第二十六話 報告会~4月28日~
カノンさんの都合というか全員集まらなかったため、この日まで延長された。ベルは帰ってくるなり、大量の紙を目の前に置いた。
「すごいことが分かったの。──皆には詳しくは言えないけど、トルワード家は海の向こうで生きてる」
「証拠は? 」
「私が説明するわ」
「し、白魔術協会会長! 」
「あらあ、お久しぶりねえ。テーヌちゃん、あれからどうなのぉ? 」
「じ、順調です」
「そう、よかったわぁ」
フォンテーヌをテーヌちゃんと呼ぶなんて……。実の兄ですら出来ないことをこの人はなぜ?
「私、顔見知りなんだけどリュメヒ家から追われてるらしいって相談受けたの。だから逃げなさいって」
「そんな」
「本当ですか……」
ミカエルたちががっくしとうなだれる。白魔術協会会長はにっこりとなぜか笑った。
「早く国を造ればいい話よ」
「でもトルワード家はカルツィオーネは必要としないと話していた」
「……あなた、そんな絶望的なことをすぐ言わないでよ」
「──それが現実」
「はいはい。ええと、マスターって人に報告すればいいの? 酒場に行きましょう」
そして白魔術協会会長はぽつりと呟いた。気のせいかもしれないが──『師匠様、いるのでしょうか……』と聞こえた。
残念ながらミカエルはお留守番。あまり聞かせたくないからちょうどいいらしいが。
いつもの酒場。賑やかさが増している。いつものカウンター席が埋まっていたので、奥のソファに座る。酒臭い女性の横に──
「師匠、様? 」
「んあ? ──シェビア? 」
「師匠様! 会いたかったです! 」
「ちょ、抱きつかないでよぉ、傷が痛むってばぁ」
べろんべろんに酔っ払っている《師匠様》という人はどうやら白魔術協会会長ことシェビアという人の知り合いらしい。
「テーヌちゃん、この人が初代白魔術協会会長。今はその欠片もないけどね」
「お酒はおいしいわよ~痛みも忘れられるしぃ」
「は、はじめまして。フォンテーヌ=デビジャアールと言います」
「あらっ、帝国の忘れ形見じゃないの」
「で、白魔術協会会長が直々に訪れるとはそれほど深刻なのか」
「ええ、まあ」
ころころ笑う初代白魔術協会会長もそれを聞いて笑うのをやめ、真剣な顔になった。しかもマスターに水を要求し、マスターが持ってくると一気に飲み干した。
「この子がトルワード家の黒魔女・カルツィオーネか」
「え、分かるんですか? 」
「当たり前でしょ。最近は有名人の名前だけ覚えるようにしてるから。そうでもしないと生きれないから」
「さすが1000年以上生きてるだけあるわ、師匠様。成長したのですね」
「失礼な。──トルワード家に黒魔女を生まれるよう仕組んだのが黒の魔術師。リュメヒ家はおそらく黒の魔術師の言うことを信じているし、あの家自体黒魔術の使い手だろう」
「そ、それじゃあ私は、ある意味呪われてるの!? 」
「落ち着いて。リュメヒ家は策略家だからきっと滅ぼすためトルワード家を仲悪くさせる気だった。あの日集まったのも、カルツィオーネを殺すかどうかの親族会議のため。トルワード家が全員集まるなんて中々ないから──」
「もう、分かった。私、もう、会ってくれないんだね」
「安心しなさい」
泣き出したカルツィをなだめる初代白魔術協会会長は美人だった。さっきまでの酔い方はなんだったんだ?
「仲直りするための方法はある。あなたが両親の目の前で黒魔術から解き放たれれば、きっと仲直りできるから」
「そ、それをどうやってするの? 」
「まずは安心して永住できる国づくり。あのミカエルという名の少年をサポートして王妃になりなさい。そして──リュメヒ家をとめなさい」
「はい……! 」
俺の横ではベルがもらい泣きをしていた。フォンテーヌは初代白魔術協会会長をキラキラした目で見つめている。全く。
「私は新しい国が出来るまでここに居候する」
「はいはい。お酒の上限はつけるからな」
「ケチー」
「お前、今日だけでどんだけのんだか分かってないだろ」
「うっ、ごめん」
次はフォンテーヌの呪いだが、初代白魔術協会会長曰くどうにかする、と。少しは安心かもしれない。




