第三十四話 裏切り
6人が去ってから私は立ち上がる。カノンは手加減をしてくれた。耳元で「ごめんなさい」を何度も言われたからだ。まあ、カノンに免じて追いかけるのはやめにしよう。
遠くから、お父様の車いすの音が聞こえた。のんびりとこちらに向かってきているようだ。お母様も一緒のようだ。
「あと一歩だったな、ルリア」
「申し訳ございません。しかし、トルトンはまだ気絶しております。計画のことをよく知る彼を消すなら今です」
「ふむ、目覚めたら殺そう」
「ん……」
トルトンが顔をあげる。お母様がすかさずその顔を踏みつぶす。あら、痛そう。
「がっ……な、た、助けろ」
「は? バカねえ、リュメヒ家の人間はこういうの好きなのよ」
「はあ!? お、お前が」
「うっさいわね、黙りなさい! 」
お母様は、トルトンの顔面を踏みつぶしまくった。鼻が潰れるまで。あらあら。
「さよなら、トルトン。用済みよ」
私はトルトンに一発撃った。それは心臓を貫き、トルトンは動かなくなった。
リュメヒ家の屋敷に戻ると、兄であるハーグンらリュメヒ家全員が食卓にいた。今日から私たちは少し作戦変更をせねばならない。
「お帰り、ルリア」
「ただいま。本当に久しぶりね。もう40にもなるのかしら? いつ別れたかしら」
「ルリアが嫁いだ20歳以来だな」
「あははっ、20年ぶり? 」
お兄様と久しぶりに会えたことに喜び、ひとまず席に着く。やはりこの食事。私はこちらの方が好きだ。
「本日はカノン──かつて諜報員として我々リュメヒ家諜報員と対決をした彼女により我々は負けた」
「今度はカノンを呪うのですか? 」
「いや。あえて裏で活動をしてみないか? 」
「表舞台をおりるのですか!? 」
それには隣の席のお兄様も、私も青ざめた。お父様は一体何を言っているのだろう。バレずに華麗に他の貴族を殺す──それがお父様のモットーのはずなのに。
「ハイドン、お前が表舞台でいい顔をしていろ。最近殺人事件があればこちらがよく疑われる。領民にでさえ怪しまれる始末だ」
「つまり、表面上私が領主を? 」
「ああ、そうだ。私やルリアはそろそろ表舞台ではなく、裏で活動をするべきだと思ってな」
「ああ、そりゃあそうですよねえ。ルリアさんは元お妃ですもの。バレますよ」
リリは笑いながらそう呟いた。それで皆大方納得したらしい。
私、お兄様、お父様はかなり有名人だ。外に出過ぎているのだ。その分、お兄様の息子・ハイドン(シェルリナの夫)やさっきから黙っているハルドナ(リリの夫)は比較的引きこもっている。
「お姉さま、良かったですわね」
「ありがとう、リリ」
この姉妹は表面上仲が良いが、とても確執があるのを知っている。将来どうなるのだろうか。
「リリとハルドナの方を別家扱いする。奥の屋敷に基本的には引きこもっておれ」
「はい、分かりましたわ」
「……はい」
夕食は久々に和やかだった。ウェイトやマーク、そして生まれたばかりのシルメダについて話が弾んだ。どのように育てるのか、シルメダにはどんな銃を持たせるべきか……等々。私も孤独ではなくなり、とても居心地がよかった。




