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bond・ties  作者: スケスナ
2/12

stage1・目覚め

落ち着く………




寒い、深い、暗い。

最低最悪な三拍子が揃う闇の中、夏目なつめ 夕愛ゆめはゆっくりと落ちていく。



(そこは、危険だ)

知っている



(そこは、君のいるべき場ではない。)

確かに。ここは、精神的に受け付けない



(そこは、君がいてはいけない場所だ。)

確かに。ここは、生理的に受け付けない。





しかし、何故か身体共々落ち着く。




母に抱かれた赤ん坊のように、

(違う。それは中毒者が落ち着きを得るために中毒になった原因の物質を体内に取り入れるようもの)



大切なものを抱き締めているような

(違う。大切なものは他にあるはずだ。)




冷たい体が暖まっていくような

(違う。君の体は冷たいままだ。)






安寧、安心、安定、安楽、安全、安静、安泰、安静、安易、安逸、安佚、安堵、安穏、安眠、安閑




自分が感じていた物は

(君が与えられた物は)




(虚)




本当は

(現実は)




どうなの?

(どうなんだ)




(ここにいたいのか?)

こんな場所にいたくない




(このまま偽の安心に堕ちるか)

このまま虚の安心に堕ちたくない



(そこは)

ここは




(どんなに祈願しても)

どれだけ願っても




(どんなに這い上がっても)

どれだけ這い上っても




(決して)

絶対




(夢を)

空を




(見ることは願わない。)

見ることは叶わない。




じゃあ…どうすれば?

(じゃあ…どうするべきだ?)




諦められない

(当たり前だ)




諦めたくない

(無論だ)




諦めない

(そうだ)




わたしは、諦めちゃいけないんだ(お前は、諦めちゃいけないんだ)



わたしは、こんな闇の底のような場所にいてはいけないんだ。

(お前はこんな井戸の底のような場所にはいてはいけないんだ)




でも、這い上がることはできない(なぜ、這い上がることができない?)




もう、這い上がる力なんて残ってないからだ

(なぜ、這い上がる力が残ってないんだ)




何時間、いや…何年も寝ていたようにダルいんだ。力が入らない。

(何時間、いや…何年眠るつもりだ。君は今ここで這い上がらなければならない。)




でも

(でもじゃない)




(確かに君は諦めたくない、諦めちゃいけない、諦めない、と言った)

確かに私は諦めたくない、諦めちゃいけない、諦めないと言った。




(その言葉は、嘘か?)

この言葉は、本当だ。




(では、踏ん張れ)

足腰を




(では、りきめ)

力を




(では、振り絞れ)

声を




(お前は誰だ。)

あなたは誰だ




(俺はお前のスレーブ、)

私はあなたのマスター、




(俺の力を貸してやる)

私に力を貸して




(だから)

お願い




(お前の手を)

貴方の手を




(伸ばせ!!)

貸して!!










夕愛の体に電流が走る



伸ばした右手から爪先へ、





自分は、ただ暗闇に向かって手を伸ばしていただけだった。



誰もいない暗闇に手を伸ばした所で誰も助けてはくれないのに。



疑心暗鬼と一心不乱になって手を伸ばしたところで誰も認識して掴んでくれる訳じゃないのに。



なにやっているんだ。


なにをしてるんだ。


なんて事をしたんだ。



少しでも希望を持った自分が…

哀れで恥ずかしくて滑稽で、自己嫌悪に堕ちる。



あぁ、なんなんの?

期待させといてこれはない。


誰か

誰でもいい

誰でもいいから


私を助けてよ。

私をこの闇から救ってよ。

私の手を掴んでよ。

私の答えに返事してよ。




こんなところ、心地よくない。

むしろ、殺意に似た嫌悪が身体中に走り回り憎悪や拒否が生まれる。


助けを呼ぶために叫びたいのに、喉が燃えるように熱くて…声がでない。


この闇から逃げるために走りたいのに、足が鉛のように重くて…走れない。


誰かの手を掴むための右手は、闇と同化しかかっている。


闇を払うための左手は、闇と同化した。


視界は、闇。


思考は、無。


ココロ ハ、

心 ハ、

心 は、

心は、



大丈夫。

闇に染まっていない。



叫ばなくても、走らなくても、誰かの手を掴まなくても、闇を払わなくても、視界が闇でも、思考は無でも。



心は諦めてない。

気持ちは諦めちゃいけないともがいている。



私が出来ること、










「力を貸して!!!スレーブ!!!」








(おせーんだよ!!!!!!アホマスター!!!!!!)




怒気が溢れる怒声。

そして、闇に一体化しかけていた冷たい右手に暖かい温もりが。






「…、あ」



声が出る。

声が出るのに、言葉、いや単語すら見つからない。



「お前のアホ面に免じて、この闇から救ってやる」




「あなたは…」




「名乗る必要なんてない。

つーか名乗らせるな。


察せ。空気読め。アホ。

つーか馬鹿か、馬鹿なのか、馬鹿なんだな。

生憎…俺、馬鹿は嫌いなんだ。」




視界がもし良好だったら、

間違いなく夏目 夕愛は相手の顔面を潰す勢いで殴っていた。


信意と言う名の殺意が芽生えた瞬間だった。




「何か言いたげな顔だな、

だが文句を言いたいのはお前だけじゃない。俺も言いたい。



………、が。

あんたの体は既に4分の3消えかけている。あんたをこの闇から救い出すのが最優先だ。



さぁ、無力で馬鹿でアホなマスター。

この闇から出ようではないか。」



掴まれた手が痛いほど熱くなる。



だが私はその手を振り払わない。寧ろ、火傷上等で彼の手を握り返した。




「A good decision《良い決意だ》」




歯切れの良い英語を耳に、夏目 夕愛の体は一度光を発したあと、ゆっくりと溶けるように闇に消えた。

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