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僕と魔剣と ~それぞれの道~  作者: M.O.I.F.
第四部 この空の下で
20/22

第6話 王都防衛戦

どうも、Make Only Innocent Fantasyの三条海斗です。

ちょっと長くなってしまいましたが、次で第四部最終話です。

もうすこし、最後までおつきあいお願いします。

それでは、どうぞ!!

「日が昇るな……」

セレナの隣に立つ、騎士団長はそうつぶやいた。

ここには、騎士団に所属している全騎士が集結している。

文字通り、総力戦だった。

「住民の避難はどうなっている?」

騎士団長は、近くにいた部下……それでも小隊・中隊長規模の騎士に尋ねた。

「王立図書館および王宮への避難は完了しております。また、若い者に王宮および王立図書館の護衛を任せています」

「うむ。生き残る可能性は高い方がいいだろうからな」

生存確率の高い後方に、若い者を残す。

それくらい、この作戦での生還率は低く見積もられていた。

いや、その生還率が算出されなくても、騎士たちは死を覚悟しただろう。

「セレナ。今回の作戦が終わったら、どうするんだ?」

騎士団長はセレナに、そう問いかける。

しかし、その顔はセレナを見ず、ただまっすぐ前を見ていた。

「今回のことで被害にあった村の復興支援をしながら、あいつの旅が終わるのを待とうかと」

「なるほど。英雄は、来ない……か」

「アストラルがいなくても、私たちはこの場所を守らなくてはなりません。それに、もともとアストラルは戦う人間ではない。これ以上頼るわけにもいきません」

セレナは、そう答える。

その答えを聞いた騎士団長・アレックスは大きな声で笑った。

「な、なにがおかしいのですか?」

「いやいや、なにもおかしくはない。ただ、な……」

笑いがこらえきれないのか、それでも笑い続ける騎士団長。

よく見てみると、周りの騎士も笑いをこらえているようだった。

「私は、なにかおかしなことを言ったのだろうか……」

「まァ、なんだァ。恋する乙女ってことだろ」

ぶつぶつとつぶやくセレナに、レオンがぼそっとそう伝える。

それを聞いたセレナは、見たこともないほど、顔を真っ赤にした。

「そ、そういう意味で言ったのではない!」

「わァかってるよ、んなことくらい」

「そうですよ、きっとアストラルさんも同じように思っていますから」

レオンに続き、アリシアもそう答える。

戦う前だというのに、彼女たちの気持ちは重くない。

『絶対に生き残る』

その想いが、彼女たち……その場にいるすべての者たちを突き動かす。

逃げるためではない。

殺すためではない。

守るための戦い。

「……来たか」

騎士団長の視線の先に、大きくうごめく黒い塊があった。

その塊は三角形を地面に置いたかのように、奥へ行くほどに横に広がっていく。

その数は、依然見たときよりも多くなっているようだった。

「多いな……。やはり、この3日で数を増やしたか……!!」

「数が多かろうと、やるべきことに関係ない」

騎士団長はそういうと、振り返り剣を抜く。

そして、それを上にあげると、大きく叫んだ。

「皆の者、聞けっ! 眼前に広がる魔物の群れを見よっ!! 我らが命は、王国の民のためにあると知れっ!!! 王国を守り、必ず生きて帰還せよ!!!!」

「「了解!!」」

騎士団長の声に答える、多くの騎士。

その声に、絶望の色はない。

「戦闘準備! 配置に着け!!」

その命が出されると、騎士たちは自分の持ち場へと走っていく。

一番危険な第一次防衛線。。

この防衛戦は、馬防柵によって、魔物の群れを分散させ、各個撃破を目的としている。

その第一次防衛戦を突破してきた魔物を相手にする、第二次防衛線。

深い堀に入った魔物を弓や落石などで遠距離で対処する防衛線。

この防衛戦を突破された場合、自らの腕のみで魔物を倒す第三次防衛線以外、王都を守る術はない。

この三段階の防衛線で、決着をつける。

それが今回の作戦だ。

レオンは、その戦闘能力の高さから第一次防衛線に。

アリシアは、魔法を使えることから第二次防衛線に。

セレナは、王都を守る最後の砦である第三次防衛線に配備された。

魔物が間もなく、第一次防衛戦に到達するとき。

