羽根付きの力
side 翼
「お前ら、ゴミクズの分際で主人の命令を無視するとはいい度胸だな!今まで誰が餌を与えてきたと思っている!さあ、あいつを殺せ!殺すんだ!」
鞭を振り回しながらわめき散らす豚。その近くには鞭で打たれた場所が痛むのか震えながら蹲る少女がいる。他にも、鞭に対する恐怖で泣きながら肩を抱く人が大勢いる。恐らく、俺では想像出来ないほどにあの鞭で打たれたのだろう。トラウマになっている。
「さあ殺せ!さっさと動け!」
首輪が取れても、今までの恐怖から自分には逆らえないと思っているのだろう。確かに、普通ならばそうかも知れない。最初から奴隷で、生まれたときから恐怖で縛り付けていたのなら、彼の作戦は成功しただろう。
・・・しかし、今回に限っては彼の行動は失敗だった。全員が惚けているうちに、全てをかなぐり捨てて逃げるべきだった。地の果てまで逃げるべきだったのだ。それをしないで恐怖に訴えかけようとしたのは、最悪の判断だ。
『この人たちは、日本人だからね。』
そう。彼らは元日本人。自由という言葉の意味を知っている人間だ。今までは首輪の効力で縛られていた彼らだが、その自由を奪ったこの世界に対する憎しみは並みじゃない。豚は、今までの行動のツケを支払うことになった。
バサ・・・と音がした。それは鳥が羽を広げる時の音を何倍も大きくしたような音だった。そして、その音は「すまない」と泣いていた男性から聞こえたのだ。
「いい加減に、しろおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉ!!」
彼の背中、肩甲骨の辺りから、闇色の小さな光の粒が放出される。それは何百、何千も集まって、彼の背中で翼のようなモノを作り出した。
「・・・・・・すげぇ、綺麗だ・・・。」
男に向ける言葉としては適切じゃない。俺はホモとかでは無いし、言われた男も嫌だろう。・・・でも、この時はそんなこと考える余裕もなかった。それほどまでに幻想的な光景だった。
「な、お前、誰に向かって口をきいて・・・!」
「うるせええええ!」
男は叫ぶと、先程のゾンビのような動きはなんだったのかというほどのスピードで突進した。残像を残すほどのスピードで。
「ひっ・・・!」
それが、豚の残した最後の言葉だった。
男が豚の顔を殴った瞬間、豚の顔が潰れたのだ。いや、顔だけではなく、体全体がひしゃげて圧縮される。
グシャグシャと音を立てて豚だったものが潰されていき・・・最後に残ったのは、ピンポン玉位に圧縮された肉塊のみだった。
これにより、彼らは完全に開放された。