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僕と魔剣と ~それぞれの道~  作者: M.O.I.F.
第四部 この空の下で
15/22

第1話 黒い影

どうも、Make Only Innocent Fantasyの三条海斗です。

ついに、この番外編も第四部です!

ラストまであと少し!

最後までお付き合いお願いします!

それではどうぞ!!

明け方。

山と山の合間から、太陽が顔出すその時間。

当然のことながら、辺りはまだ薄暗い。

そんな時間でも、大地をただ走り抜ける群れがあった。

それは、ただまっすぐに走り続ける。

最初は一匹から始まったのかもしれない。

それが次第に数を増していき、黒い塊のように見えるほどの群れになったのだろう。

それは、人から忌み嫌われているものたち。

それは、本能のままに生きる物たち。

それは、動物よりも気高く、力強く、生きようとする者たち。

魔より出で、無に帰る。

その群れがどこへ向かうのか、それは人が知るには、遠すぎるのかもしれない。


 * * * * * 


「なに? 魔物の群れが?」

騎士団棟に登庁するなり、セレナはそんな声を上げた。

それは、つい先ほど入った報告だった。

「はい。王都からかなり距離はありますが、東の村で魔物の群れが襲ってきたと」

「いくらなんでも、いきなりじゃないか? 魔剣騒乱の後から、そんな報告は受けてないのだが……」

「それが、急に現れたとのことで……。なんでも、魔物たちは東からまっすぐ向かってきたとか……」

「ふむ……。少し気になるな。その村まで案内してくれ」

「すぐに準備いたします」

彼女の部下は、急いで厩舎へと向かっていく。

その姿を見送ることもなく、セレナは自分の装備を取りに自室へと走った。

たまっていた書類を片付るつもりだったが、そんなことはもう、彼女の頭にはない。

セレナはただ、気になっていた。

魔剣騒乱の後、魔物の被害は激減していた。

それこそ、魔剣が復活する前よりも少なくなっているのだ。

セレナたちの任務も、一息つき始めていた、そんな時期に起きた今回の被害。

災害と呼ぶには、まだ小さな被害だが、もっと大きなことになる、セレナはそう考えていた。


 * * * * * 


馬を飛ばして半日。

その村の被害は、壊滅的だった。

家は残っているが、扉まで続く階段は無残にも踏み砕かれていて、すこし足を付けていたであろう家に至っては、すでにネズミよけの高さはなく、地面の上に建っている。

幸い、死傷者は少なく、家の倒壊に巻き込まれたものが大半だった。

「急いで被害状況の確認! 負傷者がいれば、一か所に集めて手当!! 迅速に行動しろ!!」

「了解!!」

セレナの指示に従い、部下たちが慣れた様子で被害状況を確認していく。

(それにしても……何か引っかかるな……)

セレナが感じた、わずかな違和感。

それが何なのかはわからなかったが、彼女が抱いた違和感は、どんどんと大きくなっていった。

「報告します。倒壊 6棟、半壊 3棟、一部破損 17棟……計26棟が被害にあいました」

「死傷者の数は43名。うち、軽傷 37名、重傷 3名、重体 2名、死亡 1名で、重体含む3名は、自宅の倒壊に巻き込まれたものとみられています。ほとんどの軽傷者も、衝撃で転んでけがをした……という方が大半でした」

「待て。魔物の攻撃による死者は確認されていないのか?」

「ええ……。魔物による被害は、家屋の倒壊が主ですね。畑が荒らされたと嘆いていた人もいましたが、特筆すべきことは……」

(どういうことだ……? この話を聞くと、ただ通っただけのように聞こえる。だが、魔物が何の目的もなく人里に現れるとは考えにくい……)

「……隊長? どうかなさましたか?」

「いや、なんでもない。被害状況から、復旧案を立ててくれ。私は魔物が通った方を見てくる」

「わかりました。魔物には気を付けてください」

「それは、そっちもだ。二回目の襲撃がないとも限らない。くれぐれも注意しろ」

「了解!」

部下が返事をしたのを聞くと、セレナは馬を駆り、魔物の足跡を追っていく。

無数の足跡は、一直線に村を通過し、そのまま草原へとつながっている。

セレナはその足跡を見落とさないように、走っていく。

しばらくすると、魔物の足跡は急に方向を変え、山の方へと伸びていった。

(たしか、この先は……)

