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XXC(ダブルクロスクロニクル)  作者: 京都夜京都
5/10

04

右手の剣が右から左へ水平に切り裂いたかと思うと、その瞬間に元にあった空間に戻ろうと右手の剣が敵の腹を切り裂きながら技を発動した当初の空間へ帰り、更に左の剣が左下から右上に繰り出される。


ユニコーンが悲鳴を上げて仰け反るが、彼女の剣の光かたからして恐らくまだ攻撃は続く。(というか知っている)


左手の剣も元の空間に戻るようにユニコーンの首筋を抉り(えぐり)それに連られて右手の剣が右上から左下へと降り下ろされる。


その勢いに任せて身を捻り、独楽(こま)のように回転し、左、右の順に敵の首を更に深く切り裂く。


双剣スキル 七連撃 スタースライサー


かつて幾度となく目にした技だった。

あれは俺が最もハマった仮想ゲームの奥義の一つだ。


ボイスコマンドにより発せられる必殺技のカッコよさが魅力的なゲームだった。


だが、とある理由によりそのゲームの正式サービスは僅か一年で閉鎖されてしまったのだが、それはまた別の話。


ユニコーンの切り裂かれた首筋の断面から赤いポリゴン片、ではなく、鮮血が吹き出した。


喉笛というものがあるのかは知らないが、人間がその場所を切り裂かれたら同様の音がするらしい(本やテレビで見ただけだが)、ヒューヒューと微風が凪ぐような音を立てながら、その喉は酸素を欲していた。


何度か苦しそうに喉から音を立てたあと、ドスンと重みのある音と共にその場に倒れ、絶命した。


ゲームの中では切り裂かれた俺の耳のように爆散するはずなのだが、この世界でソイツはいつまでもその場に残っていた。


何故だ?

いや、そもそもここにコイツがいること事態が怪奇現象なんだが、モンスターが血を流し、更にその死体がこの場に存在し続ける。


なんなんだ。何が起きている。

俺が持たない解答に、いつの間にか近付いてきていた彼女が応えてくれた。


「あの、驚きました?」


凛として、それでいてキツくなく、甘く耳に心地好い声だった。


「あ、あぁ。ッツっ!?いってええええ!!」


想定外のことが連続し、暫し忘れていたが俺は耳を切り飛ばされていたのだった。


まぁ、ゲームと同じくログアウトすればリアルワールドの俺の耳は健在で、次回のログイン時にこの現実的仮想空間でのこの耳も復活していることだろうと、痛みに顔を歪めながらも楽観的に考えていると、背筋のピンとはった体制が崩れ、塀に寄りかかる彼女から無慈悲の鉄槌が下された。


「あの、残念ですがあなたは今後二度とログアウト出来ないんです。。」

「へ?」


待て、コイツはなんと言った?

ログアウト出来ない、って。

いやいやまさかな。何かの聞き間違えに違いない。はははは。


「えっと、あなたはこの仮想世界からログアウトできないって言ったのですが…あの、伝わりましたか?」


少女が175センチという平均身長レベルの俺の顔をかなり下から覗きこむ。

恐らくは150センチそこいらの女を見つめながら思考はほぼ停止していた。


マジで言った。ログアウト出来ないと。

だがこう言われたからハイそうですかと飲み込める内容でも、状況でもなく俺はとにもかくにも無我夢中で否定する。


「あ、あり得ない。アンタが何者かは知らないけどコレはゲームじゃない。もう1つの現実世界だ。あんなモンスターが出てきたのも何かの間違いだ、バグだ。エラーだ。夢だ。妄想だ。」


俺の見事な慌てぶりに対し、少女は極めて冷静かつ的確な答えを俺に提示した。


「バグやエラーが人を襲うんですか?それがここでおきると思いますか?それこそあり得ないとは思いませんか?」


そうだった。

自分で言っておきながら忘れていたというか、かなり動揺していた。


この世界でバグが起きることはまずあり得ない。

なぜならここは仮想世界であっても、99,9%以上が現実と同じように設定されている。


それでは何故仮想世界をわざわざ利用するのかといえば、理由の1つに移動の便利さというのがある。


現実世界でも車やバイクなんかを用いていた昔よりは便利になっているそうだが、仮想世界はその比じゃない。


仮想世界に入るには自宅で専用のヘッドギアを被り、仮想空間へのグローバルネットに接続しさえすればいい。


そしてログイン直後に目の前に現れるワープポイントに、行きたい場所を入力するだけでそこに一番近いワープポイントに飛ぶことが出来る。


友人と会うために、友人が仮想世界にいるならばほんの1分とかからず対面することが可能なのだ。


それもこの仮想現実世界の加盟国ならばどこにでも行けるため、国境がない。


というよりそもそも、物理的に国境がない。


そこの国の所有領土というよりも、開発した日本企業が各国にその世界の一部を貸しているといったもので、国単位で巨大な領土を購入することは出来ず、ワープポイントが非常に短い距離の感覚で存在しているのも踏まえて、個人が現実的仮想空間で購入出来る土地は大豪邸が一棟建つ広さに制限されている。


ただし1つのサーバーに1つというわけではなく、現在この世界に5つ存在する全てのサーバーで一つに限られている。


この仮想世界にも様々な店が存在する。仮想の服屋、オモチャ屋、スーパーにデパート、遊園地までリアルワールドにあるほぼ全てのものが存在しているといってもオーバーでないだろう。


次に異なるのが、この世界で何かを食べてもリアルワールドの自身の肉体に栄養分は供給されず、お腹だけが満たされるというシステムが存在する。


ダイエット目的でよく使用されているが、倒れる人が続出しているのはこの仮想満腹エンジンが搭載されてから変わらず、この世界でもこのシステムを搭載する際にヘッドギアには生体保全危機アラームが搭載され、生命活動を行う上でこれ以上は危険が伴うとヘッドギアが判断した場合に警報が自身とこの世界を創りだした企業に飛ぶ。


すぐにリアルワールド側での近くの病院に救急ポット(昔でいうところの救急車)で運ばれて処置を施されるのだが、これには多大な罰金が発生する。

色々な人に迷惑をかけてしまうのだから当然だろう。


なので、ダイエットを行う主婦たちは限界の半分程度で見切りをつけている。

医師に相談して、期間を見積もる者もいる。


かなり思考が逸れたところで元に戻る。


何故バグが発生するハズがないのかといえば、情報リソースが全てリアルワールドから得たものであるからだ。


現実的仮想空間は仮想世界といえども、現実をデータに置き換えているだけで、それ以外はなんら変わりはない。


いや、もしくはデータというよりもデータのようなものと言ったほうがいいだろうか。


仮想世界は既に存在していたが、この現実的仮想空間が生まれる前の話だ。


リアルワールドでとある研究者により【世界の脈の流れ】というものが発見されたことに端は発する。


その流れとは世界を形造る生命力とでもいえばいいだろうか。


その脈が流れているから、あの山はあんな形になり、川はこう流れ、雨はこう降り、地球は存在し、太陽は光を放っている。

それが空間ごとに流動する脈によって最初から決まっている。


といったかつてはスケール壮大なものだったらしいが、50年経た今では当たり前のことで、小学生の教科書でさえ載っている。


そして、その流れを利用したものがこの現実的仮想空間というものなのだ。


50年前のある日のこと。

【世界の脈の流れ】を発見したチームが開発した機械によって根こそぎコピーすることに成功した。


それを丸々置き換えたこの世界なので、バグが起きるということは、それはリアルワールドにも起き得るというものに相違ない。


そこまで考えるのにたっぷり30秒程俺の口は唖然として開いたままになっていた。


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