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僕と魔剣と ~それぞれの道~  作者: M.O.I.F.
第三部 導き出した答え
12/22

第2話 受け継がれた想い

どうも、Make Only Innocent Fantasyの三条海斗です。

番外編第3部の2話目。

予定としてはあと2話になってます。

最後までおつきあいお願いします。

それでは、どうぞ!

「君のお母さんは……」

迷うな、迷うな!

「必ず、僕が迎えに行くから。君はここで待っていてほしい」

「……」

少年は、少しうつむく。

当たり前だ。

直接的には言っていないが、何物かに連れ去れたといったようなものだ。

「わかった、必ずだよ」

「ああ、任せて!」

僕は少年と約束する。

必ず連れ戻す。

何故、彼の母親が誘拐されたのか。

その理由も、目的もわかっていない。

もし、僕がこの家に来たことが理由なら。

もし、僕をおびき寄せることが目的なら。

その責任はしっかりととらなくちゃいけない。

そのためにも、まずは情報を集めないと……。

そう考えた僕は、村の中心部を目指すことにした。


 * * * * * 


町の中心部には露店が並んでいて、昼時ということもあり、買い物をする村人でにぎわっていた。

ここなら、情報が集められるかもしれない。

そう思った僕は、近くにいた人に声をかけた。

「あの……!」

「……!」

声をかけた女性は、僕の顔を見るなり、逃げるように去っていく。

その後も、何人かに声をかけたが、全員が僕におびえたように去っていく。

この剣か、それとも先ほどの魔物との一戦か。

どちらにしろ、このままの状態なら、満足に情報が集められない。

なんとかしないと……!

そう考えている時、後ろから肩を叩かれた。

驚いて振り返ってみると、そこにはあの場所にいた、がたいのいいおじさんが立っていた。

「アストラルとか言ったな、こんなところで何してる」

「それが……!」

僕は事情をそのおじさんに話す。

助けた少年の母親が誘拐されたかもしれないこと。

そして、その行方や目的がいまだにわかっていないこと。

「そいつは厄介だな……」

「何か知りませんか? どんなに些細な事でもいいんですけど……」

「些細な事か……ん? そういえば……」

「なにかあったんですか?」

「関係ないかもしれんが、この村のはずれでファンを見たな」

「ファン?」

「ああ、昔この村にいた奴だよ。数年ほど前に村から出ていってたんだが……」

「数年前に村を出た……?」

そんな人がなんで今頃……?

「その人が村を出た理由って何だったんですか?」

「それが誰もわかんないんだよ。本当に突然だった」

ますます訳が分からなくなってきた。

とりあえずわかったことは、数年前に何らかの理由で村を出た、ファンという人が目撃されたことだ。

あったことのない人を疑いたくはないけれど、可能性としてはあり得る。

「まっ、ファンのことは他の奴にでも聞くんだな。事情はみんな聞いただろうから、村人も協力してくれるだろうぜ」

「えっ……?」

キョトンとした僕に、おじさんは僕の後ろを指し示す。

その方を見てみると、先ほどまでは僕を避けていた村人たちが、僕の周りに集まってきていた。

「魔剣なんて関係ないよ!」

「そうだ! この村の人間が危ないっていうんなら、何だって協力するぞ!!」

「だ、そうだぜ。まっ、最初にお前が助けたってこともあるんだろうけどな」

「みんな……!」

おじさんはそういうけれど、この村の結束は、僕一人でどうにかなるものじゃない。

500年前……虐殺が行われたこの村は、生き残った数少ない村人たちが再興させた。

その結果なんだ。

それがこの時代まで続いていることが、うれしかった。

シュバルツがやったことは許されることじゃない。

だけど、それを乗り越えてくれた人たちが、ここにいたことが、その想いが受け継がれていたことが、本当にうれしかった。

「……お願いします、なにか知っていることはありませんか!」

僕はレーヴァテインじゃない。

ましてや、シュバルツでもない。

だけど、レーヴァテインは僕の相棒だ。

その想いを、その歴史を、僕は受け止めなくてはいけない。

だからこそ、僕は村人の目を見る。

僕の想いを伝えるために。


 * * * * * 


「どうしてなんだ……?」

話を聞く限り、このファンという人が何か知っているのだろう。

だけど、この人が何を知っているのかわからない。

僕はファンさんを知らない。

だから、実際にその人を見ても、ファンさんだと断言できない。

それに、村人が言っていたことも気になる。

『王国にただ黙って従ってるなんて、ごめんだ!』……か。

その言葉は、500年前の虐殺を行ったのは、王国だということが理由なのだろうか。

だけど、それならばこの村の人を誘拐する理由がわからない。

やっぱり、僕が原因か……?

