stage6・作戦1
「よし、機材運び完了」
会議室の中心にある長い机の上には沢山の機材。
そして体力的に死んでる人間が三名。
「てめっ…この俺をこき使うなんて…いい度胸だ!」
「この仮はいつか倍返しで返してやるわ!!」
「…………もうなにも言わん…」
上から夕愛のスレーブ、蝶桜、小明。
「お、お疲れ様…デス」
申し訳ない。そんな気持ちでいっぱいだ。
「なんで…なんで俺がこんなに動いてチビマスターは動かねぇんだ!!」
スレーブが夕愛に指を指すが夕愛は答えない。
「ばかもの!!」
パコーン。
スレーブの額に一撃。
扇子がぶっ飛んだ。
「ん何すんだ…くそがき…」
「余の嫁に動け?働け?名のある貴族は手下に働かせるものだ。さぁ、働け…奴婢共よ」
いい感じに見下す葛の葉を膝に乗せ若干困り果てる夕愛。
「そいつは俺の下ぼ…じゃなくて…マスターだ。」
なぜ言い直す
なぜ躊躇う
なぜ間を開けた!?
我がスレーブよ!!!。
「さて、漫才はそれまでに。」
ギッ、と椅子が音を立てた。
重の席は機材運びのため扉に近い下座になった。それと同時にバックにはホワイトボードがある。
「こんないい機材、どこにあったんだ」
小明が液晶とキーボードが揃った機材に触れながら質問をした。
「目覚めた時から、俺の部屋にあったんだ。
最初は使い方を忘れていたんだけど、今はもう完璧。思い出せる」
カチャと重はスイッチを入れた。
「まさか、その機材の使い方を思い出したから…」
「あぁ、葛の葉の能力が現れた。
葛の葉、お前にしか出来ない仕事だ」
スレーブと睨みあっていた葛の葉は夕愛の膝から降り、次に重の膝に乗った。
「ふむ。下座に固い座布団。気に入らぬが古い休憩所と考えれば粋なものだ。」
文句を言った後、葛の葉は機材に手を翳した。
「『解』」
葛の葉がそう呟いた瞬間、葛の葉の体が光に包まれた。
そしてゆっくりと重の膝から離れていき、重の座る椅子の隣に移動をした。
光の中にいる葛の葉は意識を失っているのか
体をすべて光に預けリラックスをしているようだ。
「さて、これから探索を行う。」
「いよいよ建物の外に出るのか」
小明の一言に緊張が走る会議室
「建物に出てもらうのは…」
重は夕愛の方を見た。
「夏目 夕愛。」
「そう、君たち。
夕愛さんと、名も無きスレーブ」
夕愛とスレーブは顔を見合わせる。
「重。一言言うけど」
「小明、君の言いたいことはわかる。
名前以外思い出せないマスターなら未だしも.
名も、この世界のルールも忘れたスレーブのコンビなんて不安なんだろ?」
小明はゆっくり頷く。
「あたしは全部思い出せた訳じゃないけど…少なくても夕愛より思い出している。」
「過去を思い出してなければ同じだ。」
「でも、」
夕愛の事を思っての小明の判断だろう。
引き下がらない小明に蝶桜は口を開いた
「未知なる世界で生き残る秘訣は情報を得ることよ。
情報を多く得れば得るほど生き残る確率は十分高くなるわ。
いい事?小明。
今一番情報を持っているのは重さんよ。
重さんの言うことを聞いた方がいいのよ」
理論的な蝶桜に重は頷いた。
「……」
腑に落ちない表情を浮かべる小明に夕愛は近づいた
「ありがとう。小明。」
「…は?」
「私に気を使ってくれてありがとう。
大丈夫。
なんとかなりそうな気がするから。」
少年のように屈託のない笑みで笑いかけると小明は体を引いた。
「わかった。無理、すんなよ」
「ありがとう」
夕愛は重の方を見る。
「重さん」
「わかった。
まず外は未知なる世界だと言うことを忘れるな。
この建物にある外に通じる出口はあったが、多分体に負担がかかるだろうな。」
「どうやって行くんだよ」
「スレーブが動物化になるのはスレーブの気紛れによるものだが、
動物化になる事で多少の状態変化に対応でき、防御力があがり、自然に回復をする事ができる。
出口を潜る際には、スレーブの動物化を徹底してくれ」
「スレーブはそれでいいけどマスターはどうすんだ」
スレーブの質問に重は理論を唱える
「マスターとスレーブは何かしら強い力により結び付かれている関係だ。
一心同体、そう呼ぶのが一番しっくり来る。
スレーブが死ねばマスターも死ぬ。
マスターが毒に犯されればスレーブも同様の苦しみを味わう
だからスレーブが動物化をして体の負担が減ると言うことは、マスターも同じことだ」
しかしその言葉に夕愛は頭を捻る。
「一心同体、なんて感じたことないなぁ」
「それはまだ君がスレーブに頼りきってないからだ。」
「あ゛ぁ!?」
なぜかスレーブに睨まれる夕愛。
「一心同体になったとき、スレーブはマスターのために戦いマスターはスレーブのためにサポートをする。
まぁ、体験が一番早いからな。体験すべし。」
親指を立ててそう言った重に対し、先ほどよりも不安になった夕愛はスレーブを見た
「はっ、バカマスターのサポートなんていらねぇ。
俺が障害を蹴散らしてやる」
なんと頼もしい唯我独尊。
「今回の探索ミッションを整理する。
マの世界の情報はある程度あるがまだまだ少なすぎる。
これじゃあ脱出もくそもない。
少しでも多くの情報を集めたいが、今の葛の葉の能力じゃ限度がある。
小さな情報でもいい。
夕愛さんと名も無きスレーブ、任せたよ」
スレーブは楽しもうとほくそ笑み
夕愛は不安げにしかし覚悟を決めたように頷いた