……はい……!」
立ち上がるアリシア。
そして、レオンに抱えられて、アリシアは第三次防衛線のさらに後方へと向かっていった。
* * * * *
「こんなところで、終わらせたりしないよ」
魔物たちは空中で、何か見えない壁に阻まれているかのように見えた。
そして、その魔法をセレナは知っている。
その魔法を使う者も、その者の声も。
「あ……」
懐かしい背中。
その者の名を呼びたいのに、彼女は声が出ない。
「遅くなってごめん」
その者は、セレナの方を向く。
この魔物の群れをかき分けて、あの絶望的な状況から守護魔法を発動して、セレナを助ける。
それは、その者ができなかったこと。
あと一歩届かなかったこと。
「あ……す……」
「僕も、王都を守る。だから、力を貸して……セレナ」
「あ……」
セレナの目には、涙が浮かぶ。
それは嬉しさもあったが、安堵の涙でもあった。
そして、彼女はその者の名を叫ぶ。
3年も待った、その者の名を。
「アストラル!!」