町の中心部を離れて、すこし村のはずれに来た時。

それはすぐに訪れた。

「っ!」

急いで剣を抜き、飛んできた”何か”をはじく。

それは僕の右後ろの地面に突き刺さった。

飛んできた何かは、魔物の牙だった。

「へぇ~、あの攻撃を防ぐんだ」

「誰だっ!?」

僕が剣を構えなおすと、先ほどまでは誰もいなかった場所に、その人物が現れた。

「僕はファン……といえばわかるかな」

「君が……!」

目の前に現れた人物は、中性的ともいえる容姿をしていて、ファンと名乗った。

ということは、この人が何か知っている!

「僕の相棒の牙を避けたのは、君が初めてだよ」

「相棒……? その魔物が……?」

「そう、僕の相棒。君だって、人のことは言えないだろう? ……魔剣の主」

「っ! やっぱり、僕が目的か!!」

「ああ、そうさ! 君が、君だけが、僕の目的さ!!」

「何故、僕を狙う! それに、この村の人を誘拐した目的はなんだ!!」

「この森の奥に、洞窟がある。その村人を助けたいのなら、そこに来い」

「なにっ!?」

「待ってるよ、魔剣の主。僕の期待に応えてよね」

「待てっ!!」

急いで距離を詰めようとしたが、魔物の牙が飛んできた。

それを防いで、もう一度距離を詰めようとしたときには、もうその姿はどこにもなかった。

「この森の奥の洞窟……」

これは罠だ。

僕をおびき出すために、あの子の母親を誘拐した。

たとえ、そうでなくても、僕は行かなくちゃいけない。

あの子が待ってるんだ。

僕は迎えに行くと約束した。

その約束でさえ守れない人に、僕はなりたくない。

だけど、何も対策をせずに向かっては、向こうの思うつぼだ。

僕は一旦引き返して、対策を立てることにした。


 * * * * * 


村の中心部に戻った僕は、森の洞窟について聞くことにした。

なんとか、あのおじさんを見つけ出すことはできたんだけど……。

「森の洞窟……? そんなこと、どうして聞きたいんだ?」

「ファンという人に、そこへ来いと……」

「本当か? だけどな……」

「なにかあったんですか?」

「いや、あそこの洞窟はもともと鉱脈だったんだが……地盤がもろくてな。危ないから、誰も近づかねえんだ」

「事故があったんですか?」

「あったとは聞いているが、なにぶん俺がまだガキの頃の話だからな。よくは覚えちゃいねえ」

「そうですか……」

他の人に聞いてみても、どうしてそこなのか、という話が出てきた。

それくらい、ファンという人とは縁がないような場所だったんだろう。

いや、だからこそ、その場所なのか……?

