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『羽小屋』での出来事

side 962番(千里千尋せんりちずる



 私は、ある意味で最も未来に希望を持っていない『羽根付き』の一人だった。それは、私の能力のせいだった。私の能力は”超速再生”。単純故に強力なこの能力は、例え首を撥ねられても心臓を潰されても、一秒足らずで再生させるという異常な能力。・・・しかも、この能力は常時発動型で、流石に翼を展開しているときよりは能力が下がるけど、展開していなくてもある程度能力が発動しているというのが更にタチが悪い。


 つまり、私は寿命以外で死ぬことは絶対に有り得ないということだった。


 戦争に行けば、運が良ければ敵に殺して貰える。炭鉱や危険地域での作業でも、事故や病気で死ぬことは有り得るかもしれない。・・・でも、私は死ねないんだ。


 脳を破壊されても、心臓を潰されてもその瞬間再生し、病原菌は体内に侵入した瞬間駆逐される。死ぬことの無い兵器。私は、これから先永遠に戦場で働かされる事が既に決定していた。


 でも、そんな時、奇跡が起きた。今までどんな方法でも破壊出来なかった首輪をいとも簡単に破壊してくれた人が現れたのだ。・・・どうせ私には戦うしか出来ない。どんな攻撃を喰らっても死ぬことの無いこの体を、私は彼の為に使おうと決めた。これから先、何が起ころうと私だけは彼の傍に居続ける。・・・それが、光の見えなかった未来を救って貰った私が出来る、唯一の恩返しだと思うから。彼の望む事をやり、私達の世界を作る。


 そのための第一歩として、私達のグループは『羽小屋』エリアへとやってきた。作戦開始と同時に、私以外の戦闘要因と回復要因を全て囚われている『羽根付き』救出の為に送り出した。


 私は、敵の迎撃だ。私にはそれしか出来ないのだから。


「大人しく投降しろ。直ぐに私達の仲間がやってくる。逃げ場はないぞ!」


「貴様ら、俺たちに対してこんなことをしてどうなるか分かっているのか?何処の国の人間かは知らないが、この『牧場』は、国営の『牧場』だぞ。つまり、貴様らはこの国に喧嘩を売っているのと同じ事なんだぜ?」


 最初に現れたのは二人だった。何時も私達に拷問をして遊ぶ『調教師』。その中で、何時も一緒にいる男女だった。全身鎧フルアーマーを装備しているので、私が誰だか分からないらしい。本当は私に鎧なんて必要ないんだけど、怪我をしても再生するとは言っても痛みは感じるし、この鎧は殆ど重さを感じない程に軽くて動きを阻害しないので、有難く使わせて貰っている。


 だから、教えて上げることにした。・・・私が、私達が誰なのかを。


「私が誰か分からないなんて、冷たいじゃない。・・・何年も拷問してきた対象よ?」


 その言葉を聞いた彼らは、私の言葉が理解出来なかったようで、ポカンと口を開けていた。だから、私は兜を外して顔を見せる。


「今まで色々やってきてくれたわよね?切り刻み、潰し、抉り、焼いて、刺して・・・他にも、数え切れない程、いっぱい色んな事をしてくれたよね?・・・・・・だから、今度は私達の番。死んでいった皆の分まで、しっかりやってあげるから、覚悟してよね?」


 私が話している間にも、彼らの顔は青くなっていく。方法はわからなくても、私達が自由になったことを理解したのだろう。


「じゃあ、始めようか。」


 そう言って、私は”リミッター”を外す。頭が金槌で叩かれているみたいに痛くなる。・・・でも、様々な痛みを体験してきた私にとって、こんなのどうってことはない。同時に翼を展開。私の翼は、燃え盛る業火で構成された文字道理の翼。翼を展開したことにより本来の力が開放され、頭痛が和らいでいく。


 人は普段、本来持っている体の機能を3割しか使えないように脳がリミッターをかけているらしい。それは、それを使うと負担が大きすぎて体が壊れてしまうからなんだって。だから、自分の意思で外せないようになっている。本来なら。


 私の場合、何年か前に脳に実験をされた結果出来るようになった。麻酔も無いこの世界で、起きたまま頭を切り裂かれ、脳をナイフで抉られたり、魔術で焼かれたり・・・そんな実験。


「同じことをしてあげるよ。」


 リミッターを外した私は、先ず男の方に走った。地面が爆発したように吹き飛び、次の瞬間にはもう男の目の前に立っていた。


「え?」


 腰に下げた剣に手を掛けた男は、その腕の感触が無くなっている事に気が付いた。そして、手を見てみると・・・


「な、無い・・・。俺の手が、無い!!!」


「遅いよ。遅すぎる。まだ全力を出していないのに。これじゃ弱いもの虐めになっちゃうじゃない。」


 そう言う私の手にあるのは、その男の両手だった。引きちぎったそれを無造作に放り投げると、女性の方が先に立ち直ってナイフによる攻撃を仕掛けてきた。・・・でも、


「遅いんだってば。」


 そのナイフを手で弾く。人間に・・・出せる・・・全力の力・・・・で弾かれたナイフは粉々に砕け散り、女性は悲鳴を上げながら吹き飛んでいく。


 私の腕からも、ブチブチという筋肉の裂ける音が聞こえてくるけど無視。一瞬で治るし、この程度の痛みは気にもならない。


「あ、アアアァ・・・アアアアア・・・!」


「う、腕が・・・痛い。痛い・・・痛いよォ・・・・・・!」


 二人分の呻き声が聞こえてくる。・・・でも、復讐を果たしているというのに私の心は全く晴れない。


「ねぇ・・・どうして、こんな悲鳴モノを聴いて楽しめるの?一体、何が楽しいの?私は、貴方たちの悲鳴を聴いても楽しくない。貴方たちが無様に倒れて泣いているのを見ても、全然嬉しくない。・・・ねぇ、どうしてこんなモノを見て笑えるの?」


 駄目だ。始める前は、やられたことをやり返してやろうと思っていた。抉ってやりたかった。引き裂いてやりたかった。潰してやりたかった。焼いてやりたかった。・・・でも、今はもうそんな気は無くなってしまった。虚しくなるだけで、全然スッキリしない。


 だから・・・


「もう、一息に殺してあげるね。」


 私は、泣いている二人の頭部を潰して殺してあげた。・・・きっと、痛みを感じる暇も無かっただろう。


「・・・リッツ!シュライバー!・・・くそ、化け物め、よくも二人を!」


「魔術隊、攻撃始め!」


『”焼き尽くせ”!』


『”引き裂け”!』


『”踏みつぶせ”!』


 ・・・だから、


「大丈夫、痛みは感じないから。」


 私は、応援部隊全員の頭部を、一瞬で破壊し尽くした。大量の死体と血溜まりの中、私は何とも言えない虚脱感を味わっていた。


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