第一章 目覚め R
ゆっくりと目を開ける
夢から覚めたようにゆっくりと起き上がる。あれぇ?なんだこの部屋
自分の部屋ではないところで目を覚ました冬弥陸は周りを見渡す。なんだかゲームの世界に来たような豪華なベッドの上で部屋は広く無駄なものはあまりない。なんだかこんな部屋を見たことがある気がしたが、絶対にこんなものは身近になかったと考え直す。
「くるまっ!」
先ほど起こったことをいきなり思い出し自分は轢かれたのだ。でも生きてる…。ベッドから起き上がり鏡の前に立つと目を疑った。
「ふぁぁあ!?」
変な声を上げるとパタパタと走ってくる音が聞こえるがそんなこと気にしている場合ではない。若返っているのだ。冬弥陸は今年28歳になる社会人だが18歳位の時のような外見。しかも昔より少し格好よくなってる気がする…。何があったんだ!何なんだ!そんなことを考えてる間に後ろの扉が開いた。
「どうしたの?」
そう聞いてくる女性、いや猫耳女?のような娘が問いかけてくる。身長は150cmくらいで健康的な肌の色。栗色の髪は短くショートヘアーの女の子ただねこみみが…
「…」
そんなことを考えていて何も答えられずにみみを見る。
「じろじろみないでよっ何もないなら叫ばないでよね?」
ぴくぴくと動かした耳は本物のようでなんといったらいいのか…。だがすぐに耳を見てて怒ったのだと気づき謝る。
「ご…ごめん」
「別にいいよっそれより起きたならご飯食べようよっ」
いきなり食事に誘われどうすればいいのか、何もわからなかった。どこにいるのか、何が起こっているのか、若返っているのはなぜか、この子はなんなのか、わからないことが多すぎて考えることを放棄した。
「ごはん…なに?」
「朝はパンでしょ!パンと卵焼きだよ!」
パンと卵焼きっておかしくね?と思いながら女の子についていくことにする。部屋を出ると廊下がありこの家は広さ的には一軒家くらいなのだろうか?と考えながら違う部屋に入る。
「というか家の主人が最後に起きてくるってどうなのー?私が来てるのにさぁっ」
この家が僕のもの?意味が分からず はぁ と声を漏らす。もう聞いてみるのが一番早い。それしかないし
「ちょっと記憶がないんだ…。ここがどこなのかもわからない」
と言うと驚いた表情になり
「なんで急に?ぶつけたとか?」
「いや、そんなことはないと思うけど…ぶつかったといえばくるま…」
車にぶつかったことを思い出してこの子に車が通じるのかという疑問が浮かんだ。ここは昔いた世界ではないような気がしたのだ。家の作りから家具まで何もかもがゲームの中のような感じ。そう、昔やっていたあのゲームのような…
ん…?
ゲーム…?
あのゲームでサービス終了日にやったことを思い出した。どうせならもう一件家買おう。お金は有り余ってたので無駄な買い物をして初めての家で最後に遊び散らかしたのだ。そしてみんないなくなる最後に最後まで二人で残っていたのがミミガーんさんと僕だった。
ミミガーんさんというのはギルドのメンバーで人間と猫をたしたような種族を選んでいた人だ中身は男の人だがいつも女の子のキャラでいたので話し方も女の人っぽかったのを思い出す。
そして目の前の女の子を見るとゲームとは少し違うがミミガーんさんのキャラのように見える。
「くるま…?なにそれ?」
ミミガーんさんっぽい女の子が話しかけてくる。車がわからないということはミミガーんさんではない。なら誰なのか?という疑問と何考えてんだ?という無意味なことを考えてるんじゃないかという考えがぶつかり合う
「僕の名前は…?」
「リクン?リクンだよ!名前まで忘れちゃったの?」
リクンというのはゲームで使っていた名前だった。実際の名前も陸というので違いはあまりないから陸と呼ばれているような気もする。ちょっとンが付いてるっぽい気もする。
「き…君は?」
ミミガーんだと言われたらネカマだぁああと叫んでやろうかと思い、もう夢でもゲーム内でもなんでもいいやと思う。
「ミミだよ!治るのかな?」
名前にてる…。けど違うのか?失礼かもしれないけど聞くべきか?男?そんなこと言ったら嫌われるのかな?