縁がないということは、だれからも想像されないということだ。

ましてや、その場所に村人は近づかない。

……他に邪魔されたくない、なにか……。

もしかすると、それが理由かもしれない。

他に思い入れがないのなら、考えられる理由なんてそれくらいだ。

あとは……洞窟か……。

たぶん、逃げ道をふさぐことも考えているんだろう。

人質だけじゃなく、僕の逃げ道も。

行くしか、道はない。

逃げるなんて道を、選ぶわけにはいかない。

「……行くのか?」

「はい。約束しましたから、あの子と。必ず迎えに行くって」

「そうかい。それにしても、ファンがねえ……」

「ファンさんのこと、知ってるんですか?」

「まぁ、な」

「……教えてください、ファンさんがどういう人なのかを」

「聞いたって面白い話じゃねえぞ?」

「それでも、構いません。どうして、こんなことをしたのか、その理由がわかるのなら」

「わかるとは限らないけどな……。まぁいい、こっちにこい」

おじさんは僕を連れて、酒場に入っていく。

僕もそのあとを追って、酒場へと入った。

「まぁそこに座れ」

僕は、おじさんの向かいの椅子に腰を下ろす。

すると、店員が何も言わずに水を持ってきた。

「俺は麦酒を。おまえはどうする?」

「いえ、僕は水のままで……」

「店に入ったら、何か頼む」

「それじゃあ……」

僕は店の壁にかかっている品目から、お酒じゃないものを選ぶ。

「果実水で」

「かしこまりました」

店員は注文を取ると、すぐにカウンターへと戻っていった。

「それで、ファンのことだったな」

僕は黙ってうなずく。

「やつは……」

そこからおじさんの話が始まった。

その話を一つ一つ聞いていく。

飲み物が運ばれてきても、僕は黙って聞いていた。

しっかりと、向き合うんだ。

ファンの過去に。

「……まっ、こんなとこか」

一通り話し終えると、おじさんはそう告げた。

「長い時間、ありがとうございます」

「構わねえさ。こんな昔話、話す機会なんて滅多にねえからな。……それで、行くのか?」

「はい、行きます」

そう言い切った僕の顔を見て、おじさんは、少し笑みを浮かべた。

「気を付けな。魔剣の主とはいえ、俺の知ってるやつが死ぬのは後味が悪いからな。ほら、さっさといけ」

「……はい!」

僕は酒場の扉を開けて、ファンのいる森の洞窟を目指した。

それはまだ、日が落ちていない、昼過ぎだった。


 * * * * * 


アストラルが酒場を去った後。

がたいのいいおじさん……イアンは麦酒を飲みながら、目の前に置かれた果実水を見る。

「結局、手も付けずに行きやがったな」

「いいじゃないか。それに、行くところがあったんだろう?」

そういうのは、先ほど注文を取った店員だった。

「こういう時は飲んでいくべきだ」

「昼間っから酒飲んでるあんたが言ってもねぇ……。それで、えらくあの子のことを気に入ってるみたいじゃないか」

「まぁな。あそこまでまっすぐな眼をしたやつは、久しぶりに見たぜ」

「あんたがそんなことを言うなんてねぇ」

店員とイアンは、しみじみと話す。

「それにしても……あんな子が世界を救った英雄、なんてねえ」

「500年前、魔剣を持っていたのがあいつだったら……」

「それこそ、期待のし過ぎってもんよ。それに、過去は変えられないのは一番わかっているじゃないか」

「うるさい。もう一つ、くれ」

「飲みすぎるんじゃないよ」

「わかってる」

彼らがアストラルに向けた思いは、敵意に満ちたものではなく、好意的なものだった。

いま、500年の時を経て、魔剣の呪縛は解き放たれようとしていた。


 * * * * * 


「この奥か……」

村のはずれの森の奥。

そこに、ファンが言った洞窟があった。

もともと鉱脈だったその洞窟には、放置された荷車やつるはしが散乱していて、『立ち入り禁止』と書かれた看板が立っていた。

立ち入り禁止……か。

思い返せば、レーヴァテインと出会った場所も、学園の立入禁止区域だった。

カインといるからそういう場所に縁があったんじゃなくて、もともと僕がそういう場所に縁があったんじゃないかと思えてくる。

信じたくはないけれど。

あの日から、この冒険は始まった。

セレナに、アリシアに、レオンに出会い、旅をした。

この手で守った命もあった。

この手で奪った命もあった。

ファンに対して、僕は何をすることができるだろう。

「……よしっ!」

僕は気合を入れると、柵を乗り越えて洞窟へと入っていく。

洞窟の中は薄暗く、すこしひんやりとしていた。

その洞窟の奥、そこにたいまつの灯りが見えた。

そこにファンはいる。

その明りを目指して、一歩ずつ進んでいく。

洞窟の下り坂に差し掛かった時。

「ガオオオオオオオッ!!」

聞こえた咆哮。

僕は急いで剣を抜き、何かが飛んできた方向に向けた。

「っ!!」

キンッと硬いものがぶつかる音が洞窟の中に反響した。

「魔物!!」

「ガオッ!」

僕は急いで剣を構えなおす。

目の前にいたのは、4本足で立つ、ウルフだ。

本来、森を生活圏内としている魔物がこの洞窟にいるということは、この魔物はファンが仕掛けたんだろう。

すこしでも僕の体力を削るつもりか……!

それならば、この魔物に長い時間をかけるわけにはいかない。

「ガオオオオオオオオ!!」

「悪いけど……ちょっと眠っててよね!!」

僕は飛んできたウルフを避け、剣を振り上げる。

そして、ウルフがこっちを見た直後。

僕は剣の腹を、ウルフの頭に思いっきり振り下ろした。

「ギャウン……!?」

頭に強烈な一撃を受けたウルフはすこし、ふらふらと体勢を崩す。

「もう一発!」

今度はウルフを殴り飛ばした。

すこし甲高い鳴き声を上げた後、ウルフは壁にぶつかり、そのまま気絶した。

「ふぅ……。さすがに、このまま殺さずに……っていうのはきついかな……」

できることなら命は奪いたくない。

僕はウルフの様子を確認すると、そのまま洞窟の奥へと進んでいく。

この奥に、ファンはいる。

取り戻すんだ、あの子の母親を。

そして、終わらせるんだ。

魔剣騒乱を。

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