01
「あーあ、惜しかったのになぁ」
幼馴染みの藤ヶ崎京が先の戦闘に対してぼやくが俺はそれを無視して上着を着替えた後にネットカフェを出る。
うるせえ、お前に言われなくても分かってるんだよそんなこと。
と頭に浮かんで溜め息をつく。
「いかん。イライラするのはよくないな。」
負けたイライラというより、武器を弾いたあとほんの一瞬気を緩め、油断した自分自身が許せなかったのだ。
京がスタスタとついてくる。
「あの隠し武器凄かったよなぁ。」
「…。」
そう、俺はその隠し武器にトドメを刺されたのだ。
明らかな殺気を持った右手の細剣は囮で、本命は左手に隠された透明のレイピアだったのだ。
その透明さは輪郭が見えるようなものではなく、完全に背景と同一化していて気がつかなかった。
そもそもあんなシステム外スキルを使ってくるとは思いもしなかったのだ。
といってもシステム外スキルは大会においては本来使用禁止なのでその武器の特性か何かだろうが。
敵のアバターネーム【clear】のもつ意味は透明であることが分かったのだが、当人の瞳は鮮やかなコバルトブルーで、隙間から覗く髪は艶によってか黄金のように光っていた。
猫耳のついた可愛いフード付きの上着とマスクは黒で、履いている短パンは深緑。
そこから覗く艶やかな白い艶のあるももの下には白地に黒の水玉のニーソと踝までの紐付きの茶色のブーツ。
明らかな有色のその成りに苦笑を漏らす。
俺の思考を半分ほど呼んだ隣の女がキシシシと小憎らしく笑って肘でガスガスと俺の二の腕をつつく。
「女だからって油断したってか?」
「ケッ。」
否定するのも面倒くさい。
俺は全力で闘った。最後の一瞬以外の全て。
だが相手のほうが一枚上手だったのだ。
残り25位以内の奴の戦闘を視察してその内ほとんどの戦闘スタイルを把握していたからわかる。
クリア氏は決勝まで一度もあの透明な細剣を使用することなく勝利している。
確かに思い出すと、観察している時から凄まじい動きと僅かに戦闘スタイルに違和感を感じていたがその正体がまさか。
「二刀流だったとはなぁ。それも細剣の。」
はぁーっ。という溜め息が自然と漏れる。
二刀流というのは基本的に片手剣二本であり連続攻撃を得意とするが、片手剣以外の二刀流を使っているプレイヤーを見たのは初めてだった。
何故ならゲーム内に実装されている二刀流は片手剣でしか装備できないようになっているからで、それ以外は装備可能な武器は一つのみとされているからだ。
だがあの場は違ったということになる。
世界がとりもつ公式大会の場として新たに儲けられた仮想のフィールドで、誰でも無料でインストール出来るフィールドで、それは古代ローマに設計されたコロッセウムによく似ているがそのデカさが異常で、収用人数は無制限。
というのも観客は仮想の実体の無い体でログインするように設定されてあるため、他人とぶつかることはなく、また視界カーソルを設定すれば戦闘が行われるフィールドをまるで目の前で見ているかのような臨場感を味わえるとともに、自分の視界に他人が入らないように出来る。
それでいて戦闘のボイスがクリアに聞こえる上に観客の沸く声も耳に届く(両方とも耳に届く音量を設定可能)ため、コンサートやスポーツさながらの【実際に行った】という感覚が得られるのである。
更なるオマケとしてどういうロジックなのか闘っている人間、つまりはあの決勝では俺とクリア氏の視界に割り込むことができ、まるで自分自身が闘っているかのような興奮を味わうことができる。他人の視界に割り込むなぞ人類の叡知というのは行くとこまで行けば末恐ろしいものである。
かなり思考がそれたところでもとに戻す。
そのコロッセウムの中は通常のゲームと違い、細剣でも二本装備することが出来たということだ。
自分がプレイしているゲームの所持装備データを実体化して、装備フィギュアに装備するわけではなく、実際に手に持って闘い、防具は防御力が発生しないようにされているため、無駄に重くなるだけなので素晴らしい能力が付加されていない限りは装備する意味はまるでなく(能力持ちの武器防具はほとんどが禁止されているが)、本選ではほとんどのプレイヤーが動きやすい服装をしていた。
(予選時にはコスプレ目的なのか色んな装備をしたプレイヤーもいるにはいた)
装備フィギュアを見てレイピアを装備すると通常二つある武器スロットの二つ目にはバツ印が付けられるため、レイピアの二刀流はどのゲームにも存在しない。
そういう意味もあって、レイピアはそれ単体という固定観念があり、更には装備フィギュアを開くわけでもなく実際に手に握って闘うので片手剣以外の二刀流がある、いや、二本手に持って闘う奴がいるとは想像することすらできなかったのだ。
また、普通の細剣使いは個人によって多少は動きに違いが出るものの、彼女(?)のそれは少し違っていた。
左肩を庇うように内側に捻った左腕をダラリと垂らし、ユラユラ前後に揺れるフットワークで右腕に収まる細剣カテゴリーである武器のレイピアを高速で打ち出すそのスタイルが二刀流だったとは予想だにしなかったのだ。
恐らく俺に使った時のように余程のピンチでない限りはこの大会で使う気すらなかったのだろう。
何故なら一度使ってしまえば周囲がそれを認知し、透明な細剣は役に立たなくなる。
つまりMMO人生で一度きりの諸刃の剣であるからだ。
そうまでして優勝しなければならない理由が彼女にはあったのだろう。
控えめな色合いをした服装とは真逆の圧倒的な存在感と威圧感。
可愛い見た目からは想像することすら出来ない鬼神さながらの連続刺突攻撃。
どう見ても対戦を楽しんでいるとは思えなかったその女の目は怒り、あるいは苦しみを帯びているようだったと俺の記憶が訴えていた。