「失礼だけど…女の子だよね?」
もう聞くしかないと思い口にする。
「え?そうだけど…」
とミミが口にしたところでコンコンと部屋がノックされる。なんだ?誰が来るんだ?俺の家じゃなかったの!?と思考を巡らせていると記憶がないといったのを思い出したのか、ミミがどうぞと声をかける。
「失礼します。食事をお持ちしました。」
そういって入ってきたのはすごく美人なメイドだった。髪の毛は綺麗な黒色で腰のあたりまである。ポニーテールで綺麗にまとめられており整った顔を魅せられる。そうすごく僕好みの容姿で見とれてしまった。
淡々と料理を並べていき食事の準備が整うと綺麗なお辞儀をして部屋を出ていった。
「彼女はいったい…」
そう呟いてゲームのことを思い出す。僕が好みで作ったメイドも実際にいたらあんな感じなのだろうかと。設定は細かく作っていたが細かいといっても人間という細かすぎる生き物からすれば大雑把だろう。もしここがあのゲームの世界ならどういう行動をするのかわからなしい不安が大きくなっていく。
「早く食べよっ?」
そう言われて食事があることを思い出す。うん と呟いて食事を食べようとするとミミがむっとした顔をする。
「いただきます」
そう言うと満足そうにミミも元気にいただきますと言い食事が始まった。食べ物はパンと卵焼き?卵焼きというよりは目玉焼きだろうか。まぁ卵を焼いているのだから問題はないと思うが。味は普通に美味しい。ふと目玉焼きの大きさが少し大きい気がしてなんの卵なのだろう。と不安が押し寄せる。
「これは何の卵?」
「鶏だよー?」
不思議そうに答えてくれるが記憶がないのだから仕方ないかと思ったのか何も言ってこない。
「ここはゲームの中なのかな…」
呟くように言っただけだった。
「え!?」
ミミがすごく驚いたような顔をしてこっちを見ている。なにかまずいことを言ったのだろうか、なんと弁解しょうか悩んでいるとミミの方から話しかけてくる。
「リクン?いまぷれいやー様が来てるの!?」
そう聞かれここはゲームの中なんだ。もうどうにでもなれと頭の中で思う。
「そうだよ。僕がプレイヤーだ!わからなことが多いからいろいろ聞かせてくれない?」
そうしてミミと食事をしたあとも何時間も話を聞いた。
ようするにこうだ、ミミのプレイヤーはミミガーんさんでログインしてないときはミミとなるらしい。それで僕はいまログインしているということらしい。でもここ数年誰もログインしてこないのでもうプレイヤーはいなくなったのだと思い普段どうり生活していたのだがプレイヤーがいなくなったことによって世界は大きく変わっているとのこと。プレイヤーがいたときはプレイヤーのアバターはもちろんNPCも変な行動などすることはない。でもいなくなったことによってこの世界を統治しようとするものが出てきたとのこと。プレイヤーがモンスターを狩らなくなったため数が増えNPCやアバターが勝手な経験値を得ることは禁じられていたが、生きるために最近は戦っているとのこと。この世界は『ドラゴン・ミスト・ストーリー』というゲームが終わった世界なのだ。
一通り説明を聞いたことを思い出しているとミミが話しかけくる。
「でもぷれいやー様のリクンが来てくれて本当に嬉しいっ!リクン様に会いたかったっ」
突然の様付に驚きながらもそのことについて問う。
「ミミは僕のギルドの仲間なんだから様付はおかしいくない?」
「おかしくないですよ?ミミガーん様が来ていないときはいつもこうでしたけど。味方のぷれいやー様には私達は絶対服従ですっ」
そのまま言葉が続く
「それにリクン様はギルド長ですからっ!いつものリクンじゃないと思ったらリクン様だったなんて、本当にごめんなさい」
何もしていないのに謝られてむずがゆいような気分になる。
「いや、僕の方こそ何も知らなくてごめんね?ミミガーんさんとミミの感情は違うってことなのかな?」
「そうですね…もともといつも来ていただいてるときはミミガーん様の気持ち?というのが伝わってきてそれを元に行動していましたが、最近はその気持ちが薄くなって私の意識というのかよくわからないのですけど…」
