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XXC(ダブルクロスクロニクル)  作者: 京都夜京都
9/10

08

ウイングモンスターズオンライン


それは5年程前にリリースされたタイトルで、これもまたVRMMORPGの一つである。


そのゲームに出てくる敵は全て羽または翼を持っていて、虫や小鳥からヒッポグリフやドラゴンなんかも出てくる。


このゲームの魅力の1つに、プレイヤー自身が空を飛べるというものがある。


こういうタイトルはいくつか存在しているが、仮想の羽根を自らの筋肉の一部として動かすことが出来る快感はどれも素晴らしく、そのあと羽根なしのゲームをプレイするとどこか寂しい気がするのは恐らく俺だけではないだろう。


そのゲームからこの現実的仮想空間という99%以上が現実そのものの空間に全モンスターが放たれるという。


俺がプレイしていたときに記憶している限りではざっと1000種は越えていて、あれから2、3年経ってその種類も増えているハズだ。


それが一体ずつポップすると考えるだけでも恐ろしいのに、それが一体ずつとは限らないのが更に恐怖を煽るようだった。


幸いにもこの地区は先程のユニコーンの騒動により、住民はログアウトを強いられてはいるが、他の地区に飛んでいったりする可能性などを考えると政府が何らかのアナウンスをしていないのが最早不思議以外の何物でもなかった。


だが、幾つかの可能性が過る。

この事実を認知していないとしたら?


いや、もしくは見てみぬフリ。

ひょっとすると当事者なんてことも…。


いよいよ臭くなってきた展開に俺の思考は加速する。

が、そこでユーリが介入することにより中断を余儀なくされる。


「仲間が駆けつけてくれるそうです。」


近くで連絡を取っていたユーリがトテトテと俺の近くに戻ってくる。


「ですが、人数はあまり多くありませんので本当に全エネミーが出てくるのなら、戦況は絶望的です。」


それはそうだろう。

仲間が何人いるのかは知らないが、ユーリの口ぶりから察するに俺やユーリのようにログアウト不可能な状況に陥った人間の集まりだろう。


その人数が敵の10分の1の100にすら到達しているとは思えなかった。


「でも、なんとかしないと。俺やユーリみたいな被害者が増えてしまう。それも数人じゃなく数億人単位でだ。」


自分でそう言葉にするが、状況がそう簡単には収束するはずもないことは十二分に分かっているので、その台詞もどこか尻すぼみになっていた。


「浮かない顔だな少年。」


どこかから声がかかった。

やや遠くから響くその声の方を向くと、一人の女性が仮想ビルの屋上に立っていた。


スーパーマンの如く両手両足を広げて飛び立つと、ほんの数瞬後におれの目の前に鮮やかに着地した。


「君がセツナくんかい?」


「え、ええ。」


不意の新キャラ登場に戸惑う俺の右肩に右手を乗せた黒髪ロングで眼鏡な所謂清楚系な女性が耳元で囁く。


「ユーリを頼んだぞ。あれでいてあの子はビックリするほど脆くて壊れやすいからな。」


急接近にたじろぐ俺に彼女はカッカと豪快に笑う。


「あのー、どうかしたんですか?」


不安そうにその黒髪の女性を見るユーリに対して答えたのは路地の影から現れた、またしても新しい人物で、これまたかなりの美少女であった。


「なんでもないよユーねぇ。いつもの隊長殿の戯言やけんね。」


ケラケラと笑うその女性は藍色の瞳に空色の髪、紅いフードを浅く被っていて茶色のジャケットを羽織っている。


その下のスカートはピンクの布に白いラインが端に沿うように引かれていて、きゃわいいと言いたくなるようなたたずまいだ。


そしてその隣にも女性がいるのだが、揃いも揃ってみな美少女であるのでモンスターを操る敵はもしや美少女狙いかとも思わなくもなかったが、自らを考えてその線は無いなと取り消す。


このとき俺は自分の女装姿を想像してしまった。うえっ。


「ユーリ、そっち。だれ?」


ぶつ切りに呟かれたその言葉の出元は空色の髪の少女の隣の銀色の髪の少女で、瞳も髪に負けず劣らず、鏡のように銀色に輝いていて白いレザーコートとその下半身を覆うパンツは白地に黒いラインが蜘蛛の巣のように張り巡らされている。


「あっ、えっとこちらはセツナさんです。今日モンスターの被害に遭って、保護目的もあり私たちの仲間になって下さいます。」


あっ、戦って頂けるんでしたっけ?と付け加えるユーリに対して首肯すると空色の髪の少女が俺の左肩に自らの左肘を乗せて耳許でコソコソ話しかけてくる。


「お兄さん、わざわざ戦闘に介入するなんて、ユーねぇに惚れちまったのかい?」


この人の心にズカズカ土足で踏み込んでくる態度といい、物言いといい、リアルワールドに置いてきた友人が思い出されて涙がこぼれそうになるが、すんでのところで堪えて代わりに答える。


