stage4・物質交換
さて、復習をしよう。
ここはマの世界と呼ばれる、死と生の間にある世界。
生の世界は本来生きるものがいるべき場所、現世。
現世で死んだものは死の世界へ行き、死闇に葬られ闇に溶け込む。
マの世界は死闇でも現世でもない、その中間地点。
その中間地点であるマの世界は、完全に死んでないものがさ迷う世界である。
この世界は時間と共に現世にいた時の過去をジワジワと吸いとる。
最終的には自分が何者かもわからなくなり正気を無くし生きることを挫折し、自ら死闇に身を投げ出す。
それを唯一防げるのはの条件が満たせる者、マスターとスレーブ。
何かしら強い力により結び付かれ、行動を共にする頼もしい相棒がいる人間。
マスターの過去が覚えていればいるほどスレーブが強くなる。
スレーブは自分の名前と闘う事とこの世界のルール以外現世の事はなにも覚えていない。
スレーブが現世の事を思い出すには、マの世界を出て現世に戻ること。
マスターは自分のいるべき場所である現世に戻ること。
そのためには、自分を失うことは決してない。
唯一、安全を保証され確保されているマの世界にある建物を出て、数々の障害を突破しなければならない。
そうなるならば二つ、選べる道がある。
自分を失うことは決してない建物に永遠に引きこもるか、危険や障害を突破しながらも、マの世界から脱出を図るか。
建物にいるスレーブ&マスターは7組。
「……なるほど。
じゃあ私達はとりあえずこの建物を出て出口を探せばいいのか」
「なるほど。
俺達は目の前に現れる障害物を片っ端からぶっ飛ばしつつ出口を探せばいいんだな」
「何で後者はそんなに暴力的なんだ」
後者、男の発言に小明は突っ込みを入れる。
「極好《素晴らしい》!!!!そういう単純的回答大好きよ!!」
蝶桜が手を叩きながら褒め称える
「ふん、誉めてもなにもでないぜ」
「いやアンタ遠回しに単純と言われてるからね。」
照れ笑いをする夕愛のスレーブに苦笑いしながらも教える小明。
「難しい話は割に合わないの。」
ノーコメントだ。
美女はどんな顔をしても美しいのがよくわかった。
そんな蝶桜を見て頬杖をつく小明。
「ねぇ」
「ん?」
夕愛の視線は小明の指に。
もっと言えば指に嵌めているあの金属製の指輪。
「あぁ、この指輪?」
小明が夕愛の視線に気付きそう解いた。
夕愛は返事の代わりに頷いて見せた。
「物資交換だ。」
「私達がベストパートナーって言う証拠!
……てゆうか、誓いかしら…」
ふふ、と含み笑いをしながら言う美女に夕愛は自分のスレーブを見る。
「お前は何もらったんだ」
スレーブの問いに蝶桜は片足をあげ、中々際どい体勢になる。
蝶桜の足首には数個の金輪がシャラと音をたてた。
「足輪?」
夕愛の問いに蝶桜は足を下ろし頷いた。
「えぇ。丈の長いドレスだから見えないだろうけど、良いでしょ?」
「本当は腕輪なのに」
ご機嫌な蝶桜に拗ね気味の小明。
その二人を見た夕愛…ではなくスレーブは、
「……くだらねぇな」
と悪態付いた。
「それはお前らが同性で似ている服装を身に付けてるから物資交換できるんだろ?