魔物の足跡が続くその山は、滅多に人が近づかないことで知られている。

その山は落石が多く、それに当たって死亡してしまう事故が多く報告されているからだ。

(何故、そんな場所に……? 特に何があったという報告はないが……)

最近では、落石事故の報告はない。

それに、その山から遺跡が発掘されたという話も、魔物を引き付ける何かがあるという話も聞かない。

(あの村の被害はただの偶然か……それとも……。ここで考えていても、仕方がないか……)

そう考えたセレナは、被害があった村へと引き返す。

村からそう遠くない山に向かった魔物の大群。

そのことが、彼女の胸の中で、もやもやと残っていた。


 * * * * * 


翌朝、まだ日が昇り切っておらず、星々がかすかに見えているころ。

うごめく黒い集団があった。

それは、ただまっすぐに走り抜ける魔物の群れ。

砂ぼこりをあげ、大きな足音を立てながら、まっすぐと走る。

その眼は、ただまっすぐ、前を向いていた。

その群れがなぜ走るのか。

その群れがどこを目指しているのか。

それは、走っている魔物たちでさえも、知らないのかもしれない。


 * * * * * 


「なにっ!? まただと!!」

朝一番。

書類を片手に持ったセレナの大きな声が、執務室に響く。

「はい……。今度は、昨日の村から一番近い農村が……」

そう伝える部下の顔色は優れない。

一旦、深呼吸して気持ちを落ち着かせると、セレナはいつもの調子で尋ねた。

「被害状況はわかっているのか?」

「全体は把握できていませんが、かなりの数の死傷者が……」

その報告を聞いた途端、セレナは椅子が倒れるほどの勢いで立ち上がった。

その顔は、驚きというより、悔しさに満ちていた。

「しまった……! こうなることは、予測できたはずなのに……!! 急いで支度をしろ!!」

「了解!」

セレナは倒れた椅子を元に戻すと、急いで執務室を後にする。

昨日の魔物のことがあった直後だ。

同じことが起きた場合、近くの村が襲われる可能性が高いことは予測できた。

その可能性を考慮すべきだったのに、彼女は対策をしなかったことを悔やんだ。

しかも、そのせいで犠牲が出たとなれば、彼女にとっては許せないことだった。

しかし、それが予測できたとしても、一個小隊がどうにかできる規模でもないため、全般的に彼女が悪いというわけではない。

だが、それでも。

彼女は、守るべきものを守れなかった悔しさが、胸を締め付けていた。


 * * * * * 


「これは……予想していたよりもひどいな……」

ある程度、覚悟していた彼女でさえ、そうこぼしてしまうほどの惨状。

本来野菜があるべきところには、ところどころに緑が見えるが、無残にも踏み荒らされ、野菜の形もない。

家屋も、何棟かは倒壊しているだろう。

そして……くわや鎌についた血痕が、その持ち主がどうなったのかを語っていた。

「被害状況はどうなっている……!?」

「家屋の倒壊は5棟、軽傷 3名、重傷 6名、重体 14名、死亡……」

部下はそこで、息をのむ。

セレナはその顔色を見て、察した。

だが、死者の数を知っておくべきだと判断した。

「構わない、報告しろ」

「はい……。死亡……36名です」

「……っ!」

ぎゅっと、硬くこぶしを握る。

(私は……それだけの数の人を守れなかったのか……!)

悔しさが、こみあげてくる。

だが、そのまま立ち止まっているわけにはいかない。

彼女は、部下に向かって指示を出す。

「急いで、要救護者に対して治療を開始! その間に、魔物たちの情報を集めろ!!」

「了解!」

部下は返事をすると、持ってきた治療薬一式をもって分散する。

それを見届けると、セレナは馬にまたがり、魔物の足跡を追う。

しばらく馬を走らせると、昨日と同じように、魔物の足跡は方向を変えた。

それからまっすぐと、今度は洞窟へと伸びていった。

(またか……。だが、行動は昨日と同じなら……!)

