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下らない世界

 疲れた。


 俺は、この下らない世界に生きるのが疲れた。だから死ぬ。


 だが、死ぬ前に、あいつの仇は取っておこうと思う。とは言っても、別に一人一人殺していくわけじゃない。この話を聞いて、あのクズどもをどうするかは、その後の世間に任せようと思う。


 もし、お咎めなしと云うのならそれはそれでいいだろう。どうせ、その時には俺はもう世界にいないんだから。だが、俺やあいつの事を、少しでも考えてくれるのなら・・・もう、俺たちみたいな連中を増やさないように努力して貰いたい。俺の最後の願いはそれだけだ。





 先ず、何から書こうか・・・、そうだ。俺の名前は、<<天海 翼(てんかいつばさ)>>だ。家族は居ない。


 夏休み中、家族で旅行をしていたんだが、居眠り運転のトラックに衝突して道路から弾き出され、崖から墜落した。父親、母親、そして弟はほぼ即死。俺だけが幸運・・・いや、不運にも、助かってしまった。因みに、犯人はそのまま逃亡。まだ捕まっていない。


 あれだけの事が起きたのに、治療を終えた俺が真っ先に向かったのは高校だった。・・・どうしても、あいつに会いたかったからだ。


 <<西条 瞳(さいじょうひとみ)>>。俺の、たった一人の親友だった。


 あいつに会いたい、ただその想いだけで学校に行った俺を待っていたのは、絶望だったよ。


 ・・・彼女は、自殺していた。


 俺に知らせると、不味いと病院側と学校側は判断したらしい。俺は、学校に行くまで彼女が死んだことを知らなかったんだ。


 ・・・笑えるだろ?たった一人の親友が自殺するまで思い詰めてたなんて、知らなかったんだから。俺も、家族を失ったショックで自分のことしか頭に無かったからな。あいつが見舞いにも来てくれないのは変だとは思ってたけど・・・まさか、二度と会えないなんて、思いも寄らなかったよ。


 俺は、彼女の自宅へとその足で行った。あいつの家族は、玄関先に立つ俺を見て、思い切り抱きしめてくれたよ。そして、あいつの部屋に上げてくれた。


 


 あいつの部屋は、そのままだった。今にもあいつが戻って来て、大好きなゲームの話を始めるような気さえした。涙が出るかと思ってたが、以外にも出なかったな。・・・悲しむ前にやることがあるのを、本能的に分かっていたからかも知れないが。


 あいつが何時も大切な物を隠しておく小物入れ・・・。それは、何時もの場所に隠してあった。


 その中に入れてあった手紙と写真は・・・・・・、今すぐ包丁を持って、クラスの全員を惨殺してやりたい程の内容だった。詳しい事は、あいつの名誉の為に書かないでおく。警察には送ってあるが、どうか、それの内容を公表するのだけは止めて欲しい。俺の最後の頼みだ。


 「虐めなどはありませんでした。」と学校は言った。「虐めなんてありませんでした」とクラスメイトは言った。挙句の果てに、「元々暗い子で、周囲から孤立していました」と担任は言った。


 ・・・・・・巫山戯るなよ。俺たちが二人で居て、何かお前たちに迷惑でもかけたかよ・・・?お前たちの馬鹿騒ぎについて行けない人間は、全員周囲から孤立してるって云うのかよ・・・?・・・・・・俺たちは、唯、二人で幸せだったのに。その幸せを壊した連中が正義で、俺たちは悪なのかよ?


 許せない。許せない。許せない。絶対に、許さない。


 そう意気込んで実行した惨殺計画・・・結果を言うと、失敗した。あいつを辱めた連中を、一人残らず殺し尽くして、それを見て見ぬふりを続けていた連中にも、それなりの事をしてやろうと思ってたのに。


 それが失敗したから、俺は今、これを書いている。・・・俺には、既に親戚なども居ない。だから、俺の事はいい。唯、あいつの事だけは・・・あいつと同じ悩みを持つ人間を、助けてやってはくれないか・・・。


 残念ながら、俺には、その先を見る権利も気持ちも無いんだが。


 この先、これを教訓にこの世界がもっと光り輝く事を祈る。せめて、あいつの死を無駄にしないでくれる事を祈る。


 これを見ている瞳のお父さん、お母さん・・・勝手な事をして、御免なさい。


 ・・・・・・さようなら。


             


                           ~天海 翼の『遺書』~

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