1.普通男子はどこに行けば会えますか?
ふと思い立って文章にしてみたお話の始まりです。
背景も経緯も設定もおそらくありがちなものになると思いますが
全くの素人作品の為、ゆるーく読んで頂ければと思います。
名前:月城奏
性別:女
年齢:36歳
彼氏いない歴:年齢と同じ
文字に起こすとなんだかとても可哀そうな30代女子のプロフィール画面にそっとため息をつく。
所謂出会い系・・所謂『恋活サイト』に登録する為なのだが、すでにもてない感が満載ではないだろうか。
「これを見て連絡してくる人って一体・・・。」
1)同じ境遇の同志
2)処女ならなんでもいいという強者
3)悪徳商法的な何か
4)熟女予備軍好き
駄目だ。
このサイトさんに恨みは無いけれど、昨今の出会い系絡みの事件の数々を思い出してしまって
どうしても印象の良い理由が思いつかない。
なんかコワイなぁと思ってしまうのはそれだけ私が真剣に相手を探そうとしていないからなのだろうか。
「・・・・・やっぱり登録しない、とか・・駄目かなぁ。」
「駄目、なんだろうなぁ・・・」
知れば『いつまでもぉ、逃げ腰だからぁだめなのよぉ』と柳眉を逆立てて怒りそうな友人を
思い浮かべ、思わず肩を竦める。
そもそも私が何故こんなことを(嫌々)しているのかと言うと、遡る事数日前・・・。
***
「あんたさー、そろそろ先の事真面目に考えなよぅ。」
夜の蝶々さんの様な見た目と口調で軽い女という印象を与えがちな友人、「支倉詩織」がスタバのカップを弄びながら言う。
視線をあげれば抜いたストローを口に加えたままこちらを見つめる詩織の顔が見えた。
「わかってますよーだ。でもさ、あれだよ。あれなんですよ。」
「なによぅ、あれって。」
「出会いが無い。」
「そんなのはぁ、出会いを作りに行ってないからでしょー?あんたの場合って。」
「・・・・・そうとも言うね。」
ああ、抹茶ラテが美味しい・・・。
次は白桃味っていう裏メニューに挑戦してみようかな・・。
中身が少なくなったせいか、ストローから時折『ずぞぞ・・』と吸い上げる音が響いている。
・・・・これ、音をさせないで最後まで綺麗に飲みきるテクってないのかなぁ。
「コンパとかぁ、セッティングしてあげようかって何度も聞いてあげたのにぃ。」
「それは・・・確かにそうなんだけど・・・。」
だからって相手が医者やら弁護士やらハイスペック集団を集められてもですね。
私の方がハイスペックとは言えないからとても心苦しい訳ですよ。(相手に)
そんな私の心情を知ってか知らずか、詩織はむぅと頬を膨らませて不満そうな様子を見せている。
「なによぉ、またあれ?『普通の人がいい』っていうやつ~?」
ぐ、と詰まりながら小さく頷きを返せば呆れた様な声が返ってきた。失礼な。
普通に働いていて、普通に自分の力だけで生活している人ってだけなら見つかるだろうけど、
初対面の人相手でも失礼じゃない人ってわりと貴重だよ?
誰にでも良識ある態度がとれるって本当大事だよ?
「そうは言うけど・・・過去に出たコンパで普通の人なんてほとんど居なかったもの。」
1日だけだし無難な対応をしておけばいいのにさ、はなからお前なんて眼中にないって
態度を取られるといくら気が無い相手でもちょっとは傷つくってものですよ。
おかげで今ではすっかりコンパ怖い病だし。
おのれ山田。
「でも、それって大学の時の話でしょー?社会人相手ならぁ、大丈夫なんじゃなぁい?」
「・・・たしか、大学生VS社会人のコンパだったよ。」
・・・・・・・・あ、なんか今あんた男運ないもんね的な視線を感じた。
でも言い返せないのがちょっと悔しい。
正直私にとってはハイスペック男子より普通男子の方が遭遇率の低いレアな人種な気がする。
あと、ついでに言えばコンパで一緒になる女性のぎらぎら感もとても怖い。
韓国ドラマでよく出てくるヒロインの評判落とそうと裏工作してる系の女子くらい怖い。
でも、そこまで一直線に迎える彼女たちのバイタリティーは素直に凄いなぁって思う。
相手が密かに好きな人であったとしても果たして自分にあそこまでの押しがあるかどうか・・・。
「理想、高すぎなんじゃないの~?白馬の王子様なんて待つだけ時間の無駄よぅ?」
いや、無いな。ないない。などと自分の押しの弱さについて振り返っているとため息まじりな言葉が耳に入って来た。
むぅ、心外な。
「いや、この歳になってその思考は怖すぎでしょ。面食いなのは否定しないけど。
ちゃんと理想と現実は区別してまーす。」
目の保養になるような見目の人が好きで何が悪いのか。
外見は気にしません、なんて言ってる人に限って妙にこだわりがあったりするものだし。
本気で言ってる人は全体の数%だと私は睨んでいる。
まぁ、あくまで私の個人的な意見ですけどね。
「うふ、カナのその潔さは褒めてあげるぅ。
でもぉ、人って自分には無い物を持ってる人に惹かれるって言うでしょー?