セレナは急いで農村まで戻ると、拠点を設置した場所へと向かう。

「隊長! 一体、どこへ行っていたんです?」

「魔物の足跡を追っていた。それより、何かわかったか?」

「どうやら、被害にあった人たちは皆、農作業をしていたようです」

「農作業……? つまり、外に出ていた訳か」

「ええ。そこを、魔物の大群に……」

そう話す部下の顔色が、すこし悪くなる。

報告している最中に、その場面を想像してしまったのだろう。

実際、報告を聞いたセレナも容易にその場面を想像できた。

だが、これで農具に血がついていた理由も説明できる。

そして、誰もが寝静まっていたあの時間帯に、これだけの被害が出た理由も。

「また農村が狙われたら、この村以上の被害が出る可能性があるか……」

「対策は建てるべきでしょうが、目的がわからない以上、具体的な対策は立てづらいでしょうね……」

「だが、それでもやるしかないだろう。現状、情報を多く持っているのは私たちだ」

「そうですね……」

セレナとその部下は、荒れ果てた村を見る。

(もう二度と……こんな姿にさせる訳は行かない……!)

セレナは心の中で静かに、されど熱く決意する。


 * * * * * 


しばらくして、セレナは農村に設置した本部を訪ねた。

「それで対策案はどうなっている?」

セレナの問いに、部下が苦々しい顔で答える。

「いくつかまとめてみました。ですが……」

「どれも人員が足りない……か」

「はい、第07部隊の人員を総動員しても、必要人数を確保できません」

「どちらかというと、こちらの部隊は後方支援担当だからな。矢面に立って防衛するのは01や03の役目だろう」

「そちらの人員を、こちらに割いてもらうわけにはいきませんからね……」

「そうだな。いくら魔物の被害が少なくなったとはいえ、遠方にいる01や03にあまり手間をかけるわけにはいかないな」

「どこか、戦闘経験のある部隊があればいいのですが……。この際、騎士団からだけではなく、自警団からも人員を見繕うべきでしょうか」

「一体、どこに戦闘経験のある自警団がいる……と……」

「隊長?」

「いたな、一つ。かなり戦闘経験があり、融通が利く自警団が」

「えっ……!?」

「聞いてみないことには始まらないか。急いで準備しろ、アンディゴに行くぞ」

「アンディゴですか? ここからだと、半日かかると思いますが……」

「半日程度なら、問題はない。事態は一刻を争う」

「わかりました、何名かこの村に残します」

「いや、逆だ。アンディゴには、私と副長のみで行く。あとのものはこの村に残しておけ」

「ですが、それだと道中……」

「心配ない。ここからアンディゴまでは見晴らしのいい道が続く。途中、丘陵を通ることにはなるが、それ以外は敵に気付くだろう」

「……わかりました。すぐにじゅんびをします」

「ああ、急いでくれ」

副長と呼ばれた男は、いくつかほかの部下たちに指示をだすと、本部を後にする。

他の場所にいる部下たちに、どうすればいいのかを直接指示しているのだろう。

彼が戻ってkるうまで、少し時間がかかる。

そう考えたセレナは、本部の椅子に腰を下ろした。

そして、上を見上げると、ゆっくり目をつぶった。

(アストラル……君ならどうする? 君はどうしただろう?)

