第十話 特訓~3月27日~
「ところでフォンゲルトは剣術はどれぐらいで身に付いたんだ? 」
「5歳の時からじっくり時間をかけて一通りできるまで5年、きちんとできるまでさらに5年だ」
「うわー大変だな……」
「仕立屋の方が大変だろ」
二人で笑いながら酒場で話をする。いい友達に会えて嬉しい。
剣術を教えた後、毎日こうしている。カルツィはこういうところが苦手、と言っており、フォンテーヌと共に留守番中である。
「いや、俺は姉がいるからなあ。親からも好きにしたらいいって。なんなら公爵の屋敷で働いたら?って」
「いや、それはやめておけ。ト・モル公爵の家は本邸と公爵の母親専用の屋敷、公爵の父親専用の屋敷、ヘンベル専用の屋敷、公爵専用の屋敷があるから。広すぎるから」
「一人一個家あるのか」
「らしいぞ」
するとマスターがやってきた。酒を持っている。
このマスターには随分と世話になった。大火傷を負って這い出てきたフォンテーヌの世話もしてくれたし、愚痴もきいてくれた。
「フォンゲルト王子、幸せそうだな。帝国があった頃は毎日愚痴ってたのにさ」
「いいだろ、別に」
「ミカエル、だっけな。フォンゲルト王子はもう権力を持たないが、理由分かるか? 」
「え? 帝国が滅んだからでは……」
「父親から位を受け継いでいなかったからだ。まあそれを言ったのはトルトンという大臣なんだがな」
「……よく分かりませんね」
「トルトンが一方的に言っただけさ」
トルトンは怖い。『お前なんかはもう王子じゃない! 』と言われたとき、フォンテーヌは震えていた。俺も怖かった。
「対抗できなかった俺も悪いんだが、トルトンの背後にはリュメヒ家とかかなり有力な奴らがいたし……戦争を避けたかった」
「リュメヒ家って? 軍事力持ってるのか? 」
「……国造りたいならこれ読めよ、ミカエル」
「うわっと、ありがとうございます」
マスターは本当に色々持っている。凄い。
ミカエルに渡された本、宮殿で見たことあるような……。気のせいということにしよう。
「いいか? きちんとした国造れよ? ちゃんとした人と結婚して」
「は、はい」
「そろそろ宿に戻ろう」
珍しげに本を見ているミカエル。そりゃそうだ。いくら文字が読めても本なんて貴族の物だ。
そういえばヘンベルはどこに行ったんだろうか




