第三幕 弟子
黒の魔術師との対決からどれだけたったのだろうか。王女は立派な人と結婚をし、ボクの家を訪れるのがめっきり減った。──別にさびしくはないが。
今日は久々に酒場で飲むことにした。王女が全て自由にしたのだ。それにボクは白魔術協会会長だ。
「──この国、滅ぼそうぜ」
「ああ、そうだな」
後ろでひそひそ話しているのはリュメヒ家たち。止めたかったが、最近の彼らの異常さは止められない。
ある程度酒を飲み、ほろ酔い気分で家に戻る。祭りというバカ騒ぎに参加することも考えたが、あまり人と関わるのはよくないと師匠昔しこたま言われた。
「あ、お帰りなさい……師匠様」
「……え!? で、弟子!? 」
酔いがさめるほどびっくりした。ボクに、弟子!? 悲劇をうみたくないがゆえに絶とうとしたのに。
「ご、ごめんなさい。お母さんに捨てられたんです。お前は魔女みたいに性悪だー、って」
「あら、そう。ボクは弟子をとる気ないんでね。──二度と魔術で人々を悲劇に巻き込みたくないから」
「そう、ですか」
彼女はそれじゃあ、とにっこり笑った。
「私が魔術で人々を必ず幸せにしてみせます」
「……その前に名前、教えてくれる? ボクは人の名前覚えないようにしてるから毎日言ってくれるとありがたい」
「シェピアです。名字は名乗るなとか言われました」
赤の魔術師には姪がいると聞いたことがある。何度か似顔絵を描いてくれたが──いや、まさか。
「師匠様? 」
「いや、その……お母さんは魔術が嫌いなわけ? 」
「ん、そうですよ。赤と白が嫌いだそうです」
「ふうん。それで。──白魔術を取得したら全てを失うが、構わないの? 」
「え、ま、まあ」
赤の魔術師をある意味死に追いこんだボクは確かに恨まれる。まさか、とは思うが。本当に、まさか。
酔いを本当にさますべく冷水を飲む。この時期の冷水はキツいから、さめる。
「ところで私は何をすれば……」
「ううむ、白魔術はほとんどがケア系だからちょいと難しいんだ」
「が、頑張ります」
ここから彼女の特訓は始まった。




