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bond・ties  作者: スケスナ
9/12

stage8・伝心

間違いなく突き刺された



確かに腹を突かれた



確実に突き抜けた





「!!!!」




ベッドから飛び上がるように起き上がった夕愛の心情は生きている事への安堵だった。




「ぁ……」



しかし腹は痛む。

思わず押さえた。




しかし斬れたように鋭い痛みではなく鈍い痛み。




「目が覚めた?」




ハッとし夕愛は部屋を見渡す。


部屋の壁は本が詰まった本棚と床には配線が巡り合わせられていた。




「…重さん」




配線をたどった先には機材。

しかしその機材は一部切り取られたように空間が空いていた。




その機材の前に座る重の姿。





「重さん…わた」

「我が后よ!!無事であったか!!」




飛んできたような勢いで夕愛の腹に飛び込んできた黄色い物質。



「ぐふお」



ちょうど痛む鳩尾にヒット。

夕愛はプルプルと小刻みしながら飛んできた物質を掴み上げた。





「………」




狐。

それも耳が何処と無くでかい。


サイズは夕愛の手のひらにギリギリ乗せられるくらいのミニマムサイズだ





「む、なんだ?我が后よ。余のいっそう美しい獣姿に惚れ直したか?」



葛の葉だ


狐になっても態度は変わらない。しかし夕愛は腹の痛みとは別にプルプルと小刻みに震える。





「かっ、かっわいい……」


思わず抱きしめ頬擦りをしたいくらいだ。




「余をかわいい?ふむ、ちと納得はいかんが…

良いぞ!!余を称賛するがよい!!」



「葛の葉!

頼むから話をそらさないでくれよ…」



呆れたようにため息をつく重に葛の葉は渋々と夕愛の手からスルリと抜けた



「本当に我がマスターは口が煩くて敵わん。」



一言文句を吐くと葛の葉はクルリと一回転、宙返りをした。



人間姿になった葛の葉は夕愛が寝ているベッドの端に腰を下ろした






「あの、スレーブは…」



「君のスレーブはもう目が覚めて自室にいる。」





「一撃で気を失った自分が情けないんだろう。



うむ、おまけに女に生身の攻撃。プライド高きあの男だ。落ち込んでいよう



…………故に、余も理性である残像であるが、あの忌々しい声の主に斬られ術を解いてしまった挙げ句、我が后に傷を……全く…無念だっ!!」




悔し気に顔を歪ませる葛の葉に夕愛は悟った。



今自分が感じているのは『敗北感』。




「スレーブの所に行くか?」



あぁ、そうだ。誰よりも敗北を感じているのはスレーブのはずだ。




「はい」




一心同体。

…なのか。夕愛の中に敗北感とは別の感情が沸き上がってきた。




『悔しい』



その感情は怒りに似た悔やみだ。歯ぎしり、眉をひそめ、目を見開き、拳をつくり、やるせない気持ちが膨らむ。


スレーブの気持ちだろうか。

伝わる。

伝わってくる。






夕愛はベッドからおり重の部屋から出て自室に向かった。










「スレーブ」



自室のソファーにはスレーブが寝そべっていた。

何処か上の空を見ている。




「…」



そしてマスターである夕愛に口を開こうとしない。




「スレーブ、」




もう一度名前を呼ぶ。




しかし無視だ。




「スレーブっ!!!!!!!」



大声を上げたとたん、夕愛の頬に何かがかすめた。




クッションだ。




クッションは壁に激突した後地面に力なく落ちる




「…るせぇ、その名前で呼ぶな。スレーブ?俺の名前じゃねぇな。」




怒気をさらけ出し、さらに殺気を醸し出す。思わず足が震えそうだ




「落ちついて、」



「本当に、呑気な野郎だ。


てめえは悔しくねぇのか!

あいつ、あの女に一撃でやられたんだぞ!?

何も、傷ひとつ付けられない状態で!!」




あぁ、伝わってくる。



『敗北感』、そして『恐怖』や『諦め』を感じ変に冷静になっている自分とは別の感情が伝わってくる。


『怒り』『悔やみ』『やるせない気持ち』


スレーブの気持ちだ。






「悔しいに決まってる!!」



夕愛はソファーに腰をおろすスレーブの胸元を掴んだ




「あんただけが悔しいと思うな!!」








揺さぶるように掴む胸ぐらの力を強くさせる。




「私らは、一心同体だろ!?。あんたが悔しいと思えば、私だって悔しいんだ!!

私はあんたの気持ちが伝わる!!

伝わってるよ!!

ムカついて、悔しくて、やるせない気持ちが!伝わるんだよ!!









なのに、










なのに、










どうして私の気持ちは伝わらないの」




夕愛の握力が弱くなり、ストンと力なく落ちる。




重力に逆らわず、項垂れる。





「お、おい」




慌てた様子でスレーブは夕愛に声をかける





「わかってる。



私が悪いんだ。

あんたの名前を思い出せないのも、力を出せないのも、私のせいだって。



悔しいよ。ムカつくよ。苛立つよ。




私自身に、腹がたつ。」




夕愛の情けない鼻声は部屋に響く。





「………ごめんなさい、何も思い出せなくて」




顔を上げた夕愛の表情は目の前の人間に謝罪する、犯罪を犯した人そのものの顔だった。





「………、………」




スレーブは何も言わずに口を閉ざした。



ただ、夕愛のスカートの端に手を伸ばし掴んでいた。



そっぽ向き、興味なさせげで頬杖をついているが、夕愛に伝わる








『わ る か っ た』




不器用な謝罪。



しかし彼なりの精一杯言葉にした謝罪。


夕愛はそっぽ向くスレーブの手に触れた。



ぴくっ、と微かにスレーブの手が揺れればスレーブは夕愛の顔をみた。





「仲直り」



夕愛はスレーブの手を握った。



目を見開き驚く表情をするスレーブに夕愛は少年のような笑みで微笑んだ。





「ふん」




やはりスレーブは素っ気ない返事だが微かに、口角を上げていた。





一心同体。










2人以上の人が、心も体も1つであるかのように力を合わせて行うこと。











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