騎士団長の大きな声が、戦場に響き渡る。

「戦闘開始!!」


 * * * * * 


セレナたちが魔物の姿を捉えたころ。

魔物の群れも、同じようにセレナたちを見ていた。

そして、その歩みを妨害するものも。

それでも、魔物たちは進行方向を変えない。

ただまっすぐ、前に進んでいく。

その眼が見ているものは、人か明日か、命か。

それは魔物にしかわからない。

だが、その答えを告げるかのように、聞こえてきた声に、戦闘を走る魔物は雄たけびで答えた。

「ウォォォォォォォォォン!!」


 * * * * * 


聞こえてきた雄たけび。

それは、魔物たちの言葉なき声。

まるで、『邪魔をするな』と言わんばかりに、魔物たちの速度は上がっていく。

「ったく、最初から殺る気満々かよ!!」

レオンは短剣を取り出し、金獅子時代を彷彿させる構えをする。

「行くぜェ……!」

魔物たちが馬防柵に差し掛かり、先頭集団が分散して第一次防衛線とぶつかる。

「はあっ!!」

「ガアッ!!」

牙と剣、爪と剣が交わり、至る所で激しい音を立てる。

「ちぃっ! 数が多いなァ!!」

短剣を巧みに使い、魔物を一体ずつ倒していくレオン。

彼の身体能力の高さは、全く衰えを感じさせない。

それどころか、前よりも格段に向上しているようにも見えた。

「おい! 無理すんなァ!!」

近くにいた騎士に、そう声をかけるレオン。

だが、騎士にはその声が聞こえていないようだった。

「はぁっ……はぁっ……!」

「ガルルルッ」

肩で息をしている騎士をにらむ魔物。

にらみ合いが続くかに思われたが、そのにらみ合いは長くは続かなかった。

「う、うわあああああああ!!」

「待てっ! 大振りすぎんぞ!!」

叫び声にも近い声を上げて、騎士が大きく剣を振り上げる。

すぐにレオンが静止したが、時すでに遅し。

「ガアアアアアアアアアア!!」

下から魔物がその騎士の首めがけて、飛びかかる。

すぐにレオンが攻撃しようとしたが、別の魔物に阻まれる。

「くそっ! 邪魔だァ!!」

すぐに魔物を倒すが、次の瞬間、目の前にあったのは、のど元を食いちぎられた騎士の死体だった。

「くそっ……!」

レオンは、悔しさをにじませる。

手が届く距離にいた仲間。

かつてはレオンを追う騎士たちでも、今は仲間だ。

その命が、彼の目の前で散っていった。

「さすがに……このままっていうわけにもいかねえかァ……!」

レオンは、息を大きく吸う。

そして、次の瞬間には獣人化していた。

「オラオラァ、どきやがれ!!」

爪で魔物を蹴散らしてくレオン。

しかし、一人で倒せる数には限界がある。

すでに何匹かの魔物は第一次防衛線を突破していた。

「そっちにいったぞ!!」


 * * * * * 


「了解ですぅ!!」

レオンの声に、アリシアが答える。

その眼前には、堀の中に入っていく魔物たちの姿があった。

「ここから先へは行かせません!!」

アリシアはそういうと、手を真上にあげる。

そして、目を閉じると、手の上に水の球が現れた。

「底まで落ちてくださいっ!」

そして、その水球を魔物にぶつける。

水球を受けた魔物は、斜めになっている坂を転がり、堀の一番下まで落ちていく。

そのアリシアの横から、絶え間なく降り注ぐ弓矢。

堀に入った魔物たちは、その弓矢に一匹、また一匹とやられていく。

魔物が跳躍しても届かないくらい大きな堀。

アリシアたちがいる方に行くには、その堀の一番下まで行って坂を上るか、とてつもない遠回りをするしかない。

もちろん、騎士たちがそのとてつもない遠回りを許すはずがないため、魔物たちは堀を進んでいくしかない。

だが、堀の両側は急な坂になっていて、降りるのは楽だが、上るには少し時間がかかる。

その間に、アリシアの魔法や落石舞台によって堀の一番下まで落とされ、弓矢によって仕留められる。

逃げようにも、反対側の坂も同じように急になっていて、魔物たちがどんどん増えていくと逃げることですらできなくなる。

その結果として、堀の中には魔物の死体がどんどん増えていった。


 * * * * * 


作戦は順調に進んでいる。

セレナも、騎士団長も、第一次・第二次防衛線の活躍を見ていた。

(レオン……アリシア……! 頼む、無事でいてくれ……!!)