「尊敬という意味でな。」


ピュゥー。わずかに口を絞り、息を吹き出して鳴るその口笛。

どういう意味かはなんとなく分かる。


「バカにしてるワケじゃないって。ユーねぇ、メガンツ可愛いから仕方ねぇ。特に男の兄さんには仕方ねぇってばよ。」


おっさんのような口調と共に腕を組んでうんうんと頷いている。

てかメガンツってメチャクチャって意味で捉えたがよかったのだろうか。そりゃどうでもええか。


「では我々はそろそろ配置に付かなければな、アイリス、クレア。」


それぞれの顔をみながら黒髪の女性が名前を呼んでいることから、空色の髪の少女がアイリス。銀色のほうがクレアということだろう。


「ホイホーイ。」

「御意。」


ホイホーイとアイリスが言うのはなんとなく想像つくが御意ってなんだよ御意って。侍か。それも古風の。


どうでもいいことばかりが浮かぶ俺の思考に構わず三人はさっきとは違うビルの方へ跳躍する。


黒髪の女性が途中で振り返って声を張り上げた。


「また後程歓迎パーティをしてやろう。任せたぞ、少年!」


その顔は嬉々として輝いていた。

これから何が起こるのか分かっているのかあの人は。


一瞬遅れて目先に黒点を捉える。


それをすかさずキャッチすると、ユーリの付けているのと似た形の片眼の機械だった。


「アレがユーリの仲間か?」

「彼女たちの個性的な部分を強調して私の仲間だと定義してますよね?」

「気のせいだ。」


目線がわずかに上ずるが、ユーリは気づいていない。


「そうですか。そうですね。えっと、そういえば名乗っていかなかったですね。彼女は私達の所属するギルド【STARDUST】のリーダー、ティンクさんと、水色の髪の(かた)がアイリスさん、そして銀の髪の女性がクレアさんです。」


「黒髪清楚さんはよほどお星様が好きなようだな。」


「え、ティンクさんがですか?えっと、どうして分かったんです?」


「あー、えっと…STARDUSTから派生させて予測したまでだよ。ティンクの意味は多分ティンクル、星の煌めきから来てるんだろうってね。」


「すっごいですね。私なんて考えたこともなかったですよ。確かにティンクさんは毎夜星を眺めてるみたいですけど。」


俺は先程の女性、ティンク氏が田舎の別荘のテラスでコーヒーを片手に物憂げな表情で星を眺めている様を想像した。


妄想でも絵になる彼女だが、その想像上のイメージはどこか寂しそうだった。


妄想が跋扈(ばっこ)していて浸り続けたいのは山々だが、まだ早急にやるべきことが山ほど残されているため途中で切り上げて、右手に持つ機械についてユーリに尋ねる。


「悪い、コイツの使い方を教えてくれないか。」

「え、いつの間に!?」


さっきのあの女が投げたことに気付かなかったのか。

飛んでいく彼女に見とれていたみたいだが。


「さっき投げて来たんだよ。それよりコレの機能はモンスターを転送するだけじゃないよな?」


「はい。ある程度予想しているとは思いますがコレがないと武器をこの世界に精製出来ません。」


「だろうな。」


この世界に武器の類いは存在しない。

なのでその思考に辿り着くのは必然といえよう。


「取り出せる武器は1つだけか?」


「はい。ですが正確には装備一式です。」


防具類があるのはありがたかったが、胸の中で舌打ちする。


大量に精製出来れば現実的仮想空間で登録しているメールフレンドに連絡をとって加勢してもらえるはずだと考えたからだ。

アイツらは命は奪われないハズだからな。と考えたが間もなく首を振る。


「そういやモンスターに攻撃されることで俺達みたいにログアウトできなくなるんだったな。

なら巻き込むワケにはいかないか。」


半ば独り言のつもりだったがユーリは頷いたあとに口を開く。


「複数あっても意味ないんです。」


「え?どうして?」


「コレは、現在ログアウト出来ない人間、つまりは私やセツナさんのような人にしか使用できないんです。」


「なっ…。」


そう来たか。

何がなんでも俺達だけで倒せとそういうことか。


まぁ、初めから選択肢はそれしかないのだけれど更に選択が狭まったような気がして心細くなる。


というかいきなり色んなことが起こったせいで忘れていたが、あのログアウトポイントのフォントに浮かぶ文字。


時間指定。タイトル指定。制限時間こそないが、極めつけに健闘を祈るときた。


この現象、いやオークやユニコーンがゲームから這い出てくることも含めてこれらの現象は人為的なものだとみて間違いない。


しかも恐らくユーリに俺が促されたのと同様にログアウト不能だと分かっていてもログアウトボタンを押したのは人間は俺だけではないはずだ。


何故俺だけに…。


敵の目論見はなんだ?


