第二十八話 もう一度立ち上がる~5月19日~
最近、カルツィにお世話してもらったおかげか立ち上がれるまで回復した。しかし、傷がかなり痛み、まだ万全ではない。
マスターの家のリビング。カルツィとフォンテーヌと俺がソファに座っていた。マスターが俺の定期検診をしているのだ。
「この調子だと6月の終わりにでも戦えそうだな」
「ですね、多分」
「やったね! 」
「よかったね」
二人に抱きつかれ、ふとフォンテーヌの足元を見た。そこにはあの包帯がなかった。
二人から解放されたときに震え声で質問した。
「フォンテーヌは、足……」
「もう治ったよ」
「それはこのボクのおかげだから」
「……はあ」
どうやら俺が寝たきりの間に何かあったらしい。マスターが説明してくれた。
マスター曰く突然現れたこの女の人は居候2号・アリスハイデア初代白魔術協会会長。通称アリスさん。フォンテーヌの師匠の師匠らしい。
トルワード家は海の向こうで無事生きてること、そしてフォンテーヌの呪いはアリスさんにより解かれたこと──いろんな事があったらしい。
「いやあ~テーヌちゃん、面倒なことに巻き込まれちゃったね。スキュード家、敵にまわすなんてねえ」
「……ええ、まあ。そうですね」
もう一つのソファに座り、こんな真昼間からお酒をコップにつがないでがぶ飲みするアリスさん。この人は一体どういう精神なんだろう。
お酒を机に置いたアリスさんはにこにこ笑っている。な、何!?
「まあ頑張りなさい、ナイトくん」
「ふぇ!? 」
「ふふっ、6月になったら特訓を再開して7月にでもあの未知なる生き物を殺しちゃいなさい」
白魔術協会会長ってこんなに凶暴なのか、と身震いをしてしまう。するとただいま、とフォンゲルトたちが帰ってきた。
帰ってくるなりベルは俺を見て笑顔になった。あ、よかった。避けられてない。
「宿屋のおばさんが回復祝いのごちそう作るって張り切っているぞ」
「マスターとかカノンさんの分も作るんだって。だから二人ともおいでってさ」
「そうか。たまにはいいよな、カノン」
「……私はあまりそういうワイワイやるのは好まないんだけど、まああなたが行きたいならいいけど」
いつの間にか真後ろに立っていたカノンさん。さすがすぎて怖い。
「アリス大先生の分は? 」
「あーボクは、ねえ。ほら分かるでしょ? あまり人には会いたくないんだって」
「でもお酒」
「もちろん行くに決まってるじゃないかテーヌちゃん」
白魔術師というのは長生きをするらしい。と言うよりも永遠に生きることも可能だとか。ちなみに目の前にいるアリスさんは1075歳らしい。さっきベルがぼそっと言っていた。
「それじゃあ決まりね」
「ああ。俺、歩いていくからな」
「大丈夫なのか? 」
「もちろんだ」
もう一度立ち上がるためには車椅子に頼ってばかりいられない。フォンテーヌはよろよろしながらもきちんと歩いている。負けられない。
夕方。久しぶりの宿屋。おばさんは大歓迎してくれた。たくさんのご飯。宿屋に泊まる他の人や近所の人も来るという。(宿屋近辺はそれなりに建物がある)
「こんにちは」
「ネ、ネリー!? 」
「待ってばかりじゃつまらないわ。たまには、ね」
「ねえ、お兄様。この人はどういう立場にあるの? 」
「あー、その、結婚とか考えていて」
「待っているのよ。私もフォンゲルトも白魔術をマスターしているから」
「なっ、い、いつの間に! お兄様、もう騙されてないわよね」
「当たり前だろう。この人は俺を看病してくれたんだぞ」
「看病……? 」
「まあとにかくミカエルくん、これからも頑張ってね」
貴族の女性らしきその人はネリーという名前のようだ。上品なドレスを着ている。
「美味しい! ねえねえ、ミカエル。私もいつかこんな美味しい料理作るね」
「あ、うん。ありがとう、カルツィ」
楽しい夜はあっという間に終わる。しばらくは歩くことなど日常生活がおくれるよう回復をしないといけない。さあ、忙しくなりそうだ!