ぎゅっと槍を握る手に力がこもる。

最前線で戦うべきだと考えている彼女が、一番最後の防衛線にいることになっているのは、騎士団長によるものだった。

『作戦の立案者が最後列で戦況を判断せずに、どのように王都を防衛するというのだ?』と言われてしまえば、セレナが反論できるはずもない。

作戦を詰めたのはレオンたちだが、王都防衛線を張るといったのは、セレナだ。

作戦の立案者である彼女は、第三次防衛線で作戦成功の報告を待っていた。

「信じろ、自分の作戦を」

「信じてはいますが……やはり、私も前線に行くべきでは……」

騎士団長の言葉に、セレナはそう答える。

「部下を信じて待つ。もしも部下が失敗をしても、その失敗を取り返すのが、上司としての役目だ。最後にいなくて、いつ部下のミスを挽回するんだ?」

「わかってはいます。ですが、じっと待っているだけ、というのは私にはできません」

「もうすこし忍耐を覚えるんだな。彼の帰りを待っているのと同じように、部下の帰りを待つといい」

セレナと会話をする騎士団長は、一度もセレナの方を見ない。

ただ、まっすぐ前線の行方を見ているだけだった。

それはまるで……二つの防衛線を突破されると、予想しているかのように。

セレナは、その視線に悪い予感がした。

奇しくも、その予感は当たってしまうことになる。


 * * * * * 


「ちぃ!!」

レオンが魔物の攻撃を避け、爪で魔物の体を切り裂く。

時間が経つにつれ、レオンたちの体力は減っていき、それと同時に魔物の力が増していっているようだ。

「最初の群れは、様子見ってことかよ……!」

それを示すかのように、魔物の攻撃によって倒れていく騎士が増え始めていた。

魔物の数は減っていても、全体から見れば微々たるものだろう。

次第に、騎士たちの顔色にも限界の色が見え始めていた。

(くそっ……! ここまでやったっていうのによ……! だが、まだ戦える!!)