俺とこのチビじゃ、割にあわん」
二人の反感を買う前に理由を述べれば二人は納得した。
「そうだね。
あんたの黒紺羽毛パーカーコートと夕愛の服装は対象的だからね」
夕愛の服装。
黒にピンクのチェックが入ったリボンを胸に飾り、紺のブレザーの中には真っ白のブラウスを身につけ、ヒダ型のスカートはブレザーとお揃いの紺色。
「暑くないの?」
夕愛の問いにスレーブは別に、と言いつつ夕愛のリボンに手を伸ばした。
「?、リボンがどうかした?」
「……、別に」
問いが少ないスレーブに首をかしげると、夕愛の耳にシュルシュルという音が入った。
それと同時に首もとの解放感に気がついた。
「いいな、これ…すごく…」
形状をなくしたリボンはただの帯となった。
「……、」
ツッコミなんて忘れた。
目をキラキラと輝かせその帯を見つめている。
その姿をみればツッコミ事なんて出来ない。
「よし」
スレーブはコートの中に入れてある長い髪を引っ張りだした。
「俺の髪に触れる事を許そう」
「………はい?」
急に後ろを向き長い髪をフワリとたなびかせた。
「俺の髪を纏め結え。」
「…………」
文句をいいたい。
が、言ったところで暴言がとぶので、黙って髪に手を伸ばした。
サラサラとしたストレートヘアーだと思ったが、意外にフワフワとした猫っ毛だった。
正直、ヤバい。フワフワとしていて触り心地がいい。
猫っ毛を堪能した後、下の方で一つに纏め、そこから三つ編みをする。
「上手ね」
夕愛の三つ編みをする姿をみて蝶桜が言い出した。
「そうかな?」
夕愛はそうコメントをしながらも手は止まらない。
しかし夕愛の手付きはかなり良く、いつの間にか三つ編みが腰上まで出来ていた。
「縛るものがない。」
そう、長い三つ編みは夕愛の片手により拘束されている
「ほら」
ヒラヒラと帯が目の前に現れる。
「それ私のリボンじゃん。」
先ほど解かれた原型のないリボンが帯として目の前に現れている
「お前のものは俺のものだ」
「もはや俺様…」
ため息を付き、我がスレーブの俺様に折れてその帯を掴み、三つ編みに巻き付けてやった。
「完成したよ」
帯で三つ編みを固定すれば大人しくしていたスレーブは夕愛の方をみた
「どうだ」
「いいよ。短髪にしたみたい」
長い髪の時は少々気だるさがありパッとしなかったが、三つ編みで長い髪を纏めれば短髪に見える。
案外短髪が似合う男かもしれない。
「いいじゃん、かっこいいよ。
でも、夕愛の服装がね……」
夕愛の服装からリボンがなくなった事により、今一つ特徴がない服装になったと言うか、あのリボンはなくてはならないアクセサリーだというのが感じた。
「ならこうすればいいだろ」
スレーブは躊躇なく、夕愛のブレザーのボタンに手をかけ、ボタンを外した。
するとブラウスが先ほどより見えるようになる。
ブラウスは首もとまでボタンを止めているので、息苦しさを感じさせる。
スレーブは首もとのボタンを外し、さらに胸元がさらけでそうな勢いでボタンを外した。
「どうだ」
少々だらしない格好になったが、動きやすい。
それに本人はそれなりに崩したこの格好が気に入った。
「ち、ちょっと二人とも?」
「どうしました?蝶桜さん」
ほんのりと顔が赤い蝶桜は控えめな声で呟き、それを聞いた夕愛が答える。
「あぁ、華麗な少女の服のボタンを男性は優しげに外していく…」
「………」
蝶桜にこれまでにない小明の冷たい視線が突き刺さる。
しかし蝶桜は鉄の鎧如く跳ね返した。
「ねぇ、アンタもなんか頂戴よ」
「あぁ?」
もはや物質交換じゃない。
略奪だ。
夕愛は納得いかない様子でそう言えば、スレーブは頬をかいた。
「そうだな」
スレーブが黒いコートの袖を捲った。
細いが無駄のない筋肉を見る限り、力強さを感じる。
スレーブの手首には真っ暗の腕輪。
勘違いだろうか、
一般的な家庭の飼い猫がつける首輪。大きな鈴がポイントの首輪を。
まさかだが、首輪ではないよな。
「首輪だ」
予想的中
「いやだし、腕につけるから」
スレーブはスルリといかにも簡単に手首からそのアクセサリーを外すとジリジリと夕愛に近づいた
「物質交換だ。な?
信頼しろよ?チビマスター」
「うわあああ。やめろし。近づくなし」
棒読みだが内心はガチで警報がなっている。
焦っている。
「ナメクジが俺に勝てるとでも?」
内心、もしあれが自分の首に着けたら周りから痛い目で見られるだろうな。
とか考えといたら、首をいつの間にかわしづかみされていた。
「いっ!!」
夕愛の叫び声が響くまで後3秒