普通の人相手で好きになれるの~?」
「・・・もしかして今まで妙にハイスペックな人々を集めていたのって・・・・。」
「ん~、てっとり早く好きになれる相手がぁ、見つかるかなぁって思ってぇ」
えへvと可愛らしく笑う友人に脱力する。
「ん?ちょっと待って。それって遠回しに私が残念なスペックってことじゃあ・・・。」
「それは置いておいてぇ、カナは先の事考えてるのぉ?
アラサーとかアラフォーとか美魔女とか色々もてはやされてるけどぉ、そんなの一過性のもんよぉ。」
御説ごもっともです。
っていうか否定はしない訳ですか、そうですか。
ややむくれ気味で頬杖をつくと残った抹茶ラテを一気に吸い上げた。
結構な音がしたけど気にしない。私は拗ねているのだ。ふーんだ。
「もう、お行儀悪いわよぉ。で、どうなのよぉ~?」
「先の事でしょ?ちゃんと考えてるって。でもそうだなぁ・・・・・
とりあえず、このまま実家近くに独り暮らしするか家を持つか迷ってるかなぁ。」
「・・・え?」
「だから、家賃を払いっぱなしで捨てるか30年とかのローンを払い続けても最終的に
持ち家を手にするか。結構重要よね。」
「えっとぉ、奏さん?」
「でも、あんまりどちらにしても実家から離れたくないのよね。何かあったら駆けつける人って
私しか居ないし。」
一人っ子というのは辛いね。いや、お世話になった恩返しはするべきだし嫌じゃないんだけど。
頼れる兄弟がいる友達とかを見るとちょっと羨ましい気持ちが湧くんだよね。
「ああ、でもローンを組んでも途中働けなくなったらやばいよね?
ならいっそ実家をリノベする方にお金かけた方がいいかな。
親にも優しいし、私の老後にも優しいし。ね、ね、これってどう思う?」
これって良い案じゃないかなっ、とわくわくして友人に尋ねた所。
「・・・・・・・・・・・・枯れてるわぁ。」
そんな言葉が返ってきて我に返る私。
「し、知ってるもん。」
「・・・もん、とか付けるのそろそろ痛いわよぉ」
「・・・・・ですよねー。」
***
長い割には要領を得ない回想をした後、再び目の前のパソコンの画面に視線を戻せば
そこには先ほど登録した味も色気も無い内容が変わらず映し出されていた。
『まったくもぉ。まだ30代でしょぉ。老後を考える前にぃ、もっとやれることあるでしょー?
あ、そぉだ。カナが集団で会うのが嫌なら出会い系を使ってみたらいいじゃなぁい?』
安全性が高くて初心者向けの会員制サイトを教えてあげる、と言われて覗いてみたのがこのサイト。
『with you』
まぁその手のサイトではよくありそうな名前ではあるけれど、それなりに実績もあって
入会料なんかも良心的なサイトなのだそうだ。
感じからして婚活サイトに近いのかもしれない。
しかし、例え入会してプロフをUPして返事が奇跡的にも来たとして。
私は本当に会うのだろうか。その相手に。
詩織には申し訳ないが、現在の胸中は「怖そう」「ちょっと面倒だなぁ」「服も新調しなきゃ駄目かなぁ」と早くもやる気がゼロに近い。
入力必須項目を入力した時点でなけなしのやる気が奪われたと言っても過言じゃないけれど。
しかもこれ公開プロフ部分の内容だし。何の罰ゲームなんだろう・・・。
「あとは・・・自己紹介文かぁ・・・。」
面接で一番苦手だった自己PR。もう会社を辞めない限りしなくて良いと思っていたのに、
まさかここで悩むことになるなんて。
「あー・・・・・。もう、やだ。こんな悩むならひとりでい~~・・・。」
ばたり、と背後に倒れるとクッションが私の体を受けとめ沈み込んだ。
ああ、もうこのまま寝てしまいたい・・・。
・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・ほんとに、ねむ・・・・。
・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・。
『おい、逃げろ!』
『火事だっ』
『火災報知機が壊れてるらしい』
『もう、火が』
一時間後。
すっかり眠りに落ちていた私は、幸か不幸かその声に気づくことはなかったのだった。
名前:月城奏
性別:女
年齢:36歳
彼氏いない歴:年齢と同じ
享年:彼氏いない歴と同じ
イケメンじゃなくていい。せめて普通の(常識ある)男性を!
そんな主人公の愚痴で1話終わってしまいました。
次はもうちょっと進展させたい所です・・・。
※婚活サイトについて
作中にて触れていますが、作者は実際には閲覧したことが無いので、完全に想像で書いています。
なお、サイト名は完全に創作なのですが、もし同名同系統のサイトさんがありましたら申し訳ありません;
完全に別物ですのでご了承ください。