第二十七話 解かれた呪縛~5月6日~
私はもっと明るい少女だった。今は大人しいというのはとっくにアリス大先生には見抜かれていた。さすがすぎる。
「傷はもう治ったのかな? 」
「はい」
「いいわねー。時が止まってるボクなんてパントム大戦に突っ込んだ時の傷が治ってないのよ」
「普段はボクっ子なんですね」
「1075歳のボクっ子、中々可愛いと思わない? 」
「ま、まあ」
呪いは解かれ、歩けるようになったがやっぱりふらつく。しばらく練習しないと。
「あなたは中々素質があるわねえ。いつか白魔術協会会長任せてもいいかも」
「それはシェビア先生が決めることです」
「んもう、あなたは弟子の弟子なのよー」
マスターのお家の二階。酒場で居候すると男の目線が痛いらしい。だからここにいる。
「ありがとう。助かった」
「カノンちゃん、マスターは? 」
「今の時間は酒場にいる」
「そ。じゃあしばらくはゴロゴロしてよ~っと」
私はアリス大先生について知りたくて、ソファに座り、ベッドでゴロゴロし出したアリス大先生に質問した。本当に何気なく。
「あの、アリス大先生はパントム大戦で何が? 」
「──帝国関係者には言えない」
「……ご、ごめんなさい。ツラいだろうに変なこと聞いて」
「いいのよ。帝国は私、嫌いだけどテーヌちゃんは好きよ」
厳しい顔をしたアリス大先生はすぐににっこり笑った。
帝国関係者には言えない何かがあったのは間違いないだろう。五大英雄との確執かな?
「まあ帝国の忘れ形見が二人も残ったのはびっくりよね~」
「そうですか? 」
「そりゃあ弱虫王子に何が出来るか、って思うじゃない? だからテーヌちゃんを殺そうとしたのよ。テーヌちゃんの方が兄より気丈でしょ」
「兄は弱虫王子なんですか? 」
「ええ、酒場でよく聞いたことあるの」
「どうして……私は強くなんてないのに」
「あんなに顔色悪い王子、弱虫って思いたくなるものよ。婚約者の屋敷から帰宅するときいつも顔色悪くてね」
「そうだったんですね。知りませんでした」
「じゃ、おやすみ」
私は炎の中、消える両親を思い出してしまった。私は助けたかった。大先生は今の感じからすると王都に住んでいたようだ。それならなんで──助けなかったのか。理由は簡単だ。
『帝国は私、嫌い』
なぜ毛嫌いするの? 両親ぐらい助けてもよかったんじゃ──そう尋ねたかった。でも、すやすや眠る彼女にそれは聞けなかった。