レオンがそう思ったとき、彼の耳に聞こえてきた音があった。

彼はその音に、自分の耳を疑った。

聞こえてきたのは、バキッっという、まるで”木の枝を折るような音”だった。

「おいおい……嘘だろ……!!」

レオンが見たのは、複数の魔物が、馬防柵をかみ砕いている姿だった。

「馬防柵を守れっ! やつら、作戦に気付いていやがる!!」

そうはいっても、馬防柵を守るために動ける騎士など限られている。

レオンも必死に攻撃をして馬防柵を守るが、それでも数が多すぎる。

すると、遠くの方でガラガラというすこし小気味のいい音が、彼の耳に届いた。

「嘘だろ……! まさか、もう壊しやがったっていうのかよ……!」

だが、彼の目に見えたのは、破壊された馬防柵を超えていく魔物の姿だった。

馬防柵は奥から順に、一つずつ壊されていく。

気がついたときには、すでに半分以上の柵がなくなっていた。

「くそっ!!」

レオンは判断する。

いま、どうするべきなのかを。

そして、彼にとっても、そして後方に控える仲間にとっても、つらい答えを彼は選択した。

「全員退けっ! もう、この防衛線は持たねえ!!」

「退けってどこに!? この後ろには、堀があるんだぞ!!」

騎士たちの声は、必死だ。

頭では、防衛線が突破されているということがわかっていても、それを認めたくないのかもしれない。

「遠回りをしてでも、逃げ延びるんだよ! 第二次防衛線じゃなくても、第三次防衛線に加われば、まだ守り切れる可能性はある!」

レオンは魔物を倒しながら叫ぶ。

その姿に、騎士たちが何を感じたのかはわからない。

だが、騎士の目に『逃げる』という文字は見えなかった。

「あんたも、ちゃんと追ってこいよ」

「はん、誰に言ってやがるんだァ?」

去り際、騎士が残した言葉に、レオンは笑みを浮かべながら答えた。


 * * * * * 


「第一次防衛線が突破された……!」

アリシアはその様子を、この目で見ていた。

そして今も、崩壊した第一次防衛線で、レオンが戦っている姿も見えた。

「レオンさん……!」

だが、アリシアはレオンを助けにはいけない。

ここで、魔物たちを足止めしなければならないからだ。

崩壊した第一次防衛線を超えてきた魔物は、堀の中でどんどんその歩みを止めていく。

しかし、その数が多すぎて、対処しきれていないのも、事実だった。

第一次防衛線と第二次防衛線。

この第二次防衛線が、第一次防衛線の後ろにあるのは、数が多い魔物相手では、対処しきれない可能性があったからだ。

弓矢は絶え間なく降り注いでいるが、一人の人間が絶え間なく撃っているわけではない。

多くの人が、攻撃をすることで絶え間なく降り続いているに過ぎない。

その中の一人の隙を突かれてしまうと、最悪それが連鎖して防衛線すべてが崩壊しかけない。

だからこそ、初めに数を減らす第一次防衛線の後ろに堀が配置されたのだ。

その第一次防衛線が崩壊した。

それはつまり、魔物たちは何の障害物もなく、堀へと侵入することができてしまうことを意味していた。

「矢を放てっ! 落石部隊は絶え間なく落とせ!!」

第二次防衛線を指示する騎士の怒声にも近い声が響く。

近くであれば耳をふさぐであろう大声。

しかし、それくらい大きな声を出しても、魔物たちの足音でかき消されてしまう。

「流れてくださいっ!!」

アリシアが、水流を生む魔法を放ち、魔物たちを押し流す。

しかし、それでもわずかな時間稼ぎにしかならない。

「対処しきれません……!!」

現状では、まだぎりぎりのところで押しとどめている。

しかし、堀は簡単に言ってしまえば、ただの溝だ。

それは延々と続くものでもなければ、川のように流れていくものでもない。

そこに入ったものは、そこにとどまり続け、最終的にはあふれ出る。

現在の堀には、大量の魔物の死骸が堀を底上げし、大量の魔物がひしめき合っている。

そして、その時は訪れた。

「魔物が一直線に来る……!」

高くなった堀の底、動き回る魔物の背。

その二つが合わさって、堀の深さは半分……いや、3分の1程度にまで浅くなってしまっていた。

そうなってしまえば、もともとの身体能力の高い魔物は、ほぼ直進するかのようにわたってくる。

「何としてでも撃ち落とせ!!」

弓矢が魔物目掛けて放たれるが、下にいる魔物に刺さり、その背を自由に走り回る魔物には当たらない。

そして、一匹の魔物が対岸にたどり着く。

弓矢を構えていた兵士は、近くの魔物には無防備な格好を見せてしまっている。

それを見逃す魔物ではない。

「ガアアアアアアアアアア!!」

咆哮を上げると、爪で騎士ののど元を切り裂く。

倒れた騎士の息の根が止まるのを確認せず、魔物は次の標的を定めるかのように、王都へと進んでいく。

別の魔物も、一体、また一体と魔物は第二次防衛線を突破して、王都へと走っていく。

「ここで押し返さないと……!」

アリシアが詠唱に入る。

魔物を魔法で押し返すためだ。

だが、そんなアリシアを狙う、一匹の魔物がいた。

その魔物は、対岸に渡り切ったばかりで、まだ誰も気づいていない。

詠唱中のアリシアさえも、その魔物に気付いていなかった。

魔物は声を殺してアリシアに近づく。

そして、一息で殺せるというところで、ようやくその声を出した。

