第三十三話 死闘の果てに得たもの~6月25日~
それから数日。元お妃様は中々現れなかった。しかし、突然現れるものだ。
「これが終わったら結婚式をあげてもよいとリュメヒ家から言われてなあ、さあ戦おうじゃないか」
「──《幻獣》」
「今度こそはっ」
それから幾度も剣を振り回すものの、全くびくともしない。どうしてなのか──。
そう考えていると、トルトンが俺の肩に剣を刺した。それに腰を抜かしてしまう。
「ミカエル! 」
「ベル、落ち着いて。私と一緒に後ろに……」
「はっ、5人でも勝てないものは勝てないのだよ」
「くそっ……」
なんとか立ち上がるものの、肩の激痛は消えない。幻獣の相手をするのもやっとだ。
横目でフォンゲルトを見ると、元お妃様──フォンゲルトはフォンゲルト自身の母親と苦戦していた。この幻獣よりも辛い相手。変わってやりたい──。
「死ねええええ!!! 」
「っ! 」
トルトンも中々手強い。どうすれば……。
「うわっ、ミカエル、気をつけろ! 」
「消えなさい──邪魔者」
「なっ、」
フォンゲルトが元お妃様に振り払われた。そして、元お妃様はこちらに向けて魔法を放った。このままでは死んでしまう──!
「ミカエルッ! 」
「やめて、カルツィ! あなたまで行かないで──」
その時、フォンテーヌに掴まれていた手を振り払い、ベルが立ちはだかった。ベルを、俺は庇えず──ベルは倒れた。
「これで負けだな、認めろ」
「ちっ、遅かったかしら」
「っ!? 」
ベルを抱きしめ、目をつぶって涙ぐんでいた。その時だった。カノンさんがいつの間にかいた。
そして、トルトンの首を少し絞め、気絶させた。元お妃様にも──少し涙を見せながら、同様のことをした。
「ベルは生きてる。生きてるけど──今の医療では、無理……」
「カノン、さん……? 」
「私には、元お妃様を殺せない。とりあえず、逃げるべき……逃げるべきよ、早く、シウォンの元へ」
カノンさんはベルを抱き上げて、涙が溢れていた。いつもなら感情を見せない人なのに──。
俺を含め、皆涙が溢れていた。かけがいのない仲間が今の医療ではもう目覚めないのだと知ってしまい、余計止まらなくなった。
マスターは戦いのことを聞き、涙を流していた。俺たちも涙を流し続けた。
死闘の果てに、こんな虚無を得るなんて──戦ったことを、少しだけ、ほんの少しだけ、後悔していた。




