プロローグ
どうも、Make Only Innocent Fantasyの三条海斗です。
「僕と魔剣と」の読者数が「EXITIS~その中にあるもの~」を超えたため、執筆しています。
もともと書く予定がなかった物語のため、更新に少々お時間がかかりますが、ご了承ください。
また、このプロローグはあくまでもプロローグであるため、連載する内容と関係がなくなるかもしれません。そちらも、ご了承ください。
それでは、どうぞ!
「全員集まったなァ」
レオンが台の上から辺りを見回す。
いまから演説をするようなその姿から、いつものレオンを想像できない。
それほどに、きりっとした格好をしていた。
「よくここに集まってくれたなァ。もう一回、お前たちとあえてうれしいぜ」
レオンがそう話し始めると、台の下にいた男たちは彼を見つめる。
中には、涙を浮かべるものもいた。
「ここに集まってもらったのは他でもねぇ。もう一度、”金獅子”として活動するためだァ。だがなァ、今回は義賊じゃねえ。俺たちは、自警団になる」
その言葉に、一体どれほどの重みがあったのだろう。
ただ、自警団として活動をする。
それだけの言葉であるのに、その言葉は彼らの中に重く、そして深く刻み込まれていく。
「ここにいる全員で……この町を守るぞ!!」
レオンがそう力強く言い放つと、辺りを震わすかのような歓声が響きわたった。
「それで、だァ。自警団として活動する奴らは、今から配る制服を着てくれ」
「制服ですかい?」
「ああ。面倒だが、この服が”金獅子”という証になる。ちゃんと切るんだぞ」
「へへ、アニキに恥をかかせるわけにはいきやせんからね」
「はん、よく言うぜ」
レオンはそう言いつつも、どこか嬉しそうだった。
そして、ようやく全員が制服を着終えると、レオンは再び宣言する。
それは、彼自身の覚悟であり、彼の道だ。
「”金獅子”、ここに復活! いくぜ、おめえら!!」
「「おおおおおおおおおおおおおお!!」」
アンディゴに、”金獅子”の雄たけびが響き渡る。
* * * * * *
「わああああああ! 違いますぅ! それはそっちじゃないですぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」
アリシアの慌てた叫び声が、研究室に響く。
慌てているアリシアの周りで、何人かの研究員が同じように慌ただしく動いていた。
「所長! この書類は!?」
「書類棚にお願いしますぅ!!」
聞かれた問いに、アリシアはすぐに応える。
「それにしても所長。……いきなりすぎませんか?」
「仕方がないですよ、あちらにも都合はありますぅ」
「ですが……」
研究員が困ったような、そんな顔を浮かべる。
今、アリシアたちは来客があるため、研究室を片付けているのだ。
「本来であれば、次の学会まで待つのが妥当でしょう。急に『研究成果をみせろ』……なんて」
「それだけ、信じられないのだと思いますよ。高級魔法は、すでに失われた魔法ですから」
慌ただしい研究室を、アリシアは眺める。
魔剣騒乱から、すでに一年が経過していた。
同時に、この研究室に籠ってから一年になる。
その成果が、今日、この場所で、目を見ることになるのだ。
「……長かったですね……」
窓から空を眺めて、ぽつりとつぶやく。
その言葉は、研究員に対してなのか、自分自身に対してなのか、それともここにいない誰かに対してなのか。
それは、アリシア自身もわかっていなかった。
ただ、零れた言葉。
その言葉の答えは返ってこない。
それでも、アリシアは微笑む。
懐かしき研究の日々を、そして、初めて魔法を使ったあの日を思い出しながら。
* * * * * *
「なに? そのような報告は聞いていないぞ」
セレナは、部下の報告に驚いた表情をする。
「先ほど上がってきたばかりですから……」
「またか……。一体、どれだけずさんな調査をすれば、このような事態になるんだ……!」
「申し訳ありません……!」
「……報告書は受け取った。引き続き、調査を頼む」
「了解!」
部下の騎士は敬礼をすると、調査に戻っていく。
(しかし……魔物の被害がこれほどまでとは、想像以上だな)
魔剣騒乱の直後、セレナは復興支援部隊に配属された。
その隊長をしているのだが、新設された部隊のためなのか、頭を抱えることがたくさんあった。
調査になれていない隊員たち、支援物資の運搬、住民の対応、魔物の討伐。
それらすべてを、一つの部隊でやらなければいけないのだ。
一人一人にかかる負担は大きい。
その分、どこかが甘くなる。
損害調査や生態調査が、その一つだった。
(魔物の生態を、完全に把握するのが難しいことのはわかっているが……被害状況まで正確に把握できないのはどうなんだ!!)
これが初任務というわけではない。
すでに何度かこなしている任務であるのにも関わらず、隊員の調査の甘さに、セレナは苛立ちを抑えられなかった。
(……長い目で見るしかないか……)
ただでさえ、復興支援には時間がかかる。
復興した部分から、新たな問題が出てくる場合もある。
その中で徐々に慣れていけばいい。
セレナはそう考えることにした。
彼女は、立てかけていた槍を持つと、森の方へと歩いていく。
魔物の生態調査に向かった部下たちの元へと向かうために。
* * * * * *
「これ……あのときの……」
レーヴァテインがいなくなった後、カインがいなくなった後、なかなか入ることができなかった、カインの部屋。
ここに……カインの荷物がある。
つまり、遺品整理に来たというわけだ。
「懐かしいな……。いまでも持っていてくれたんだ」
それは僕がカインにあげたペンダントだった。
不器用なりに作ったペンダントだったけど、カインが大事そうにしてくれたのはすごくうれしい。
目を閉じれば、懐かしい日々が鮮明に浮かんでくる。
カインと眺めた星空。
カインと冒険した洞窟。
一緒に怒られたことも、ほめられたこともあった。
「カイン……。僕は君に、何ができたんだろう」
いまでも、そう言わずにはいられない。
思い出される記憶は、カインが進んで何かをしてくれた記憶だけだからだ。
気持ちが晴れぬまま、カインの荷物を箱に詰めていく。
不要なものはそのまま捨て、大事そうなものはカインの両親へと渡す。
カインの遺体は残らなかった。
レーヴァテインが、ダーインスレイブと共に消滅させたんだ。
その選択が間違っているとは思えないけど……残された僕らにとって、何も入っていない墓石に花を添えるのは、気持ちの踏ん切りがつかなかった。
せめて、形見だけでもカインの両親に届けてあげよう。
それが、命を奪った僕にできることだから。
たぶん、カインの両親は僕にあってはくれないだろう。
彼らにとって、英雄と呼ばれた僕は、カインを殺した人殺しだ。
許してもらえるとは思っていない。
それでも、何かできることはないだろうか。
そう思わずにはいられなかった。