第十七話 乙女たちの葛藤
「ねえ、ベル。誰が撃ったのかな」
「……多分、リュメヒ家の人間よ。見ていないから何とも言えないけど、貴族以外ありえない。しかも大概は護身用だから」
「へえ」
「おい、二人とも。マスターの家に来い」
マスターという人は酒場を開く前はお医者さん──それも、宮殿の専属の立派な人だったらしい。だから安心して任せられる。
王都の南側にあるマスターの家はこじんまりとしていた。
「マスター! 」
「慌てなくていい。致命傷は幸いにもないが、何しろ20発あてられてるからなあ」
「銃ってことはリュメヒ家が!? 」
「そ、それで意識は……」
「まだ回復はしていない。主に右側と足を狙われていることを見ると、行動を封じるためだろう」
「そんなっ」
しばらくは安静だということで私は落ち込んでいた。マスターは酒場に戻った。
マスターの家のリビングで私とベルは並んでソファに座る。ふかふかで、あの伯爵の家を思い出す。
「……ねえ、カルツィ。カルツィは、その……好き、なんだよね」
「……え」
「最近、ミカエルの為に一所懸命頑張ってるでしょ? それ見てると……分かっちゃうんだよね」
「う、うわ、バレてたかぁ」
ベルは黙り込んだ。あれ? あれれ?
「あ、あたしもなの。つい、素っ気なくしちゃうんだけどさ」
「そうなの? それじゃあ……」
「カルツィの方がお嬢様だし、伯爵の力も借りれる。あたしなんか……相応しくないから」
「そ、そんなことないって! 確かにお嬢様だったかもしれないけど、事件で散り散りになっちゃったし……伯爵には会わせる顔もないし」
「ううん。あたし、諦める。そうでもしないともやもやしちゃってそれどころじゃないもの」
「そっか。えへへ、じゃあ頑張ってアピールするね」
「頑張ってね」
泣きそうな顔のベルに私は黙ってしまった。ベルの方がいいに決まってる。素性不明の私なんかに、振り向いてくれるの?