「う、うわあっ!?」

驚いて、しりもちをつくアリシア。

魔物は手加減などしない。

しりもちをついていようが、背中を見せようが、ためらわずに食らう。

「ガアアアアアアアアアアアア!!」

「ひっ……!」

恐怖で声も出ないアリシア。

だが、魔物の牙はアリシアの顔に近づいてくる。

ぎゅっと、目をつぶるアリシア。

同時に、彼女は死の恐怖を感じた。

「アリシアッ!!」

レオンの声が響く。

そして、肉をかみ切るような、すこし湿った音がアリシアの耳に届いた。


 * * * * * 


「超えてきたか」

騎士団長の重々しい声が、セレナの耳に届く。

そして、すこしだけ彼女は苦々しい顔をした。

「戦う前にそんな顔をするな。こうなったのなら、全力を尽くせ」

「……はい!」

セレナは槍を……学園でアストラルに渡され、農村で副長に渡し、王宮で返されたその槍を構える。

必ず守るという強い意志の元、彼女は駆けだした。

魔物とのすれ違いざまに、セレナは槍を横なぎに振り、魔物を切り裂く。

その魔物は血を吹き出しながら地面に倒れる。

彼女は、振り向きなどしない。

ただ走ってくる魔物に、向かっていくだけだ。

「はあっ!」

次々に魔物を葬るセレナ。

かつて、エリート部隊と言われた第07部隊に所属していた実力は伊達ではないということを感じさせる。

「来るなら来い! 私が相手だ!!」

槍を操り、魔物を貫き、切り裂き、葬っていくセレナ。

明らかに最初から全力の戦いをしていた。

当然、体力もすぐになくなる。

開始数分で、肩から息をし始めていた。

それでも、彼女は止まらない。

槍を振り、突き出し、魔物に挑んでいく。

冷静さなどない。

あるのは執念に似た覚悟だけだ。

「突出しすぎるな!」

騎士団長の声が聞こえたとき、セレナはすでに魔物の群れに囲まれていた。

「くっ!」

槍を構えて、敵の動きを見るセレナ。

普段であれば、受け身の型で切り抜けるだろう。

だが、彼女に普段通りに受け流せるほどの体力は残っていなかった。

全力であったことを示すかのように、彼女が通ってきた道には、魔物の死体が転がっている。

その数は、並の騎士が倒せる数ではない。

「ガアアアアアアアアアア!!」

一体が吠えると、それが合図になり、一斉にセレナにとびかかる。

(くっ……! こんなところで……!!)

セレナは、槍を振り回そうとする。

だが、その瞬間、膝から崩れ落ちる。

もう、彼女には立っていられるだけの体力は残っていなかった。

「まだだ! 私はまだ……!!」

セレナの声は、魔物にも聞こえているだろう。

だが、そんなことで止まる魔物ではない。

既に、魔物たちはセレナを標的に定めていた。


 * * * * * 


(あれ……? 痛みがない……?)

まだ彼女は生きている。

大きく鼓動する心臓が、それを証明していた。

「ったく……! 危なくなったら下がれってんだァ……!!」

聞こえてきた、聞き覚えのある声。

ゆっくりと目を開けると、アリシアの目の前には、魔物が食いついた腕があった。

そして、その腕の主は、アリシアを守るかのように、立っている。

「れ、レオンさん!!」

「間に合わなかったらどうするつもりだったんだァ?」

「う、腕がっ! レオンさん、腕が!!」

「あァ? ったく、こんなんで動揺してんじゃねえよ」

レオンは腕を上げると、魔物の目をにらむ。

そして、噛みつかれていない方の手で、魔物を殴る。

「ッァッ……!?」

声にならないうめき声をあげながら、魔物はレオンの腕から離れていく。

タイミングを合わせて、その魔物をレオンは堀へと蹴り飛ばした。

ボールのようにはねた後、魔物はピクリとも動かなくなった。

「血がっ!!」

「大丈夫だァ。それよりも……」

レオンは王都の方を見る。

そこには、王都へと進む魔物を阻む騎士たちの姿が見えた。

「最悪の状況だァ」

「っ……!」

ぽろぽろと涙を流すアリシア。

「ったく、こんなところで泣いてるヒマなんざねえんだァ。さっさと後方に下がるぞ」

「……っ……はい……!」

立ち上がるアリシア。

そして、レオンに抱えられて、アリシアは第三次防衛線のさらに後方へと向かっていった。


 * * * * * 


「こんなところで、終わらせたりしないよ」

魔物たちは空中で、何か見えない壁に阻まれているかのように見えた。

そして、その魔法をセレナは知っている。

その魔法を使う者も、その者の声も。

「あ……」

懐かしい背中。

その者の名を呼びたいのに、彼女は声が出ない。

「遅くなってごめん」

その者は、セレナの方を向く。

この魔物の群れをかき分けて、あの絶望的な状況から守護魔法を発動して、セレナを助ける。

それは、その者ができなかったこと。

あと一歩届かなかったこと。

「あ……す……」

「僕も、王都を守る。だから、力を貸して……セレナ」

「あ……」

セレナの目には、涙が浮かぶ。

それは嬉しさもあったが、安堵の涙でもあった。

そして、彼女はその者の名を叫ぶ。

3年も待った、その者の名を。

「アストラル!!」

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