旅立った彼に、そう問いかける。

だが、答えは返ってこない。

彼女の瞼の裏に映るアストラルの姿は、旅立つ日に見送った背中だった。

彼女がアストラルの顔や声を忘れたわけではない。

思い出は、確かに彼女の中にある。

しかし、彼女が問いかける時。

その時のアストラルは、いつもあの日の背中だった。

大切な友を失い、支えとなっていた相棒もなくし、それでも前へ進もうとする背中。

彼女の瞼の裏に、アストラルのその背中が映るのは、それが彼女にとっての答えだからなのかもしれない。

「隊長、準備が整いました」

彼女の耳にはっきりと、その声。

その声を聞くと、彼女はゆっくりと目を開けて、深呼吸を一つした。

「……わかった、すぐに出るぞ」

そして、彼女は本部を後にする。

馬にまたがり、アンディゴへと向かう彼女の目は、まっすぐ前だけを見ていた。


 * * * * * 


既に日は沈み、辺りが闇に包まれている。

その中を、彼女たちは駆けていた。

草原を超え、丘陵を超え、アンディゴへとたどり着くために。

「隊長! さすがにこれ以上は危険です! 日が昇るのを待った方が……」

「駄目だ、陽が昇れば、魔物の大群が移動を始めてしまう可能性が高い! 」

「ですが! ここで我々が倒れてしまっては、それすらも防げないのですよ!!」

「わかっている! だが、立ち止まってはいられない……!!」

「気持ちはわかりますが……!」

部下が必死にセレナを止めようとしているが、彼女は聞く耳持たないといった様子だった。

アンディゴまではもう少し。

それが、彼女を焦らせているのかもしれない。

ここまで、馬を休ませる程度の休憩はとっているが、それでも半日走り続けているため、馬の負担は大きい。

「隊長!」

「もう少しなんだ……!」

焦るセレナ。

その姿はまるで、村を守る使命感に囚われているように見えた。

「ちょっとは部下の言うことも聞いた方がいいんじゃねえかァ?」

「その声は……!」

突如、聞こえてきた声。

馬の速さに追いつける人物など、彼女の知る中では一人しかいない。

そして、その人物こそ、彼女が会おうとしていた人物だった。

「レオン!!」

「久しぶりだなァ。まァ、走りながらっていうのもなんだァ。少し止まっちゃくれねえかァ?」

「ああ……すまない」

セレナはゆっくりと馬を止める。

レオンが灯りをつけると、彼女は馬から降り、レオンに向き合った。

「久しぶりだなァ」

「ああ、久しいな。だが、どうしてここにいるんだ?」

「アンディゴに向かって、馬を走らせてる奴らがいるっていう報告を受けて、様子を見に来たんだァ。そっちこそ、こんなとこで何やってんだァ?」

「私たちは、お前に会いに来たんだ」

「俺に?」

「ああ、力を貸してほしい」

「その様子じゃ、何かあったみてえだなァ。時間があるなら、詳しく話が聞きてえがァ……」

「構わない。ここから半日走ったところに、農村がある。今朝、そこが魔物の大群に襲われた」

「あァ!? 一体、どういうことだァ!?」

「詳しい理由はわかっていない。だが、昨日の朝も、同じように魔物の大群に村が襲われている。そこで、付近の村に警備を置くことにしたんだ。だが、付近の村すべてを警護するには人員が足りてないんだ」

「なるほどなァ、話が見えてきたぜ。つまり、警備の人員を貸してほしいってことだなァ?」

「そういうことだ。急な話になってすまないが……」

「構わねえが、全員を連れていくのは無理だぜ」

「それはわかっている。できる限りの人員で構わない」

「なら、大丈夫だァ。それで、俺たちはどこの村を警護すればいい」

「レオンたちには、ここと……ここの村を頼みたい」

「最優先の目標はァ?」

「人命の保護だ」

「了解だァ。それじゃあ、あっちで会おうぜ」

「ああ、わかった。引き受けてくれて、感謝する」

「まっ、あんときのよしみだからなァ。困った時はお互い様、ということだァ」

レオンはそういうと、手をひらひらと振って去っていた。

そして、レオンの姿が見えなくなると、先ほどまで黙っていた部下がゆっくりと、セレナに話しかけた。

「あの……彼は……?」

「ああ、彼はアンディゴの自警団の隊長をしているレオンだ。魔剣騒乱の時、一緒に旅をしてな。その時はまだ、”金獅子”という盗賊団の頭領だった」

「”金獅子”……金獅子って、アンディゴ領主暗殺未遂事件の”金獅子”ですか!?」

「そんな大層な名前がついていたのか……。ああ、それであってるよ」

「そんな人とお知り合いだったのですね」

「だが、レオンを救ったのは私じゃないんだ。一緒に旅をすることになったのも、私が誘ったわけじゃない」

「隊長じゃないとなると……魔剣の主の方が……?」

「ああ、そうだ」

セレナの声に、わずかな寂しさがこもる。

あの時を思い出しているのか、アストラルに会えていないことを考えているのか。

それは部下にはわからなかったが、わずかに感じた彼は、話を変えることにした。

「ともあれ、これで警備の人員は確保できましたね」

「ああ、今度こそ被害は出さない……!」

ぎゅっと、こぶしを強く握るセレナ。

その声には確かに、強い決意がこもっていた。

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