見えない敵を刺すように空を()めつける。


かなり長い時間沈黙していたのか少女が不安げに「大丈夫ですか?」と俺の機嫌を伺う。


俺は(かぶり)を振り「あ、ああ。わり。大丈夫だ。」と少女の頭に手を置いて微笑んだ。


安心したようにはにかんだ彼女は、直後何かに気付いたように表情を曇らせて空を指差す。


その先に視線をやると先程の機械を受け取った時とは異なる大量の黒点が北の空に密集していてこちらを目指してやって来ているのが分かる。


ウイングモンスターズオンラインのエネミーたちに相違なかった。


北の空には天空を塞ぐかのように赤いフォントに【unknown】というどす黒い

文体が浮いていて、そこから転送されるように湧きだしていた。


「お出ましか。」

「時間がありません。戦闘に必要な知識だけレクチャーします。」

「ああ、頼む。」


武器の出し方、戦闘力の図り方、攻撃パターンの解説の引き出し方などを簡単に学んだところで、残り10キロといったところだろうか。敵はもう目の前に迫っていた。


「うん。コレだけあれば充分だ。武器だけでもアイツらの戦闘パターンは少しばかり覚えている自信があるからなんとかしようとは思っていたんだが、ありがたや。ありがたや。」


緊張を和らげるために僅かにふざけると、ふふっ。と笑う声が聞こえたので俺の方もニヤリと笑い返す。


大きく息を吸って気合いを入れるために力いっぱい腹から吹き出す。


「俺が先に突っ込んでこの一番デカい通りに風穴を開けるから、ユーリも遅れない程度に敵を倒しながら付いてきてくれ。」

「いきなり上司に命令ですか?」

「ういっ!?」


上司という言葉が耳慣れていないせいだろうか、やたら変な声を発してしまった。


俺がユーリたちの組織に入るということは、このクスクスと笑う少女は俺の上司ということになる。


「す、すまん。ユーリの指示に従うよ。」


「冗談ですよ。あなたがそう判断したのなら従います。だってこんな場面でいきなり指示を出すってことは、そうとう手慣れてそうですもんね。」


俺の顔面が熱くなる。

かつてゲームの中でギルマス(ギルドマスターの略)をやってた頃に染み着いたリーダーシップというやつがでてしまったようだ。


「ふふっ。可愛い。」


いつの間にか外れている敬語に気がついたようで、一瞬無言になるがやがてその小さな唇が動く。


「絶対、絶対死んじゃダメですからね。」

「ああ、もしもの時は君が守ってくれる約束だからな。」

「もしもが来そうだったら撤退してください。」

「りょーかい、っと。」


そんな事態が訪れる程に危険なモンスターは殆どいない上に、そういうモンスターは概ねボスクラスなので目につきやすいく、後で隊を組んで戦う作戦であるため特に問題はないはずだ。


ところでだ。

この機械には何の装備が入っているのだろうか。


そう考えながらレクチャーを受けた通りに武器を呼び出す。


「メインアーム、カモン!」


その機械が奇怪なサウンドとアクションを轟かせ、一部が目から外れて回転しながら宙に浮く。


そのレンズのような部分から放たれる光によって四角い枠が切り抜かれ、白銀の光を放つその枠から刀身が現れ、やがてその武器が全貌を現す。


俺は数々のゲームで様々な武器をメインアーム(主武器)としていたので何でもそこそこ使いこなせそうな気がしたが、一番手慣れてしっくりくる武器は…


出てきたその武器。

かつて俺が遊んでいたゲーム、クリーチャー無双オンラインでメインアームとしていた武器。

俺がこれまで使った全装備の中で最も使いやすいと感じていた武器。


剣とは違い長めの刀身が鍔に突き刺さり、ソイツが鞘の中に収納されている。


これは長刀、ロングブレードとも呼ばれるソレだった。


更に驚いたことにその武器は固有名【ドラグニルディザスター】。


そのゲームの中で登場する最強の装備で俺が半年間に渡って愛用した武器だった。


龍の災害と名付けられたそれはまさしく最凶に相応しく、そのゲームで持っている人間は知り合いの間では俺だけで、他に所持している人間の噂すら聞いたことがなかった。


NPCショップは勿論、ゲーム内オークションにも並んだことの無いその武器が唯一手に入る方法は、ボスモンスターからのドロップでそのドロップ率は10万分の1、つまり0.001%という驚愕の数字を叩き出し、俺のような重度のネットゲーマーを絶望の淵に叩き落とした。


だが、そんな中とある救済措置がとられた。


それはソロ(一人)でのクエストクリアという限りなく不可能に近い厳しい条件だった。


何故無理かというのは、通常このゲームのボスモンスターは1レイド(8人パーティー×9)72人で挑むもので、それでも全滅することもあったくらいだ。


更に云うなら、コイツはレベル制限キャップ(上限レベル)が更新される度に相応して強くなるのでソロで挑むなど無謀に等しいのである。


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