第二十一話 トルワード家、意外な真実
あまり隣国には行きたくない。カルツィとミカエルをほぼ二人きりにしてしまうから──じゃ、じゃなくて! デビジャアール帝国時代、大喧嘩をしてしまったから。そう、あたしの未来の旦那さんと──。
あの時は兄に反抗心をかなりむき出しに、必死に抵抗していた。もちろん結婚だってステキな人をいつか見つけてするものだとあたしは思っていた。だから、旦那さんに些細なことで文句を言った。そして──。もう過去のこと。忘れないといけない。
その時、見知った顔が目に入った。あ、無視しよう。
「やあ、こんにちは」
「こんにちは、王子。まだナンパしてるの? 」
「まあね。中々女性は僕の美しさに気づかないけど……」
「気づく方がおかしい」
喧嘩して飛び出し、『やってしまった』とあたしが泣きじゃくっていた時に慰めてくれたのがこの王子だ。親しげに接してくれた。ただし変態野郎である。
「今日は何の用で来たんだい? この国は最近、物騒だからお話聞いてあげるけど」
「物騒? あの時は平和だったじゃない」
「あの時は、ね。最近、よく事件が起こるんだよ。身分が高い者から低い者まで。色んな人をターゲットにされちゃってるものだからね、こうして女性を守ろうとぐふうっ」
「事件を理由にナンパだなんておかしい」
「だからって王子を殴るなー」
「……とにかく、どこかでお話しよう」
「はいはい、王宮においで。よければ僕のベぐふうっ」
王宮は消失した宮殿に劣るが、まあ立派なものである。そこに旧デビジャアール帝国の公爵の妹を招いても大丈夫なのだろうか。
王子は番人と少しおしゃべりをしたあと、あたしを王宮内に入れた。──閑散としている。
「し、静かすぎない? 」
「大臣もメイドも怖がっているんだ。家族が心配だ、とか、死ぬなら家族と死にたい、とか色々理由つけて地元に戻っちゃった」
「王様は? 」
「──応接間にいるから、そこに行こう」
家族と死にたい、か──あたしには家族なんて、お兄様しか、いない。
こじんまりとした応接間では、王様と女王様が深刻そうな顔をして座っていた。そこには大臣が一人ついている。
「この人はヘンベルンツ=ト・モルさん。用事があるらしい」
「ほう、事件のことか」
「いえ、その──トルワード家についてです。五大英雄の内使い物になるのがいなくて、聞いても無駄だったんです」
「それで、ここに。ふむ。──そろそろ全てを話すべきかね」
「? 」
王様に代わり、傍らの王妃様が紙を渡してくれた。そこには、そこには──。
「血なまぐさい戦争の果てに? 」
「未だに五大英雄は争っていますのよ。トルワード家は身を引いたので四家、ですが」
「そんなっ……じゃあ、あの集まりは……」
「あなたのお兄様を惑わすためだけの茶番です。まあリュメヒ家ははなからあなたのお兄様とは会う気はなかったようですが」
「それとトルワード家の行方不明は」
「戦争が嫌になったら国を出て行く、という約束を確かしていましたわ」
「……それでは、デビジャアール帝国と協力したのも」
「デビジャアール帝国建国の話自体、ほとんど美談ですの、あとから描かれたただの美談」
ズバリと言われ、あたしは愕然とする。なぜ争わなくちゃならないの? お父様は──。
「ちなみにト・モル家は事実上撤退、かしらね? 」
「ん、ああ。そうだな。2年前から見かけないな」
「……お父様は、生きていたのですか」
「そうよ。──争う理由は前の前の帝国が原因よ」
「あの素晴らしい帝国のことですか? 理想郷とまで言われた王都を作り上げた……」
「そんなの戯れ言よ」
王妃はかなり低い声で言った。怖い。
理想郷と呼ばれた王都を作り上げたパントム帝国は1000年以上栄華を極めた後、突然崩壊した──あたしはそう聞いている。そしてその後パントム大戦とまで呼ばれた戦争が起きたことも。
「あの帝国はリュメヒ家のように抑えつけていたの。王都は確かに素晴らしかったわ。でもね、規則が多すぎたのよ。それである日、戦争を起こそうって言い出したやからがいてね。それで──」
「その前に素性を明かさないか? 」
「そうね。私たちは」
王妃がにこりと微笑んだかと思ったら、顔が崩れ、知らない顔になった。え?
「初めまして。五家の戦争管理をしている白魔術協会会長・シェビアです」