ごにょごにょと声が小さくなっていくのを聞いて、この子もそこまで詳しいことはわからないのだろうと判断する。
「この世界に来ているプレイヤーは僕だけなのかな?ほかにも来ていたらわかる?」
「ごめんなさい。わからないです…話してみればわかると思うのですが、昔のように誰が今いるというのがわからなくなってしまって」
昔はわかったんだーなどと思いながらゲームの世界なら魔法が使えるのだろうか、とふと思う。
「魔法は使えるのかな?」
「私は使えません。でもリクン様は使えると思いますよっ大魔法使いですから!」
そう言われてどんな魔法が使えたか、というのを思い出す。というか自分が使える魔法がわかる気がする。まぁなんていうのだろうか全部使える気がする。でも試してみないことにはどうにもならない。
「試しに使ってみるか…」
「じゃああっちに行って空を飛んでみませんかっ?」
楽しそうにミミが言ってくるので頷くとこっちこっちと手を引っ張られて連れて行かれる。柔らかい手だなぁ…よく見るとミミもすごく可愛い。突然恥ずかしくなってきた。
外に出て夕日に染まる空を眺める。もうこんな時間か…。そう思っていると突然ミミが抱きついてきた。
「うわっ!ちょ…ちょっとなにしてるの!」
慌てる僕を不思議そうに見ながら
「空飛ぶんですよね?私飛べないので抱っこしてくださいっ」
そんなのありかよ、とか思いながら落とさないように軽く抱きしめる。柔らかく小さめな身体で緊張してくる。そして魔法っていってもなぜか名前とか思い出せないなぁ・・・でも感覚がわかる。
飛ぼう
浮くんだ
そう思うとふわっと重力がなくなったような感覚が体を包む。そのままゆっくりと上に上がって行き自分が空を飛んでることに興奮と驚きと恐怖で声が出ない。
「きもちーい」
ミミがそう言うと確かに気持ち良い風が髪をなびかせる。だんだんと恐怖というものがなくなっていき楽しいという感情が溢れてくる。
「すごい・・・!」
そう言って長いあいだそこで世界を眺めている。少しして地面に降りる。
「やっぱりつかえましたねっ」
魔法が使えたことを喜んでくれるミミを眺め、うんと呟きゲームの世界にきたことを実感する。
「暗くなってきたし帰りますか?あの・・・今日はどこに帰ります?」
そう聞かれて、あぁ・・・家二つあるんだよなぁということを思い出す。ミミの家もあるしギルドもある。ほかのギルドメンバーの家もあるということをミミに言われ確かに。と思う
「今日はさっきの家に帰るかな。ミミは自分の家に帰りなよ」
「えー・・・」
不満そうな顔をするがわかりましたと言うとまた来てくださいね?と念を押される。
「てかもう帰れないような・・・」
そんなことを呟きミミと別れ家に帰る。家に入ろうとすると鍵がかかっている。あれ?しめてないぞっ!どうしよう・・・と思っているとガチャっという音とともに扉が開かれる。
「おかえりなさいませ」
先ほどのメイドが扉を開けてくれる。ミミのように交友的なのか、ということが頭によぎるが、ちゃんとメイドをしていてくれるんだし平気か。とすぐに考えが消える。
「ただいま」
そう言って我が家に入る。
明日からどうやって生きてこう
そんなことを考えながら歩いていると
「食事になさいますか?」
メイドが話しかけてくる。このメイドの名前は…リム。リム・ロット・フィオールという名前だ。変わってなければだが。自分が付けた名前くらいは覚えている。名前の由来は特にないが自分の名前の一部Rにちなんだ名前にしたかったのは覚えている。
「今日はもう寝るよ」
空腹感がなかったため食事を断り部屋に向かう
「おやすみなさいませ」
ちらっと振り向くと部屋に向かってるあいだもこちらにお辞儀をしている。なんだか悪いなぁと思いながらも部屋に入る。そして明日からどうしていくか、まぁ明日考えればいいか。とベッドに潜りまぶたを閉じる。
意味がわからないことが多すぎて疲れたなぁ
でもどうやってこの世界から帰ればいいのだろう
明日からそれを探していこう…
ゆっくりとまぶたを閉じ眠りについていった。