異世界の実態
side 翼
「悪いが、今はその問いに答えている時間は無いんだ。」
「うお!」
突然近くで響いた声に驚いて飛び退くと、そこには俺が居た。
「な・・・あ、あんた神か・・・!」
「そうだけど、今は時間が無い。それと、僕の事は<<グノー>>とでも呼んでくれ。」
「え、そ、そうか、分かった。よろしくグノー。」
だが、俺の握手は空を切った。
「御免、今は本当に時間が無いんだ。僕はこの世界の生物に危害を加えることが出来ないからね。その代わり、君に彼らを救って欲しいんだ。」
その顔は、本気で焦っているようだ。それに、この台詞からすると、『生物に危害を加える』用事らしい。なら、俺もグノーの指示に従ったほうがいいだろう。
「分かった。俺は何をすればいい?」
「先ず、この草原を抜けるんだ。あっちに真っ直ぐ走れば、数分で道に出る。君にはそこで、この世界の現実を知って貰いたい。そこでどうするのかは君に任せる。」
「・・・分かった。」
質問したいことは沢山あるが、先ずは道に出ることだ。グノーが何を見せたいのか。どうせ碌な光景じゃないんだろうが、あいつを助ける為に必要なことなら知っておかなければいけない。
「じゃあ、僕は姿を消すよ。心配しなくても君の事を見ているから、安心してくれ。」
そう言うと、一瞬でグノーは消え去った。先程まで誰かがいたという痕跡や気配すら存在しない。
(コレが神様の力か・・・)
関心ばかりしてはいられない。そろそろ行かなければ。
「じゃあ、走りますか!」
(体が軽い・・・まるで羽みたいだ!)
何かの漫画で聞いたような台詞だが、本当に羽のように軽かった。
俺は、所謂オタクという人種だった。太ってはいないが、典型的な痩せ型。運動も、どちらかと言えば苦手な部類だった。
その俺が、オリンピック選手並みのスピードで走っているなんて、一体どんな冗談だ。それに、これは全速力じゃない。まだまだ余裕がある。息も全く切れないし、どうなってるんだ?
『言っただろ?身体能力を強化しておくってさ。』
と、脳に直接響くようなグノーの声。
(成程。それでこんなに早いのか)
『うん、それと、君に与える能力、ちゃんと考えておいてよ。』
(分かった)
と、そんな会話をしていたら、道に出た。
「ここが道か・・・?今どき舗装もされてないのかよ。」
そう、この道は、ただ草木を取り除いて人が通れるようにしただけの、唯の『道』だった。少なくとも、現代日本では有り得ない光景だった。
『これがこの世界での普通だよ。舗装されている道路なんて、王都くらいしかないからね。この世界は、中世ファンタジーだよ。』
(ファンタジー?つまり、魔法や超能力の世界か?)
『その通り。・・・・・・おっと、無駄話はここまでだ。どうやら、来たみたいだよ。」
(どれどれ?)
強化された視力でグノーが示す方向を見る。ざっと数十人の集団がこちらに近づいてくるようだが、どんな集団なのかまでは遠すぎて分からない。
そして・・・それが確認出来る程に近くまで来た時・・・俺の頭は怒りで沸騰しそうだった。
「おおおお!首輪なしの『野良羽根付き』だぜ!?運がいいな俺たち!」
その集団のリーダーらしき男が叫ぶ。
「結構整った顔してるし、男専門の貴族になら、高く売れそうだな!」
その集団は、山賊のような集団と、それに引き連れられた、黒髪の集団だった。黒髪の集団には、全員例外なく黒い『首輪』が付いている。彼らは全員服を着ておらず、体中に酷い痣があったり、酷い場合は腕や足が無い人も存在した。
コレがどういう集団なのか把握した。つまり、これは・・・奴隷商人なのだ・・・。
『そう、彼らは奴隷商人だ。そして、彼らが扱う商品は、『羽根付き』と呼ばれる、『黒い髪と瞳を持つ』人間。・・・彼ら『羽根付き』の前世はね・・・全員、僕の世界からこの世界の神が誘拐していった、日本人なんだ。』
「ぜ、全員・・・?」
突然独り言を言い出した俺に何人かが怪訝な表情を見せたが・・・
「ははっ恐怖で可笑しくなったか?」
という一言で、全員笑い出した。しかし、俺にはあんな奴らに構ってる暇は無い。
「全員日本人だと・・・?何でだよ!?」
『分からない・・・。ヤツが何を企んでいるのか、僕にはさっぱりだ。何故僕の子供たちを誘拐するのか、何故、地球の日本人の魂しか狙わないのか・・・全く分からないんだ・・・。』
その声は、強い苛立ちを滲ませていた。当然だろう。ざっと見ただけで、奴隷の数は30人程。これが商売として成り立つのだから、何百、下手をすれば何千、何万という人数を誘拐されているということになるのだから。
『あの黒い首輪はね、付けた者を魔法で操る道具だよ。アレは、この世界の神が作って、人間に作り方を教えたものなんだ。』
話を聞けば聞くだけ、俺の怒りは上がっていく。
(こんな世界にあいつは攫われたのか・・・?記憶を残したまま・・・?)
地球でも酷い目に会って、自殺するほど追い詰められた彼女に、更に追い打ちをかけようというのか・・・!
『・・・どうする?』
(決まってる・・・)
俺のやるべきことは決まっている。
「助けるさ。今度こそ、あいつを助けてやるよ!!このクソッタレな世界の神様とやらをぶっ殺して、全ての『羽根付き』を救い出す!」
大きく息を吸い込んで、全力で叫ぶ!
「俺は、この世界をぶっ壊す!!!」
話の進め方がかなり強引・・・?時間があれば編集しておきます